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病弱な悪役令嬢は失恋からの退場ルートを目指す  作者: 清水薬子


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2/2

愛しのアレきゅん♡

 シャンデリラの光に照らされて、銀色の髪がキラキラと輝く。

 腰までの長さで切り揃えられた髪はつやつやとしていて、侍女たちが毎日欠かさず手入れをしていた事が伺える。

 血のように赤い瞳は、無意識に揺れる。

 青白い肌と相まって、姿見に映る己の姿はまさしく人形のように不気味で得体が知れない。


「今日は体調が良いみたいだな、人形姫」


 十二才とは思えないほどに体格のいい少年が、私の後ろに立つ。

 炎のように真っ赤な王色の髪。翡翠の瞳は猫のように鋭く、目尻は気の強さを証明するように吊り上がっている。

 アレクサンダー・フォン・エーゼルバルド皇子。

 私の婚約者にして、断頭台へ移送する最大のフラグである。


 人形姫。

 人とは思えない美しさへの畏怖で名付けられた、ロザリンデの幼い頃のあだ名だ。

 この美貌を盾にロザリンデは皇子の婚約者に選ばれ、我儘放題かつ性悪な女に育ち、挙げ句の果ては断頭台送りとなったわけだが。


 最大の破滅フラグともいえるアレクサンダー皇子とどのように関わるか。避ければ問題になる、ならば私の取るべき選択肢は一つ。

 ゆっくり振り返り、翡翠の瞳と視線が交わった瞬間。


「アレきゅん♡」


 恋愛という人間関係から外れる。好意を向ける。

 この二つを同時にこなさなきゃいけないってのが、婚約破棄を狙う悪役令嬢の辛いところだよな。と、悦に浸りながら甘い声でアレクサンダー皇子────もといアレきゅんの名を呼んだ。


 びしり、と空気が固まる。

 謎の愛称で呼ばれた本人はもちろんの事、壁を背に控えていた側近の護衛たちですら目を見開いていた。


「は?」


 一拍遅れて、アレクサンダー皇子(長いのでこれからはアレきゅんと呼ぶ)が声を漏らした。半開きの口は言葉を探しているのか、微かに震えるだけで意味のある単語を発することはない。目線は狼狽を示すかのように泳ぎまくっていた。

 アレきゅんはゲーム内では自信満々の笑みか、あるいはポーカーフェイスの表情しかスチルで見せない。最後のエンディングで、花嫁姿のヒロインを姫抱きする時に蕩けた微笑みを浮かべるぐらいだ。


 いいぞ。調子を狂わせる相手は恋愛対象になりづらい。安心感がないからだ。

 更に追い討ちとばかりに『おじさん構文』もとい『おばさん構文』をしかける。距離感の近さと馴れ馴れしさ、そして反応に困る一文だ。


「愛しのアレきゅんに会えるならどんな風邪も一発で治しちゃうゾ⭐︎」


 袖を捲り、細腕に力を込める。

 悲しい事に筋肉が盛り上がりすらしなかったが、それでもアレきゅんにとっておばさん構文はインパクトがあったらしい。

 アレきゅんは側近に視線を向け、縋るように震えた声で問いかけた。


「ロザリンデには双子の妹でもいるのか?」

「私は生まれた頃から一人っ子、あなただけのオンリーユー!」


 ばちこんとウィンクを飛ばす。


「もしや病気というのは、精神の方だったのか……?」


 何気に失礼な事をぼそりと呟くアレきゅん。十代は毒舌な表現をするものだ。皇子のコンプライアンスは大丈夫なのだろうか。

 しかし、手応えは十分だ。かつてないドン引きをアレきゅん含めた護衛から感じる。もちろん、私の世話をしていた侍女たちもだ。


「なになに〜♡よく聞こえなあいっ!」


 会話するだけで気疲れする。なんとなく察しが悪そう。

 かといって、悪気があるわけではない。

 周囲の人からそっと距離を置かれるコツが、これだ!


「元気そうだな、本当に。さて、そろそろ公務の時間が近づいてきたので、これで失礼させてもらう……」


 そそくさと退散するアレきゅん。

 本編では、アレきゅんなりにロザリンデを理解しようと贈り物やデートなどを提案し、つまらない話に耳を傾ける甲斐甲斐しさが発揮されていたわけだが……その彼が逃亡したのだ。


 よし。まず一つ目の鬼門、『ロザリンデがアレクサンダーに惚れ、執着が始まる見舞い』を無事に乗り切ったぞ。

 いやあ、まさか前触れもなしにいきなり訪問してくるとは思わなかったが、なんとかなってよかった。


 さあて、この調子でどんどん悪役令嬢のキャラを変えていくぞ!

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