表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夏の雪  作者: つむぎ舞
17/47

乱闘の幕開け

「高森さんがニヤけていますね」

 二年二組の教室の中を見つめながら何となく、「こんなクラスの空気いいな」なんて片肘突いてニンマリしていたのは事実だけれど、特に他意があった訳じゃないんです。

 大福さんにはその姿が誰かのことを想って妄想にふけっている様に見えたみたい。そして大福さんのそんな言葉に元宗さんと相見さんの二人も集合、囲まれてしまいました。

「さては高森さんも教育実習の先生に想いを馳せているのかな」

「そんなのじゃないですよ。確かに中嶋先生とは登下校の行き帰りのバスで一緒になることも多いですけれど」


「何ですと。高森さんばっかりズルいよ」

「中嶋先生ってさ、今回の実習生の中でもイケメン指数がずば抜けてるよね。女子生徒達の間で視聴覚教室前の廊下の取り合いが始まってるみたいだし」


「ちょっと皆に提案。今度の休日にでも高森さんの家に遊びに行ってみようよ。藤村とか中嶋先生とかすぐ近くに住んでるんでしょ」

「いいねそれ。賛成」


 マジですか。私の住むあの古民家を知られるのはちょっと恥ずかしいです。

「反対一、賛成三で可決ね。じゃあそういう事で」

 もう、私の意見なんてお構いなしでどんどん話が進んでいきます。こういう時の三人は止まりません。もう白旗です。


          *          *


 放課後に開催された臨時職員会議。  

 当校で受け入れた教育実習生達の実習状況の確認という事で教師達の意見交換を行う様ですね。視聴覚教室に籠もり今日の反省と明日の準備をしている教育実習生達と同様に若造扱いの私にはこんな時間は退屈でしかありません。

 高森雪緒、本日も出張で不在の中村先生と高橋先生の代役として現在会議に参加中です。何かこう面白い事でも起きないでしょうかね。


 職員室の扉がノックも無しにいきなり開きます。飛び込んで来たのは一年生の女子生徒が二人。

「何だ、会議中だぞ」

 怒りの声を上げたのは三年生の学年主任の倉田先生。

「先生達、大変なんです。校門前に変な奴らがいっぱい来ていて生徒に絡んでる」

「何っ」

 女子生徒二人の言葉に教師達が一斉に立ち上がり、二階の窓から校門の状況を確認します。

 校門の所には二十人ぐらいの他校の生徒らしき若者達の姿が確かにあります。型の違う学生服の集団に交じって派手なジャンパーに金髪に髪を染めた男の姿も、手に金属バットや木刀、チェーンを手にしている者も何人かいますね。

 そんな奴らが校門を占拠して下校しようとする生徒達に絡んで校外へと出しません。

 これがあのDVDで見た学園制覇を目指す地元不良達の『殴り込み』とかいうやつでしょうか。実物を初めて見ることが出来てもう感動すら覚えます。

 さて、次の展開は彼等に対抗すべく我が校の猛者達が校内からさっそうと現われるはずなのですが…。あれ、そんな連中うちの生徒にいましたかね?


 突然の出来事に青ざめる職員室の教師達。

 教頭先生は校長先生に警察に連絡すべきではと進言しましたが、校長先生は待てとその言を押し止めました。

「こんな時にこそ、あの警備員達の出番でしょう」

 奥田先生がそう口にします。不審者対策の為に配置された警備員は実は覆面警察官。彼等の任務は他にあり存在を公には出来ません。

 校長先生は職員室の隅っこに立っている警備員三人の代表である木崎ちゃんに対処は可能かと尋ねますが、彼はその依頼をきっぱりと断りました。


「学生同士の喧嘩は所管外になりますので、我々三人は本件では動くことは出来ません」


「そんな。では、どうするんです校長」

 奥田先生の言葉に校長先生も困り顔。

 校長先生が恐れているのは、世間にこの騒動が暴力事件として大々的に報じられ進学校の名に傷が付くこと。学校の不名誉はそこで学ぶ生徒達にとっても困る事態になります。

 この騒動は木崎ちゃんが言う様に『学生同士の些細な喧嘩』って形で収めるのが妥当って所でしょうか。じゃあDVDの『ご〇せん』の様にジャージ姿の教師が暴れたりは出来ませんねえ。ならば、


「校長先生。私がこの騒動を収めて参りますよ。他の先生方は下校する生徒達を校舎裏のグラウンド側にある細道から下校させるよう誘導して下さい」


「高森先生か、あんたみたいな若造に一体何が出来るというんですか」

「若いから出来る事だってあるんですよ」


 見た目だけですけどねっと、心の中でべえっと舌を出しながら倉田先生に言い返します。更に何か言おうとする彼の言葉を校長先生が切り、すぐに全校生徒をグラウンド裏から退避させるようにと指示を出します。一斉に職員室を出ていく先生達を見送りながら校長先生が私に一言だけ言いました。


「高森先生、前代未聞の不祥事になる事だけは避けたい」

 怯える教頭先生、校長先生も不安に駆られた表情で私に具体的にどうするんですかと尋ねてきます。

「ふふふ、我に策あり」

 不肖、高森雪緒。ここは人肌脱がせて頂きます。


          *          *


 文化部部室棟の部室に現われた私の姿を見て、藤村部長と南君の二人が声を上げます。

「高森さん。その姿は一体、どうしたの?」

「生物室でハムスターに餌をあげていたら、ゆま先生に制服を貸せって言われて無理矢理服を交換させられたんですよ」


「いいじゃん、何か大人の女って感じで決まってるよ」

 でもそんな事を言う南君の視線はちょっとエロいです。ゆま先生の服のスカート丈、短いんですよ。

 私の方が彼女より背が高い分、足も余分に見えちゃって。それにスーツ姿にスクールシューズって絶対変ですよね。 


「うん? 今日はやけに外が騒がしいよな」

 言われてみればそうですね。私が部室に来る途中、帰宅支度の生徒達が一斉に並んで校舎裏の方へと移動していましたし。

 ダダダッって部室棟の階段を駆け上がる足音。生物部の部室のドアがバンッて勢いよく開きます。

「藤村先輩、大変です」

 一年生の幽霊部員の女子二人、隣の旧格技場から急いで来た様です。私達が外に飛び出すと格技場の周りで柔道部員達が黒い制服の見るからに不良って人達十人ぐらいに襲われています。格技場横のテニスコート側の小門から彼等は校内に侵入して来たみたいです。


「お前等、いいか。絶対に手を出すなよ」

 柔道部主将の沖浜君がそう部員達に大声で命じて、一人そいつらに殴る蹴るされながら許しを乞います。でも相手が無抵抗をいいことに不良達はその行為を止めようとしません。


「おい杉原、安藤、細谷。その辺で止めとけよ。柔道部は県大会があるから喧嘩は出来ないんだよ」


 藤村君が部室棟の二階から飛び降りてそう叫びます。名前を呼ばれた三人の不良達が怪訝な表情で振り向き、そして藤村君の顔を見て近づいてきます。


「おっ藤村じゃん。お前この学校か」

「ああ、いじめられっ子の藤村ちゃんか」

「おうおう、また小学校の時みたいにいじめてやろうか」

  

 何、あの不良達って藤村君の元同級生なの? 藤村君は彼等を前にやれやれって表情です。

「お前等さ、知ってるか。いじめられっ子はさ、開き直ると超強くなるんだぜ」

 その態度にカッとして先に手を出したのは不良達の方。藤村君は突き出された拳を左腕で受け流すと同時に溝落に右中段突きを一発。返す左拳で顔面に上段突き一発。そして最後に右膝を高く上げながらの前蹴りで更に溝落への一撃。

 間を置かずに一気に三発も相手に打ち込みます。息が止まり悶絶しながら不良達の一人が膝をつきました。

 少林寺拳法の内受け突きからのコンビネーション、お見事です。


「おらあぁ」

 もう一人も藤村君の顔面を狙って右拳を振り上げます。藤村君は右手を左胸前から右に円を描くようにして相手の突きを絡め取り、左側斜め前へと半歩程度移動しながら相手の右脇腹へと突きを入れます。絡め取った相手の右腕をそのまま引っ張り三角法を使って不良の重心を前に崩すと、彼は勢いよく藤村君の右後方へとゴロゴロと転がって行きました。今のは開身突きからの応用でしょうか。


「細谷、まだやるの?」

 残った一人に対して藤村君、結構挑発的に言いました。

 細谷と呼ばれた不良は仲間二人をやられて怖じ気づいたのか、残りの仲間を呼び集めます。やられた二人も体を押えながら起き上がってきて戦列に復帰、十人全員が藤村君を取り囲む様に集まります。

 二階踊り場からそれを見ているだけの南君に私は言いました。

「ちょっと、藤村君を誰も助けに行かないんですか?」

「まあ、十人ぐらいなら何とかするんじゃないかな」

 南君は笑いながらそう言います。日吉副部長は今日はまだ姿を見ていませんし、そんな事を言っている間に地上では一対十の乱闘が始まります。

 もう放ってはおけません。私が行きます。


 私は階段を駆け下りて乱闘の中へと躍り込み、目に付いた不良の子の頭の髪の毛を掴んで顔面に飛び膝蹴り一発、藤村君に殴りかかろうとする不良の膝裏に足刀蹴りを入れて相手の膝を折って後ろに引き倒すと、片足を振り上げて腹に踵落としを決めてやりました。

 私の技が少林寺拳法っぽくなくて我流なのは道場に通っていないから。そんな感じで不良達二人をぶちのめした所で私と藤村君は背中合わせに。


「お前、結構やるよな。さすが高森五段の娘さん。普段猫かぶりすぎだろ」

 藤村君は笑いながらそう言います。何か余裕っぽいです。せっかく飛び出してきた私が馬鹿みたいじゃないですか。

「あのさ、高森さん。あんまり派手に動かない方がいいと思う」

 藤村君の言う意味はすぐに分かりました。スーツのスカートが上がって私の太股がほぼ全開状態。

「ちょっと、見た?」

「水色の縞」

 急に大人しくなった周囲の不良達の視線が気になりました。全員もれなく私の太股とパンチラをエロい目でガン見しています。

「見るな、バカああああ」

 大声で叫び短いスカートを押えて私は部室棟建物の横まで走って隠れました。戦闘不能、もう私はダメです。ここから絶対に動きません。


 こちらでの騒ぎを聞きつけてか不良達の数がどんどん増えていきます。あっという間に総勢三十人ぐらいに、これは絶体絶命のピンチってやつです。

 藤村君でもさすがにこの人数はヤバそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ