表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

Prolog

雪は朝から止まずに降っていた。

枝に積もった白が音もなく崩れ落ち、地面に染みるように消えていく。


獣道をゆく彼女の足は、雪で上書きされた足跡にも迷わなかった。

この森で育ち、この森で生きてきた狩人――エルシルは、いつものように積雪の中を歩いていた。

右の背には斧、腰にはナイフ。そして、冷え切った手の中に握るのは愛用の狩猟弓。

まさに、狩に生きる人間の風貌だった。


視線の先にあるのは、ただ変わらない冬だけ。

獲物の気配もなく、風も穏やかで、彼女の呼吸だけが空気を揺らしている。

静かな朝だ。


けれど、その静けさの中で――微かに、何かが動いた。


それは風の音とも違う。

獣の鳴き声でもない。

一度きりの、霞んでいた何か。


エルシルは足を止めた。

耳を澄ます。

何も聞こえない。けれど、確かに何かを感じたのだ。

“存在している”はずなのだ。


少しだけ顔を上げ、ゆっくりと進む。

雪を踏みしめながら、枝を払い、沈黙の森の奥へと歩を進める。


倒木の影に、それはいた。


小さな女の子だった。

薄い服。裸足。体を丸めて、じっと、雪に埋もれるように。


エルシルは立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった。


それは“子供”としてではなく、あまりにも静かで、あまりにも脆く、

まるで「この世界にいないもの」のように見えたからだ。


そして、


ゆっくりと膝をつき、彼女は手を伸ばす。


指先が触れた肌は冷たかったが、まだ温もりがあった。


「……何してるの」


返事はない。

けれど、まぶたが一度だけ、かすかに動いた。


僅かだけ隙間から見えたのは、息を飲むほどに美しいガーネットの瞳だった。


エルシルは一度、息を吐いた。


無言のまま、そっと抱き上げる。


寒さも、孤独も、傷も――すべてがこの小さな体に降り積もっていた。


何かが壊れてしまう前に。


彼女は、森を背にして歩き出す。

白に染まる景色の中、少しだけ深くなった足跡がそこに刻まれていった。

初めての小説投稿で至らない点もあるとは思いますが、どうかご容赦ください。


感想とか貰えたら、すごく励みになります!お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ