第五場(取調室他)
登場人物
藤堂淳一(25)
島村茂(38) 新宿署捜査一係の警部、藤堂の上司
矢島(55) 新宿署の警視
柴田幸太郎(29) 新宿署の警部補
尊師(30) オロチ神道の教祖 信者から尊師と呼ばれている。
その他、信者多数
〇取調室
薄暗い部屋。テーブルに数枚の血だらけの布、三つの弾丸、三枚の写真が置いてある。
三枚とも犯行現場で撮影された血まみれの死体だった。
写真の一枚目は中年の男性、二枚目は中年の女性、三枚目は小学生の少女だ。
藤堂、島村茂(40)はスーツ姿で白い手袋をはめ、テーブルをはさんで折り畳み椅子に座っている。
島村「これが殺害現場の遺留品と被害者の写真だ。早速、透視してくれ」
藤堂「わかりました」
藤堂、目をつぶり、白い手袋をはめたまま、遺留品の上に手をかざす。
藤堂「(目を開けて)この写真の三人は家族ですね。
夕飯どきに犯人がこの家族の家に侵入しました。
侵入の方法はドアのピッキング。犯人はおそらく殺しのプロでしょう。
サイレンサー銃で立て続けに三人を殺したようです」
島村「確かに被害者は家族だ。
男性がフリージャーナリスト。女性がその妻。二人の娘が写真の少女だ」
藤堂「犯人は男なのにどぎつい口紅を塗ってます。
髪は茶髪に染め、耳にはピアス。おそらくゲイだと思われます。
しかし普段は女装していて、ちょっと見には男性だとは気づきません。
そして......」
X X X
<フラッシュバック>
邸宅に忍び込んだ覆面をした男、邸宅の中で次々に三人の家族をサイレンサー銃で撃ち殺す。
X X X
藤堂、「わっ」と叫び、頭を抱えてうずくまる。
島村「藤堂、どうした」
藤堂「(顔をあげながら)だいじょうぶです。
ちょっと、邪悪なエネルギーを察知しました。
犯人はゲイであることにコンプレックスを持っており、それが世の中に対する強烈な怨念になっているようです。
彼が殺し屋になったのも、そういう怨念のせいかもしれません」
藤堂、血まみれの布に手を入れ、下に隠れていた覆面マスクを取り出す。
藤堂「これです。犯人は家に侵入するとすぐこの覆面をかぶりました。犯行後、覆面を現場に脱ぎ捨て逃走した模様です」
島村「なぜそんなことをする。
顔を見られたくないなら逃走するときも覆面は必要だろう」
藤堂「犯人の計算では屋外は暗いし、覆面をしているとかえってあやしまれると思ったのでしょう。
三人を殺害したとき覆面したのは、万一、殺し損ねた場合、顔を見られるからです。
犯人は三人を銃撃した後、死亡を確認せず、早急に逃走する予定だったのでしょう。
自分の保身を優先するのも、犯人が直接被害者に恨みがあったわけでなく、金で雇われた殺し屋だからです」
島村「もしくは犯人はなんらかの組織に所属していて、組織の上長の命令で犯行に及んだのかもしれないな。
たとえば犯人が暴力団の組員だとしたら、組長がなんらかの理由でこの家族を消そうと考え、犯人に家族の殺害を命じた。こんな感じだろうか」
藤堂「ええ、そう思います。
いずれにせよ、犯人は殺害するとき家族の三人とは初対面でした。
おそらく犯人は写真だけ見せられて殺しのターゲットの顔を知ったのでしょう。
犯人には世の中に対する怨念はあるものの、被害者家族には特に恨みも憎しみもないようです」
取調室の壁の鏡がクローズアップ。
〇取調室の隣室
取調室の鏡は隣室から黒ずんだ半透明の窓になっている。
矢島、柴田が取調室の様子を覗き見ている。
柴田「藤堂という男ですが、信頼できるんでしょうか」
矢島「さあ、よくわからん」
柴田「島村警部は藤堂に全幅の信頼を寄せているらしいですが、超能力なんてそもそも当てになりませんよ。
藤堂は昔、スプーン曲げ少年だったらしいですが、よりによってうちの署の刑事になるなんて、迷惑な話ですよ」
矢島「まあ、そう言うな。それにしてもスプーン曲げか、なつかしいね」
柴田「藤堂には事件の状況をどれくらい説明してあるんですか。被害者が家族だっていうのは、彼が超能力で当てたんでしょうか。それとも最初から説明があったんでしょうか」
矢島「よくわからん。そのへんは後で島村君に聞くしかないだろう。
しかし超能力捜査官は世界的に見れば珍しくもないぞ。
ジェラルド・クロワゼットのことは知ってるかな」
柴田「はあ、名前だけは聞いたことありますが」
矢島「彼は透視能力者だが、スコットランドヤード、つまりロンドン警察に雇われたことがある。
警察に雇われた超能力者の走りと言われている。
実は1976年、彼は日本にもやって来た。当時、行方不明だった少女の水死体を透視能力で発見している。日本のマスコミは大騒ぎだったね」
柴田「ほんとですか」
矢島「後から検証した結果、諸事情からクロワゼットの超能力を疑問視する説も浮上した。
だがクロワゼット以降、イギリスやアメリカの警察はのきなみ超能力者に捜査協力を依頼するようになった。
この事実をもってしても、クロワゼットはインチキだと思うかね」
柴田「どうですかねえ。
クロワゼットはともかく、スプーン曲げ少年くずれの藤堂が、われわれの役に立つかどうかは悪い意味で未知数だと思います」
〇オロチ神道本部教会
――屋外
白い建造物。「オロチ神道本部教会」の表札
――屋内
薄暗いホール。
尊師(30)、壇上に立つ。
多くの信者、椅子に座っている。
尊師は古墳時代の井出達、すなわち頭髪はミヅラで髭をはやし、衣袴 (きぬはかま)を着ている。
また尊師は遮光器土偶のような仮面をかぶっており、顔はわからない。
信者は頭髪は普通だが、男女とも同様に古墳時代の服装。
尊師、腰の剣を抜き、高く掲げる。
信者たち起立して合掌する。
尊師「天にましますわれらの神よ。われらに力をあたえよ」
信者たち「われらに力を与えよ」
尊師「みなとともに」
信者たち「尊師とともに」
尊師「みなとともに」
信者たち「尊師とともに」
(つづく)