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第四場(テレビスタジオ他)

登場人物

 室野少年(15) 室野和孝の少年時代

 小学生の里見(8) 綾瀬里美の小学生時代

 ディレクター 30代の男性

 司会者 40代の男性

 男子小学生たち

 中学生の里見(14) 綾瀬里美の小学生時代

 室野青年(20) 若い頃の室野和孝

 黒木次郎

 黒木英恵

 水野正之

 森泉

 平井学

 藤堂淳一

 


〇テレビの映像

 複数の少年、少女が一人ずつスプーン曲げをしている映像が順番に流れる。

 その他、ナレーターに合わせた関連映像。


ナレーター(里見)「1972年、日本はユリゲラーの超能力ブームに湧いた。

 スプーンを超能力で曲げるユリゲラー。

 だが日本の小中学生たちの中にもスプーン曲げできる子供が現れた。マスコミは彼らを追いかけ、テレビに出演させた。

 その中には私もいた」


 小学生の里見(8)、スプーンを曲げる。


ナレーター(里見)「一番有名だったのは室野和孝という少年で、一躍時のスターになった」


 室野少年(15)、複数のスプーンを一度に曲げる。


ナレーター(里見)「ところが1974年のある日、とんでもない事件が起こる」


〇テレビスタジオ

 室野少年、テレビスタジオで屈んでスプーンをこすっている。

 なかなか曲がらない。

 いらいらしながらディレクターが室野少年に近づく。


ディレクター「ここのスタジオ、時間制でもうすぐ別の番組スタッフが来ちゃうんだよ。スプーンはまだ曲がらないの?」

室野少年「はい。今日は体調が悪いのか、気分が乗らないのか、スプーン曲がらないんです」

ディレクター「君、そんなことじゃ困るよ。なんとか予定した撮影時間までに間に合わせてくれよ」

室野少年「でも、どうしてもできなんです」

ディレクター「じゃあ、こうしよう。スプーンを床に押し付けて力づくで曲げるんだ。曲げたらそれを背中越しに投げる」

室野少年「そんなあ、それじゃインチキじゃないですか」

ディレクター「あのねえ、超能力が本物かインチキかなんて議論、われわれにはどうでもいいことなんだ。要は視聴率が取れること。

 いかさまでも何でもいいから、テレビを見た視聴者が喜ぶ動画をつくることが重要なんだ。わかるかな」

室野少年「......」

ディレクター「じゃあ、いいね。本番いくよ。3、2、1、Q」


 室野少年、スプーンを床に押し付けて曲げ、背中越しに投げる。


ナレーター(里見)「ところがこれが最初からテレビ局の策略だった」


〇テレビ番組

 BGMが流れる。

 「特番 超能力は本物かインチキか徹底検証! カメラが捉えた決定的瞬間」の文字。

 

司会者「さあ、全国3000万人の超能力ファンのみなさま、こんにちは。今日は超能力が本物かインチキかを徹底検証したドキュメンタリーをお届けします。まずはこの映像からどうぞ」


 室野少年がスプーンを床に押し付けて曲げ、背中越しに投げる映像が流れる。


司会者「スプーン曲げのトリックがおわかりいただけたと思います」


ナレーター(里見)「このテレビ特番は30パーセントの高視聴率をたたき出した。

 そしてこれが、マスコミの超能力ブームの終焉になるとともに、私たち超能力少年少女たちの迫害の日々の始まりだった」


〇通学路

 小学生の里見、通学路を歩いている。

 すると男子小学生たちが「インチキ超能力者」とののしりながら、小学生の里見に石を投げる。

 小学生の里見、泣きながら駆け逃げる。


ナレーター(里見)「あのテレビ特番の後、小学生の私は男の子たちのいじめにあった。

 自分は悪くないのに、スプーンは曲がるのに、くやしくて悲しい思い出だ」


〇自宅の郵便受け

 セーラー服姿の中学生の里見、自宅の郵便受けから封筒を取る。

 封筒を開け、手紙を広げる。


ナレーター(里見)「中学生になると、あるとき不思議な手紙を受け取った。差出人は室野和孝」


 手紙と室野青年(20)の顔がオーバーラップ。

 以降、ナレーターに合わせた映像。


ナレーター(室野)「突然、お便りします。私はスプーン曲げ少年の室野和孝です。

 この手紙は、ぼくと同じようにスプーン曲げでテレビ出演した少年や少女に送っています。この手紙を読んでいるということは、あなたもスプーン曲げができるはずですね」


――テレビスタジオ(再)

 先ほどの室野少年とディレクターのやり取りを再現。

 室野少年、スプーンを床に押し付けて曲げ、背中越しに投げる。


ナレーター(室野)「実は、ご存じだと思いますが、テレビ特番でぼくの超能力がインチキ呼ばわりされました。床にスプーンを押し付けるトリックはもともとテレビ局のディレクターの命令だったのです。

 あのとき連日のテレビ出演で睡眠時間が減り、ぼくはスプーン曲げができない状態でした。今にして思えば睡眠不足だとぼくがスプーン曲げができないことを彼らが知っていて、わざとあんなやらせを企んだのだと思います」


――テレビの映像(再)

 複数の少年、少女が一人ずつスプーン曲げをしている映像が順番に流れる。

 その中にテレビ特番で司会者がしゃべっている映像もある。 


ナレーター(室野)「スプーンを曲げる少年、少女は、当初テレビ局にとり、視聴率を稼ぐ絶好のネタでした。しかし二年ぐらいたつとさすがに視聴者も飽きてきます。そこでスプーン曲げは終わりにして、別のネタをマスコミは追及していたのだと思います。しかし最後に花火を打ち上げる意味で、スプーン曲げがインチキだったという特番を企画して、視聴率を稼ごうと企んだのです。これにぼくがまんまとはめられたというわけです。

 ぼくはこうした虚偽に満ちた社会が許せない。いつか復讐しようと思います」


――自宅の郵便受け(戻る)

 中学生の里見、手紙を読んでいる。

 

ナレーター(室野)「この手紙をあなたに送ったのは、ぼくの仲間になっていただきたいからです。

 スプーン曲げの少年、少女が集まり、互いに切磋琢磨して超能力を磨き上げるサークル『エスパラダイム』に参加しませんか」


〇里見の回想

 以下、ナレーターに合う映像。


――公民館の教室。

 室野青年、黒板にゼナーカードの記号を書きながら講義している。

 中学生の里見を含め、数名の若者たちが広義を聞いている。


ナレーター(里見)「私は『エスパラダイム』に参加した。

 会合は月に1回程度。

 最初は公民館に集まって、勉強会を開いた。

 超能力関係の本、占いの本、オカルトの本、宗教の本などを読破した」


――寺の本堂

 中学生の里見、室野青年を含め、数名の若者たちが座禅を組んでいる。


ナレーター(里見)「みんなで座禅を組んだり、ヨガや気功、滝行に行ったこともあった。

 そのうちに室野和孝はグループのリーダーを黒木次郎に譲り、自らはあまり『エスパラダイム』に参加しなくなった」


――カフェバー「ホロスコープ」・店内

 里見を含む、『エスパラダイム』のメンバーが会食している。


ナレーター(里見)「黒木が新リーダーになると『エスパラダイム』の活動は一転、ただの懇親会になった。

 食べ歩きやファミレスでだべったりするだけの集まり。

 それでもメンバーが大人になると、それぞれスピリチャル関連業界の仕事についていった」


――治療院など

 水野、治療院の診察室で患者を診察している。

 画面が切り換わり、泉、宝石店内で接客している。

 画面が切り換わり、平井、ダウジングロッドを持って道路工事現場を歩く。

 画面が切り換わり、藤堂、アパートのドア越しに警察手帳を見せ、家人に職務質問している。

 画面が切り換わり、英恵、「ホロスコープ」の厨房で料理している。


ナレーター(里見)「黒木はメンバーの英恵と結婚し、カフェバー『ホロスコープ』を開業。『エスパラダイム』の活動拠点が『ホロスコープ』が中心になったのは自然の流れだった」


――本屋の店内

 里見、女性雑誌を立ち読みしてる。

 占いコーナーに掲載された占い師、黒木の顔写真をクローズアップ。


ナレーター(里見)「黒木は女性雑誌に星占いの連載を始め、人気を博した。しかしあるとき突然、星占いの連載をやめた。うわさでは黒木は総理大臣お抱えの占星術師になったとのこと」


――原宿など

 里見、原宿ホコ天で屋台のタロット占いをしている。


ナレーター(里見)「科学万能の現代においても、多くの国の国家元首や宰相は、高額のギャラを払って一流の占い師を雇っている。

 これは私たち『エスパラダイム』の間では常識だった」


(つづく)

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