第三場(カフェバー)
登場人物
綾瀬里美(24)
黒木次郎(30)
水野正之(45)
森泉(28)
平井学(26)
藤堂淳一(25) 男 刑事。里見の恋人。
黒木英恵(32) 女 黒木次郎の妻。カフェバー「ホロスコープ」のマスター
〇カフェバー「ホロスコープ」・店内
「ホロスコープ」の看板をクローズアップ。
「本日 エスパラダイムご一行様貸切」の看板をクローズアップ。
続いて店内
平井、店のドアを開き、息を切らしながら入ってくる。
店内には里見、黒木、水野、泉、藤堂淳一(25)が丸テーブルに腰掛けている。
黒木英恵(32)、エプロン姿でカウンターの奥に立っている。
英恵「いらっしゃい」
平井「(みんなを見回して)遅れまして、すいません」
英恵「いいのよ平井君。みんな忙しいんだし、気にしてないわ」
藤堂「平井、元気か」
平井「まあな。藤堂も変わりないか」
藤堂「ああ、相変わらずだ」
平井、藤堂の隣に座る。
黒木「これで全員かな」
里見「まだ室野さんが見えてないわ」
黒木「室野君は今日も欠席みたいだ」
泉「最近、室野さん、来ないですねえ。どうしちゃったのかしら」
水野「うわさでは、彼、新興宗教の教祖をやってるらしいねえ」
里見「えっ? それ、ほんとですか」
藤堂「室野さん、『オロチ神道』っていうカルト宗教を作ったみたいなんだ。彼とは最近、一回会って話したことあるんだけど、おれたちを置いて遠くへ行っちゃったって感じだよ」
平井「室野さんなら、いかにもって感じですよね」
水野「ところで黒木君は今、どんな仕事してるの。この店、奥さんの英恵さんが一人でやってるでしょう。旦那は普段、何やってるの」
泉「ひもになっちゃたのかしら」
英恵「まあ、そんなところかしら」
黒木「英恵もひどいなあ。ちゃんと仕事してるよ。ただし、ぼくの仕事は国家機密にかかわる仕事だから、詳しいことは言えない。しゃべったら秘密保護法に引っかかって藤堂君に逮捕されちゃうんだ」
藤堂「逮捕しませんよ」
平井「スパイみたいな仕事ですか。かっこいいですね。こっちなんか3Kの肉体労働だっていうのに。ところで給料なんか高いでしょうね。どれくらいもらってるんですか」
黒木「それも国家機密なんだ」
泉「黒木さんらしいわ」
英恵、全員にビールを配り、自分もビールを注いだグラスを持って立つ。
すでにテーブルにはピザや軽食が並んでいる。
黒木「(グラスを持って立ち上がり)じゃあ、そろそろ始めましょう。われわれ『エスパラダイム』のますますの活躍と発展を祈念して、乾杯」
全員「(グラスを持って)乾杯」
一口飲み終わると、全員、拍手する。
しばらく歓談が続く。
X X X
英恵、全員にスプーンを配る。
黒木「では恒例のスプーン曲げ競争を始めます。(全員、片手にスプーンを持つ)できるだけ早くスプーンを曲げる競争です。いいですか。用意、スタート」
全員、スプーンをこする。
しばらくして英恵のスプーンが曲がる。
英恵「曲がったわ(曲がったスプーンをみんなに見せる)」
里見「あたしも曲がった(曲がったスプーンをみんなに見せる)」
平井「女はすげえや」
黒木、藤堂のスプーンがほぼ同時に曲がり、やや遅れて水野のスプーンが曲がる。
泉と平井の二人の対決となる。
平井「おばんに負けてたまるか(スプーンをこする)」
泉「負けなくてよ(スプーンをこする)」
泉のスプーンが曲がる。
平井「やっぱり今日もおれがビリかよ」
テーブルに置いてある複数のフォークやナイフが曲がり出す。
最後にようやく平井のスプーンが曲がる。
黒木「平井君、ひどいよ。うちの店のフォークやナイフが使えなくなちゃう」
英恵「いいのよ。うちにはいくらでもストックあるし。それにしても平井君の超能力すごわ。曲げるまでに時間はかかるけど、他のフォークやナイフも曲げるなんて、こんな芸当、平井君か室野さんにしかできないわ」
里見「室野さんは曲げるのも一番早かったわ」
平井「つまんねえなあ、『エスパラダイム』の集まりって」
藤堂「嘘つけ、いつも一番楽しみにしてるのはおまえだろ」
声(英恵)「ピザのおかわり出来ました」
英恵、ピザをテーブルに置く。
しばらく軽食を食べながら歓談が続く。
ナレーター(里見)「私たち『エスパラダイム』とは何か。どうやって結成されたのか。
それを語るには、まず1970年代の超能力ブームにさかのぼって説明しなくてはならない」
(つづく)