第二十場(コンビニ)
登場人物
黒木次郎
マリア
店長
信者たち多数
室野和孝
綾瀬里美
藤堂淳一
娘
ハイヤーセルフ
室野少年
ディレクター
平井学
〇コンビニ・駐車場(早朝)
駐車場の中央に核爆弾を置き、オロチ神道の信者たちが周囲を囲んでいる。
黒木「みんな本当にいいのか。ミサが終わったら、これを爆破させる。
みんな死ぬんだぞ」
信者1「覚悟の上です」
信者2「みんな今日のために尊師についてきました」
店長、体を震わす。
黒木「(店長を見て)おまえはいいのか」
店長「(震えながら)ハルマゲドン・ミサに参加できるなんて光栄です」
マリア「今世でわたしたちはこれだけ功徳を積んだんだから、来世ではきっと裕福で幸せな人生が待ってるはずよ」
室野が乗ったオートバイが走って来て駐車場に停まる。
オートバイから降りた室野はヘルメットを脱ぎ、信者たちに駆け寄る。
室野「ばかなことはよせ」
黒木「……」
室野「今なら引き返せるぞ」
店長、アサルトライフルで室野を撃つ。
室野、地面に倒れる。
〇国道
――車外
里見が運転する自動車が国道を走っている。助手席には藤堂。
――車内
藤堂「スピード出し過ぎじゃないか」
里見「早く東京を脱出しないと死んじゃうわよ」
藤堂「まさか」
――車外
突然、自動車の遥か後方で大爆発が起こる。強烈な閃光と爆音。
自動車は横転し、国道の隣の土手を転がり落ちる。
〇土手
自動車は土手を転がり落ち、大きく破損する。
ドアから血だらけの里見が這って出てくる。
里見、外から社内を見て藤堂を探す。
里見「ジュンちゃん、生きてる?」
額から血を流した藤堂、逆さになったまま意識がない。
歪曲した鳥かご内のボタンインコが激しく羽ばたいている。
里見、自動車からナップザックを引きずり出す。
ナップザックを開け、水晶玉を取り出し、地面に置く。
水晶玉に手を置き、目をつぶる。
里見の幽体、肉体から飛び出し上空へ上昇する。
〇東京上空
里見の幽体、東京の方へ飛んでいく。
上空から見た東京の視界。
核爆発ですべてが破壊しつくされている。
モノローグ(里見)「ひどいわ。みんな死んじゃったのかしら」
里見、七色に輝く不思議な雲を見つける。
(以降、ハイヤーセルフはエコーまたはエフェクトをかけた里見の声)
声 (ハイヤーセルフ)「時空を超えるのです」
里見「あなたはだれ」
声 (ハイヤーセルフ)「私はあなたのハイヤーセルフ。
時空を超えて、あのときに戻るのです。
あのときに戻ってやりなおせば、歴史は変えられます」
里見「どうやって歴史を変えるの。どうやって時空を超えるの」
里見の幽体、強力な力で七色の雲に吸い込まれる。
雲の中は異世界の視界。
〇テレビスタジオ
室野少年、テレビスタジオで屈んでスプーンをこすっている。
なかなか曲がらない。
いらいらしながらディレクターが室野少年に近づく。
ディレクター「ここのスタジオ、時間制でもうすぐ別の番組スタッフが来ちゃうんだよ。スプーンはまだ曲がらないの?」
室野少年「はい。今日は体調が悪いのか、気分が乗らないのか、スプーン曲がらないんです」
ディレクター「君、そんなことじゃ困るよ。なんとか予定した撮影時間までに間に合わせてくれよ」
室野少年「でも、どうしてもできなんです」
ディレクター「じゃあ、こうしよう。スプーンを床に押し付けて力づくで曲げるんだ。曲げたらそれを背中越しに投げる」
室野少年「そんなあ、それじゃインチキじゃないですか」
ディレクター「あのねえ、超能力が本物かインチキかなんて議論、われわれにはどうでもいいことなんだ。要は視聴率が取れること。
いかさまでも何でもいいから、テレビを見た視聴者が喜ぶ動画をつくることが重要なんだ。わかるかな」
室野少年「......」
ディレクター「じゃあ、いいね。本番いくよ」
里見、室野少年の前に突然現れ、水晶玉を差し出す。
里見「この水晶玉に手を当てて、目をつぶってみてくれる。あたしが気を送るから、スプーンが曲がるようになるわよ」
室野少年、水晶玉に手を当て、目をつぶる。里見、室野少年の額に手かざして気を送る。
里見「いいわ。目を開けてみて」
室野少年、目を開ける。里見の姿も水晶玉も消えている。
ディレクター「3、2、1、Q」
室野少年、スプーンをこすると曲がり、それを背中越しに投げる。
曲がったスプーンを静止画像でクローズアップ。
〇寝室
寝室にはベッドが二つ。その一つに里見が寝ている。
部屋の隅には鳥かごがあり、文鳥がいる。
娘「ママ、起きて(里見をゆする)」
里見、寝ぼけまなこで上半身起き上がり、のびをする。
藤堂、寝室に入ってくる。
藤堂「もう起きろよ。真昼だぞ」
里見「ここどこかしら」
藤堂「なに寝ぼけてんだよ。自分のうちだろう」
里見「……」
藤堂「かぜ治った?」
里見「あたし、かぜひいてたの?」
藤堂「だいじょうぶか。君はかぜをひいたんで昨日から寝込んだんだよ。覚えてないの」
里見「ジュンちゃんは警察いかなくていいの。刑事なんでしょ」
藤堂「えっ? おれ刑事じゃないよ。しがない会社員だ。
昨日から有給使って休んでる。今日は土曜日だから最初から休日なんだ」
里見、ベッドから起き上がる。
部屋の隅のカラーボックスに置いてあったスポーツ新聞を取り上げる。
一面トップの平井の顔写真をクローズアップ。競馬の騎手の恰好をしている。
(つづく)




