第十七場(カフェバー)
登場人物
藤堂淳一
島村茂
矢島
春瀬
黒木次郎
黒木英恵
ライダーマン
室野和孝
綾瀬里美
森泉
平井学
水野正之
サブロー
機動隊
〇オロチ神道本部教会・屋外
テロップ「オロチ神道本部教会」
機動隊員が多数、白い建造物の前に待機している。
藤堂、島村、矢島、春瀬も待機している。
春瀬「(マイクロホンを持ち)突撃開始!」
機動隊、鍵のしまったドアに棍棒を打ち壊すなどして、建造物の中に入る。
〇同・屋内
機動隊、廊下や階段を進み、すべての部屋を調べるが、職員は誰もいない。
種類などが残っている。
藤堂、島村、矢島、春瀬、残された書類を調べる。
藤堂「どうしたんでしょう。ここには誰もいませんよ」
島村「ここの職員、全部で16人ぐらいいるはずじゃないか。どこへ消えたんだ」
矢島「おれたちがガサ入れする前に逃げたんじゃないか」
ナレーター(藤堂)「オロチ神道の全国100ある施設は同時に家宅捜索が始まった。
本部を除く全施設は職員がいたが、杉並の本部教会だけは無人だった。
本部教会は代表の室野和孝をはじめ、教団幹部計16名が詰めているはずだった。
また教団が所有されていると噂される核爆弾も見つからなかった。
ただし、噂が本当かどうかはこのとき、まだ確認してなかったが」
〇カフェバー「エスパラダイム」
「ホロスコープ」の看板をクローズアップ。
「本日 エスパラダイムご一行様貸切」の看板をクローズアップ。
続いて店内。
黒木、英恵、里見、藤堂、泉、水野、平井がそろっている。
全員にシャンパンを注いだグラスが配られている。
黒木「本日はお忙しい中、ご参集いただき、ありがどうございました。
ご心配おかけしましたが、ぼくはこの通り元気です」
英恵「全員そろったことだし、乾杯してもいいかしら」
黒木「実は後一人、来てないんだ」
するとドアが開き、ライダーマンが店内に入ってくる。
英恵「(ライダーマンに)今日は貸切なんです。
エスパラダイムのメンバー以外の人はお断りしています」
ライダーマン「エスパラダイムだって。いかれた名前だなあ。だれが考えたんだ」
英恵「それは......」
里見「(隣の藤堂に小声で)エスパラダイムって室野さんが考えたんだよねえ」
藤堂、無言のままうなずく。
黒木「いかれた男が考えたんだよ。エスパラダイムっていかれてるよな」
ライダーマン「ちがいない」
黒木とライダーマン、顔を見合わせて爆笑する。
泉「二人ともどうしちゃったの?」
平井「(ライダーマンに)そう言えば、あんた競馬場で会わなかったかな」
水野「(ライダーマンに)あなたの声、どっかで聞いたことあるぞ」
ライダーマン、仮面を脱ぐ。現れたのは室野。
里見「室野さん」
泉「びっくりしたわ」
平井「なんだ、やっぱり室野のアニキじゃねえか(立ち上がり、室野とハグする)」
水野「会いたかったよ。室野君(立ち上がり、室野と握手する)」
泉「どうしてあたしを置いて行っちゃたのよ(立ち上がり、室野とハグする)」
英恵「じゃあ、これどうぞ(室野にシャンパンを渡す)」
黒木「せっかくだから、乾杯の音頭は彼にやってもうのがいいんじゃないか」
平井「賛成。ぜび室野のアニキにお願いしたい」
泉「異議なし」
室野、はずかしそうに立ち上がる。
室野「まあ、おれも黒木も無事も戻ってきたことだし。
これかも今日みたいにおれと飲み食いに付き合ってください。
エスパラダイムに栄光あれ。乾杯」
全員「乾杯」
全員、拍手した後、歓談する
X X X
藤堂、室野の隣に座っている。
藤堂「仕事関係の話で恐縮なんですけど、サブローって知ってます?」
室野「ああ、有名なゲイの殺し屋だろ。覚えてるよ」
藤堂「実は最近、サブローを逮捕したんですけど、彼は昔、室野さんを殺したはずだって言うんですよ。
今のオロチ神道の代表は、室野さんになりすました別人なんだそうです」
室野「その答えは半分正解、半分間違いだ。おれは今生きてるから、これは間違い。
ただし今、オロチ神道の代表、つまり尊師はおれになりすました男がやっている。
今、おれはオロチ神道となんの関係もないんだ」
藤堂「ではサブローが室野さんを殺したって話は嘘なんですか」
室野「彼はおれを仕留めたと思い込んでいるんじゃないかな」
〇室野の回想(東京湾の埠頭)
東京湾の埠頭に向かって室野が走り、サブローが銃を持って追いかけている。
行き止まりまで来ると、サブローが発砲し、室野が海に落ちる。
ナレーター(室野)「あれは東京湾の埠頭だった。
行き止まりまで来ると、サブローが発砲し、おれは海に落ちた。
銃の弾丸は当たらなかったが、銃声に驚いて落ちたんだ。
海の水は冷たくて、おぼれそうになったけど、必死で泳いだんだ。
そうしたら岸にたどりついていた」
サブロー、周囲を探している様子。
室野、物陰に隠れ、サブローを見ている。
ナレーター(室野)「サブローはまだいた。おれをさがしている様子だった。
おれは物陰に隠れ、見つからないよう息をひそめた。
そのうちにサブローはいなくなったというわけだ」
〇カフェバー「ホロスコープ」
みんな歓談している。
室野「教団に戻るわけにはいかない。戻ったらまた殺されるからだ。
サブローを雇った黒幕は官房長官の中林だ。
やつは実質的に教団のオーナーで、教団を暴力団と癒着させようとした。
これに反対したから、おれはやつから目をつけられた。
教団はやつの言うことを訊く人間をおれの替わりに尊師にした。
あれ以来、おれは生きていることを隠して生きてきた。
いろんなバイトをやって食いつないできた。
最近はコスプレで小遣い銭を稼げるようになったけどね」
藤堂「オロチ神道の代表として一番最後にお会いしたとき、遮光器土偶のようなマスクをつけてましたよねえ」
室野「そいつは多分おれじゃないよ。おれのなりすましだ。
おれはそんなマスクなんかつけたことがない」
X X X
黒木のポケベルが鳴る。黒木、電話をかける。
黒木「ちょっとみなさんすいません。
急用ができたのでこれから行かなきゃいけません。
今日は楽しかったです。ありがとうございました。
実はぼくの急用についてくわしくは、室野君に聞いてください。
彼なら知ってると思います」
黒木、店を出て行こうとすると英恵が黒木の腕を掴む。
英恵「次郎さん、また行っちゃうの」
黒木「心配するな。すぐ戻るから」
黒木、店を出ていく。
英恵、片目から一筋の涙が流れる。
里見「室野さん、黒木さんの急用ってなんですか?」
藤堂「なにか知ってたら、教えてください」
室野「さあ……もしかしたら、おれになりすましてオロチ神道の尊師になった男って、実は黒木なのかもしれないなあ」
(つづく)




