第十六場（上野科学博物館他）
登場人物
綾瀬里美
藤堂淳一
黒木英恵
黒木次郎
〇上野科学博物館・特設展示会場入場口
テロップ「上野科学博物館」
建物全体をパン。その後、特設展示会場入場口
「日本の埴輪展」の横断幕。
特設展の入場口で行列が並んでいる。
里見と藤堂、行列の後ろの方にいる。
里見「混んでるの嫌い」
藤堂「仕方ないだろう。たまの休みだし。
一応、事件は一段落したけど、この後また忙しくなりそうなんだ。
だからデートもしばらくできなくなるよ」
里見「それにしても、どうして埴輪なのよ。あたし興味ないわ」
藤堂「新聞の拡張員からタダ券二枚もらったんだ。使わないともったいないだろ」
里見「そんなの貧乏性だわ」
藤堂、ポケットに手を突っ込んで舌打ちする。
藤堂「入場券なんだけど、うっかりロッカーに入れてきちゃった。
ベンチにでも座って、待っててくれる。急いでとってくるわ」
里見「まったくジュンちゃんっていつもこうなんだから」
藤堂、走り去る。里見、近くのベンチに腰掛ける。
里見、ナップザックから水晶玉を取り出す。膝に置いて手をかざし、目をつぶる。
里見の幽体、肉体から抜け出し、天井を通り抜け、博物館の上空に上る。
七色に輝く不思議な雲を見つける。
モノローグ（里見）「あれって、何かしら」
里見の幽体、不思議な雲の方に飛んでいく。
すると突然、強い力で雲の中に引き込まれる。
モノローグ（里見）「どうしたらいいの。あたし、どうなっちゃうのよ」
不思議な異世界空間の視界。
そのうちに雲から出ると田園風景が広がる。
里見の幽体、下に降りていく。
田畑では古墳時代の服装をした古代人が農作業をしている。
田畑の側に竪穴式住居がいくつかある。
モノローグ（里見）「これ、一体、いつの時代に来ちゃったのかしら」
ふと埴輪人形が道端に置いてあるのを見つける。
里見の幽体、地面に降り、石を拾う。埴輪人形の背中に石で「さとみ」と書く。
声（藤堂）「里見、起きろ。目を覚ませ」
里見、気がつくと博物館のベンチに座っている。目の前に藤堂。
藤堂「なんで寝るんだよ（入場券を二枚見せる）。ほら、これで入れるぞ」
〇同・特設展示会場
ガラスケースに様々な埴輪が展示されている。
里見と藤堂、他の見物客と同様、順路に沿って見ていく。
里見、ふと遠くにある埴輪人形が気になる。
モノローグ（里見）「あの人形、どこかで見たわ」
里見、列をはずれてその埴輪人形の方へ向かい、背中を見る。
かすかに石で書いた「さとみ」という跡が見える。
里見「（大声で）嘘でしょう」
周囲の客が里見を見る。里見、口を押える。
〇カフェバー「ホロスコープ」
客はかなり入っている。
大スクリーンはミュージックビデオ。
英恵、中年女性のテーブルに盆に載せた赤ワインとフルーツタルトを配る。
英恵「お待たせしました。ケーキセットです」
英恵がカウンターに戻りかけると電話が鳴る。
英恵、速足でカウンターに戻り、受話器を取る。
英恵「はい、『ホロスコープ』です。えっ、次郎さん。今どこ？」
〇公衆電話ボックス
黒木「駅前の公衆電話からかけてる。
今日、そっちへ帰るよ。
ところで快気祝いじゃないけど、エスパラダイムのメンバー呼んで、久しぶりに『ホロスコープ』でパーティーしたいんだけど、いいかな」
声（英恵）「もちろん、かまわないわ」
黒木「じゃあ、メンバーに連絡してくれる？」
〇カフェバー「ホロスコープ」
英恵「それはまかせて。でもどうしてまた戻る気になったの？ もう命はねらわれないの？」
声（黒木）「実はおれはある殺人事件の容疑者だったんだけど、真犯人が捕まって潔白が証明されたんだ。
だから戻ることにした。ただし命はまだねらわれてるかもしれないな」
大スクリーン、ミュージックビデオから緊急ニュースに切り替わる。
〇テレビ画面
アナウンサー１がスタジオの画面中央。
アナウンサー１「臨時ニュースです。
竹山首相暗殺事件の犯人が逮捕されました。
犯人はゲイバー経営者の久野三郎容疑者」
サブローの顔写真。
アナウンサー１「久野疑者は日頃のストレスがたまっていたから、首相を殺害したと自供しています。
警察の調べでは久野容疑者は余罪があり、フリージャーナリスト、沢崎さん一家殺人事件の犯人の可能性があるとみて捜査しております。
いずれの事件も久野容疑者単独犯で、組織的犯行ではないことが警察の調べで判明しています」
（つづく）
