第十一場(首相官邸他)
登場人物
黒木次郎(30) 占星術師
竹山良一(68) 内閣総理大臣
中林文雄(55) 内閣官房長官
平井学(26) 水道局に勤めるダウザー
吉田(40) 平井の上司。水道局の課長
藤堂淳一(25) 霊能力刑事
〇首相官邸・応接室
黒木、竹山、中林がソファーに座っている。
黒木、ノートPCを動かしている。
黒木「(ノートPCを動かすのをやめて顔を上げ)閣議決定された法案ですが、国会では野党の猛烈な反対が予想されます」
竹山「じゃあ、法案は引っ込めた方がいいということかね」
黒木「引っ込めたら引っ込めたで与党内で内閣の責任問題が浮上します。
つまり竹山総理を与党の総裁から引きずり降ろそうという動きが懸念されます」
中林「だったらどうしたらいいのかね。国会を解散するのか。それとも内閣総辞職か。
あるいは首相の辞任が一番いいのか」
黒木「そうですねえ。少し時間をかけて議論するのが最適かと思います。
野党の意見を聞き入れて修正案を提示すれば、今度は国会を通るでしょう」
竹山「つまり形式的に野党の顔を立てるということか」
黒木「おっしゃるとおりです(ノートPCのキーボードに指を走らせる)」
中林「ふん。野党の連中は役に立たないやつばかりじゃないか」
X X X
竹山「ところで中林君、ちょっと席をはずしてもらえないか」
中林「えっ?」
竹山「実は黒木君と二人で相談したいことがあってねえ。
政治のことじゃない。あくまでプライベートな話だがね」
中林「はあ......わかりました」
中林、席を立ち、しぶしぶ応接室を後にする。
竹山「(声をひそめるように)実は……言いにくいことなんだが」
黒木「中林官房長官のことですね。彼が本当に信頼できる人物かどうか」
竹山「すごいなあ。君も室野君に似てきたね。こちらが話す前からこちらの相談事をぴたりと当てる。
室野君はいつもそうだった。彼は昔、君の友人だったそうじゃないか」
黒木「はあ、室野と言いますと、オロチ神道の室野和孝ですか」
竹山「そう。昔はオロチ神道も今みたいな危険な宗教団体じゃなかった。
そのころ、実は私は室野君を雇っていてね。ちょうど今君がやっているのと同じ仕事だ。
占いによる政治コンサルタントといった感じかな。政治家としての私の判断がまちがってないかどうか占ってもらう仕事だ。
ところがあるとき彼はもうこんな仕事はできないと言ってやめてしまったんだ。
そこで中林君が女性雑誌の人気占星術師の君を見つけてきた。これが君を雇った経緯だ」
黒木「そうだったんですか。はじめて知りました」
竹山「オロチ神道がテロ組織まがいになっていったのは、室野君と君が交替した後ぐらいからかな」
黒木「……」
竹山「ところで話は戻すが、中林君はどんな感じなのかね」
黒木「官房長官のホロスコープを立ててみましたが、近いうちに竹山総理を裏切ると出ています。
自分が総理大臣になってこの国を支配したいようです。
しかもそのためにはかなり非合法な手段も辞さないのが彼のやり方です」
竹山「やはりそうか」
応接室のドアが少し開いている。
中林、神妙な面持ちでドアの外から二人の会話を盗み聞きしている。
〇屋外の道路工事現場
道路工事している。
平井、ダウジングロッドを持って歩いている。
吉田「平井、いるか」
平井「はい、ここです。吉田課長、どうしましたか」
吉田「飯場に行ってくれ。警察の人が来てる」
平井「警察ですか」
吉田「おまえ、またなんか悪いことしたのか」
平井「そんなことないっすよ」
吉田「じゃあ、なんで警察のお世話になるんだよ」
平井「わかんないっすよ」
〇飯場
藤堂、椅子に座り、テーブルに地図を広げている。
平井、飯場に入ってくる。
藤堂「やあ、来てくれたか」
平井「どうしたんだよ」
藤堂「実はお願いがあるんだ。
ダウジングで犯人の居場所を探してほしいんだ。
(モンタージュ写真を見せて)犯人はこの人物。
(テーブルの新宿区の地図を指して)こいつがどこにいるかわかるかい」
平井「犯人は新宿区内いるの」
藤堂「それも調べてほしい。
おれも地図の上を手かざしで調べてみたんだが、どうしてもわからない」
平井「まあ、こういう仕事はダウジングの方が上だね。
通常の霊能力が蒸気機関車ならダウジングは電車ってとこかな」
平井、地図の上をダウジングロッドを動かして調べる。
すると新宿駅東口の真上にダウジングロッドが来たとき左右に開く。
平井「このへんだな」
藤堂、バッグから東口を拡大した地図を出し、テーブルの上に置く。
藤堂「さらに詳しく調べられないか」
平井、東口の拡大地図をダウジングで調べる。
新宿二丁目のゲイバー「プルースト」の真上でダウジングロッドが開く。
平井「なんだって、ゲイバー、プルーストって書いてあるよ」
藤堂「ありがとう」
(つづく)




