第一場(葛西臨海公園他)
本作品のモブキャラの表記について
第一場の客1は第N場の客1とは違うキャラクターです。同一の場での有効なナンバリングです。
〇登場人物
綾瀬里美(24) 女 タロット占い師、水晶占い師
鳥と意思疎通したり鳥を操る能力を持つ。
客1 若い女性
運転手 若い男性
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黒木次郎(30) 男 サークル「エスパラダイス」のリーダー。
ノートPCを使う第一級の西洋占星術師。
竹下良一(68) 男 内閣総理大臣
中林文雄(55) 男 内閣官房長官
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水野正之(45) 男 ミズノ気功治療院の院長。
中医学の医師。手かざしで治療する。
看護師1 若い女性
患者1 老人の男性
〇葛西臨海公園・池の付近
池からたくさんのダイシャクシギがいっせいに飛び出す。
ダイシャクシギは海に向かって飛んでいく。
綾瀬里美(24)、三脚に建てたカメラをダイシャクシギに向け、複数回シャッターを切る。
ナレーター(里見)「鳥の羽音が聞こえる。
ダイシャクシギの渡りは二回。8月から10月頃飛来し、越冬して4月から5月頃日本を去る。
そのままヨーロッパのバイカル湖東部まで行って繁殖する。
鳥の羽音が聞こえる。鳥たちは何かをささやいている。そんな感じがする。
どうしてこんなに鳥のささやきに心を奪われるのだろう。自分でもわからない」
〇原宿・ホコ天
テロップ「1989年 原宿」
里見、屋台を出し、タロット占いをしている。
客1、里見と向い合って座っている。
客1「どうよ。彼氏とはうまく行きそう」
里見「そうですねえ。彼は浮気性のようです。実はお客様の他にも彼女がいて、二股かけていると思われます。近いうちに彼から別れ話を聞かされそうですが」
客1「嘘よ(立ち上がる)、そんなの嘘。マサルのこと何も知らないくせに。こんな占いインチキだわ。頭に来ちゃう」
客1、そのまま立ち去ろうとする。
里見「お客様、まだお代をいただいてませんが」
客1「インチキ占いで金取ろうっていうの」
客1、そのまま立ち去る。
里見、タロットをすばやく切り、一枚引いてみると「タワー」のカード。
里見「お客様、事故にお気をつけてください」
急ブレーキの音。客1、車にぶつかって転ぶ。車から運転手が降りてくる。
客1、立ち上がり、スカートをはたく。
里見、側まで駆けてくる。
里見「お客様、大丈夫ですか。病院に行かれますか」
客1「余計なお世話よ。こんなのかすり傷よ」
客1、びっこを引きながらその場を立ち去る。
〇首相官邸・応接室
テロップ「首相官邸」
最初に首相官邸の建物全体をパンした後、応接室。
ソファーに黒木次郎(30)、竹山良一(68)、中林文雄(55)が座っている。
黒木、テーブルにノートPCを置き、キーボードを叩いている。
MS-DOSのPC。ホロスコープが画面に表示されている。
黒木「(キーボードを叩くのをやめ、顔を上げながら)総理、本日の通常国会ですが、予算案はスムーズに通りそうです。(ノートPCの画面を見せながら)太陽と木星のトラインが出ております」
竹山「野党は反対しないのかね」(テロップ「内閣総理大臣・竹山良一」)
黒木「反対しますが、形式的なレベルで議論はそれほど長引かないようです」
中林「ところで黒木君、北朝鮮の動向はどうなってるかね」(テロップ「内閣官房長官・中林文雄」)
黒木「そちらも心配ないでしょう(キーボードを叩きながら)。今後、ロケット実験と称して日本海にミサイルを撃ち込んできますが、全部はったりのようです。日本に命中することはありません。無視するのが最良の策かと」
竹山、中林に目配せする。
竹山「君は国家機密に精通しているのかね」
黒木「とんでもございません。占いでそう出ただけです」
〇ミズノ気功治療院・診察室
ミズノ気功治療院の看板をクローズアップ。続いて診察室。
水野正之(45)、患者1と向き合っている。
看護師1、水野の側に立っている。
水野「かなり肩が凝ってますなあ」
患者1「わかりますか」
水野「この仕事、長いですからねえ」
水野、患者1の肩に手かざしする。
水野「いかがでしょう」
患者1「少し楽になったような感じがします」
水野「胃の痛みも肩こりが原因のようです」
(つづく)