だから彼女は夜ごと首を絞める
長春恵瑠は訛りのように重い体をベッドに横たわらせた。
そして眠る前のいつもの動作をする。
ゆっくりと自らの首を絞めたのだ。
じわじわと力を込めていく。
徐々に首への痛みと息苦しさが強くなる。
息が出来ないと感じる力加減で、数秒止めた。
「げほっ」
彼女の人生はずっとずっと息の詰まるものだった。
もちろん感覚として。
周囲を見渡せば楽しそうに過ごす人々ばかり。
長い春が巡っている。
自分の呑気な名前を随分と呪ったものだ。自嘲と共に。
息苦しさが強くなっていく日々にテレビで見たのだった。
海外の若者が首を絞めて遊び死者が出ている、と。
「意識が無くなるほど」の遊びからの死亡だという。
だからこんな遊びはしないでくださいという意喚起のニュース。
彼女はこれだと思った。
息が詰まる思いをするなら、実際に息を詰まらせてみよう。と。
あの日以来彼女は首を絞め続けている。
凍り付いた冬の世界から、命が芽吹く春が来て欲しいと願って。