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カーテン越しのパーティー


「ハルカ様は勇者様だったのですのね!」

「そう、ですね。勇者のようなものですね」

「勇者様方のご活躍振りは王都にも届いておりますわよ!」

「あー…嬉しいです!」


「元々いらっしゃったお国とマームコット王国と、どちらの方がお好みですの?」

「(日本とは言い辛い…)そうですね…どちらも一長一短といったところでしょうか」


「さすがド・リュミエール家のお料理ですわね!どれも逸品ですわ!」

「美味しいですよね!」


全然商品の話ができない!!!!

世の中の販売員と呼ばれる人たちは、どうやって商品を売り込んでいるのか…?

全くわからない…。だって私は、まともにアルバイトすらしたことがないのだぞ!!!

しかも上流階級の方が求めているものも全然わからない…。いつもは向こうから話を振ってくださっていたので、受け身でも良かった。でも今はそれではいけない。


煌びやかな会場内で、ルルー様はしっかりと賓客をおもてなしししている。ヴァネッサも、あのノリの良さと自信満々な態度がウケける人にはウケているらしい。次々とファッションの相談や、今後のトレンド予想の話などをしているようだった。横目で暴走しないかを見張りながらなので、ものすごく疲れる…。


私は空いている部屋に入り、地面に座り込んだ。素敵なドレスで土足のエリアの床に直に座るのは汚いかもしれないが、輓獣牛の革は汚れに強いからサッと取れる。なので気兼ねなくリラックスできる。今はほんの少しでも息を吐きたいのだ。

「…はあ…疲れた…」

少し靴擦れしたパンプスを脱ぎ、胡座をかいた。そのまま年季の入った天井を見上げ、横のパーティー会場の音を聞き流していた。ジンジンと痛む足が解放されたが、気分は緊張状態だった。カフェインを摂りすぎた後のような、心拍数の速さが一向に収まらない。


「遥ちゃん、お隣いい?」

仕切りのカーテンから、葵さんが顔を覗かせていた。

「もちろんです!」

美しい朧花色のレースがふんだんに使われたドレスを身に纏った葵さんは、いつもよりさらにお姉さんっぽく見えて少しドキッとした。

「あ、ここにどうぞ!」私はハンカチを隣に広げた。

「あら、紳士的ね。ありがとう」

「今日は来てくれてありがとうございました」

「こちらこそ!頑張っている遥ちゃんを間近で見れて、なんだか誇らしかったわ」

「え!本当ですか?!」

「うん。遥ちゃんも、剛士くんも、総一くんも、みんな自分のやりたいことを見つけてひた走るってのは、本当にかっこいい」

「私からしたら、葵さんの方がかっこいいですよ。きちんと公務員として働いてて、ココアちゃんの面倒も見てて…」

「そうかなあ…」

そう答えた葵さんは足をパタパタさせた。



「…あ!!!そうだ!!!葵さん、ちょっと聞いてくださいよ!」



急に現実を思い出した私は葵さんにヴァネッサの罰金の件について相談した。

「うーん…そうねえ…

基本的に業務中の違反や罰則は、それをしてしまった本人の問題なのよねえ…

だから会社が罰金なんかを払う訳にもいかない…ってのが、王国財務部経理局のペーペーからのアドバイスかなあ…」

「そうなんですか…」

「あとは、これでヴァネッサちゃんに同情して罰金を肩代わりしたら、会社としての前例をつくることになるでしょ?

そうしたら業務中は何をしてもいい、って思われても困るじゃない?」

「…!たしかにそうですよね!

…それに、そんな従業員や会社ってイメージがついても困りますもんね…」

「そうなのよね。これが大人の悩みかしら」

「うーん…でも、ヴァネッサお金ないんですよね…

借金の返済もギリギリみたいだし…」

「困ったわね…もし払えないってなると、最悪実刑になる場合もあるかも…」

「え!!!!!実刑ですか!?」


このブランドの立ち上げという大切な時にデザイナーが逮捕なんて…!

どうすればいいんだ…!!!!

顔から血の気が引き、だんだん体温も下がってきたような気がする…。

「 …じゃあ、たとえばだけど、会社として立て替えて、ヴァネッサの賃金から天引きするってのはどう?」

「おお…!そんなことができるんですか?」

「あなたが許可するならできるはず。会社の決定権は遥ちゃんが持ってるんでしょ?」

「そうです!あ、でも、もしかしたらルルー様が保証人と株式の半分を買ってくださるみたいで…株主って、なんか発言権?とかあるんですよね?」

「なるほどね…それはちょっと厄介かもね…」

「…?厄介ってなんですか?」

「株式会社ってシステムだと、株の保有率によって発言力が変わるの。

だからもし、今回のヴァネッサちゃんの罰金を肩代わりして給料から天引きってのにルルー様が異議を唱えるなら、株主総会で議題として扱う必要があるかも…。

総会でルルー様と意見が食い違った場合、持株の割合によっては遥ちゃんの判断が通らない可能性もある」



もしかして私は、自分のキャパシティ以上のことをしようとしているのではないか…?


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