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晩餐会

広い食堂の中心には丸型のテーブルと5つの豪華な椅子が並べられていた。中で待機していたメリーさんが私の席を案内し、椅子を引いてくれた。


どうしよう…マナーもわからないし、軽食食べすぎちゃったし…


整然と並ぶ高級そうな食器や銀のカトラリー。食器の手前に見慣れている木製の細長い棒が2本置かれていた。それに気づいてから左斜めに座っているララー様を見ると、ニコッと笑ってからウインクしてくださった。流石、ララー公妃殿下だ。


給仕の方が全員のグラスにスパークリングワインを注ぐ。その泡のようにこの場から消え去りたい…。

「では皆様、今夜はゆっくりと食事を楽しみましょう。そしてハルカ様、ようこそド・リュミエール家へ」

フィリップ様が挨拶をし、グラスを掲げる。

皆様その後に続きグラスを掲げられたので、私もさらに後に続いた。

リリー様はグラスに口をつけるだけで、その他の皆様はそのまま一口飲まれているようだったので、私も一口飲んだ。スパークリングの華やかな香りが印象的でとても飲みやすいお酒だった。

一品目の前菜が運ばれた。さまざまな食材が使用され、とっても美味しそうだ。(感想)

「姉上、王都からここまでの街道は整備されていましたか?戦争で少し荒れていたと記憶しておりますが」

「問題なく快適に移動できましたわ。ありがとう。

ところでフィリップ、領地は落ち着きましたの?」

「そうですね…1年半経ちましたのでなんとか…」

私は皆様が1番端のフォークとナイフから使い始めたのを見て、真似してサラダを食べ始めた。うん、よくわからないけど美味しい。

「収穫量は戦時中と変わらない程度をなんとか維持しております。今は税を下げているので、領民も前向きに生活基盤の立て直しを行えているかと」

「でも貴方、お父様が亡くなってから、もう5年ほど働き詰めじゃない。ララーお姉様からも、何かおっしゃっていただけませんか?」

「リリー、僕らの生活があるのは領民のおかげなんだよ。もちろん、今の僕があるのはこの家に迎えていただいたのもあるけれど」


カチャン!!!


私の左隣から、ナイフとフォークを皿に雑に置く音が鳴り響いた。

「ルルー、今更マナーのお話はしなくてもわかりますわよね?」

ララー様が諭すように問いかける。

「…失礼いたしました。手が滑ってしまいましたわ…」

「…まあそういう時もあるさ」

フィリップ様が微笑みながらワインを一口飲まれた。

ルルー様の表情はよく見えなかったが、再びカトラリーを持たれた手は固く握られているようだった。


「ところでハルカ様は乗馬などされますか?」

リリー様が私の顔を見ながら話しかけてくれた。

「乗馬ですか…訓練で少し騎乗の経験はあるのですが、私は後方勤務でしたのでその後はあまり…」

「あらそうなのですね!明日、天気がよければご一緒しませんこと?気性の穏やかな子達が多いので、乗りやすいと思いますわ」

「で、では。よろしくお願いします!」

リリー様はニコっと微笑まれてから視線を私の左に移した。

「ルルーも久しぶりにどうかしら?ルミエットも寂しがってるわよ?」


カチャン!!!


再びルルー様がナイフとフォークを皿に落とされた。

「役に立たない『顔だけの三女』が今更、乗馬などしても無意味ですわ」

「ルルー、そんなことはないわ」

「ララーお姉様には、わたくしの気持ちなんてわかりませんわ!!!

…ララーお姉様は王家に嫁がれ、リリーお姉様はフィリップお兄様を迎えて侯爵家を存続させた。わたくしも、王家との縁談がございましたのに…

ド・リュミエール侯爵令嬢として、王家に嫁ぎ家を繁栄させることだけを学び、育てられてきたわたくしが今、どんな気持ちかなんてわかるはずありませんわ!!!!」

ルルー様は椅子を倒し、食堂から飛び出して行った。

「ルルー!待って!」

その後をリリー様が追いかけた。


「ハルカ様、申し訳ない。もっと楽しくお食事できるようにするべきでしたね」

「いえ、とんでもございません。その…ご家族のプライベートなお話に参加してしまって、こちらの方が申し訳ないと言いますか…」

「私が家長としてルルーに厳しく接するべきだったかもしれない」

「フィリップのせいではないわ。これは家族全員の問題なのよ」

「その…私、明日の朝になったら帰ったほうがいいですよね」

「そんなことないわ!それにリリーと乗馬の約束をしたじゃない」

「でも、ルルー様が…」

「あの子のことなら、わたくしがなんとかいたしますわ。しばらく顔を見に来なかったわたくしのせいでもありますし…」

ララー様が静かにカトラリーを八の字に置かれた。

「ド・リュミエール家は、代々王家に嫁がせることによって地位を確立してきました。わたくし達の父も、侯爵家を繁栄に導くためにわたくし達に教育を施し、王室との関係も良好なまま維持してくださいました。

そして無事にわたくしは王室に嫁ぎ、リリーはフィリップを迎え家を継ぎ、いよいよルルーが家のための婚姻をするタイミングとなりましたわ…」


私は手のひらをナプキンの上に置き、緊張で出てきた汗を吸わせた。


「その頃に魔王軍との戦争が始まってしまい、ルルーのまとまりそうだった王室との縁談の話が中断されてしまいました…。

父は指揮官として前線に向かい、そしてそのまま帰らぬ人となりました…。

フィリップやリリーが家の相続などで手一杯のタイミングで王室関連の法律改正が行われました。


『王家にした者の二親等以内の親族は、新たに王族との婚姻を禁ずる。』


これは、ド・リュミエール侯爵家がこれ以上、権力を握らないための他貴族からの圧力でしたわ。

わたくしはどうすることもできず、ルルーの縁談は御破算になりました…」



私のような一庶民からしたら『家のため』という発想には至らないが、そうやってずっと育てられてきた人からすると、人生が180度変わるようなものなのだろう。

しかも姉2人は家のために役割を果たしたとなると、全てがどうでも良く思えるのも無理はない…。


私はこんな状態の人に『お金をください』だなんて…口が裂けても言えないことを、お願いしてしまったのだ…。


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