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ディナードレス

「ハルカ様、ディナードレスはお持ちではありませんか?」

「ディナー、ドレス?」

「そういえば、今日はこのような予定になるとは思いませんでしたものね!どうしましょう…今のお洋服もハルカ様らしくて素敵なのですが…」


私は自分のこの世界での一張羅の服を見下ろした。白いシャツに赤いリボンをつけ、チェック柄のジャケットを重ねている。グレーのセンタープレスパンツと焦茶色のブーツ。

どう見てもディナーの服装ではない…。


「メアリー!ハルカ様のヘアメイクをお願いします!わたくしはその間にお洋服を見繕ってきますわ!」

「かしこまりました」

いつもは仏頂面のメアリーさんの瞳がキラっと一瞬輝いたのを、私は見逃さなかった。

「ハルカ様!足のサイズはいくつですの?」

「えっと、24cmです!」

「ハルカ様、こちらにお座りください」

私は鏡台の前の椅子に座らされ、メアリーさんはすぐにメイクボックスを持ってきた。

「いつもは奥様が1番美しくなるようにヘアメイクをしているので…あなたの顔に合わせられるかどうか…」

キラッと光った目の輝きはすぐに不安で失われたようだった。

「…大丈夫ですよ、きっと!それに私お化粧できませんし!」

「…それでは私がお手伝いさせていただきます」


その後のメアリーさんの手捌きは見事なものだった。時間のない中、私というモデルをディナーの場にふさわしいメイクを施してくれた。ヘアも巻いている時間がないので、シニヨンをあっという間に作ってくれた。

「…!すごいです…!なんだか、私じゃないみたい…!」

控えめな黒のアイラインが少しだけ目尻から伸び、瞼の上には細かく上品なラメのアイシャドウが散りばめられている。完璧なカールのまつ毛に、ほんのりとピンクのチークとうるうるなローズ色のリップ。七五三の写真撮影以来のお化粧かもしれない…。

「間に合って良かったです。…もう少し時間があれば、色々できたのですが…」

「いえ!そんなことありませんよ!素晴らしいですよ!」



ちょうどそのタイミングでララー様が1着のドレスとともに戻られた。

「さすがメアリーね。ハルカ様を完璧に仕上げてくれて、ありがとう」

「滅相もございません」

「さあ、ハルカ様。こちらをお貸しいたしますわ!わたくしの昔のディナードレスなんですの」

オフホワイトの美しい小さなラメが施されたドレスだった。袖がパフスリーブになっていて、少し若々しい印象だ。ドレスの生地で作られた花の髪飾りがセットだった。さらに同じオフホワイトのシンプルなパンプスも持っていらした。

「こんな素敵なドレス、お借りしてもいいんですか?」

「ええ、もちろんよ!さあ、時間がありませんわ!メアリー!」

「はい、奥様」                                                       

まるで魔法少女の変身シーンのようにあっという間に着替え終わった。

全身鏡に映るのは、少し大人っぽく見える私だった。

「ハルカ様、とってもお似合いですわ!サイズもピッタリ。良かったわ!」

驚きと嬉しさ恥ずかしさのあまり、声が出なかった。チークにさらに赤みがかった。

「さ、急ぎますわよ!」


大きなお屋敷なので廊下ももちろん長い。下手な都会のアパートより広いだろう。しかし今のおめかしした私にとって、この廊下は、さらに果てしなく続く道に思えた。蝋燭より明るい魔道照明が、もう少しだけ暗いほうが恥ずかしさが減るのに…。


吹き抜けで開放感のある部屋に入るとフィリップ様とリリー様が先に長いソファに座り談笑されていた。もちろんお二人とも昼の時間よりゴージャスなお洋服になっていた。

「あらハルカ様、お姉様のドレスですわね!よくお似合いですわ!」

「あ、ありがとうございます…」

私の体温がさらに上がり、心拍数もいつもと様子が違った。

ララー様は1人掛けのゆったりとした椅子に腰掛けたので、私は広いソファの端っこに大人しく座った。目の前のテーブルにはナッツやクラッカーといった食事とワインが置かれていた。ララー様がナッツをお召しになりながらリリー様とお話されたので、私も目の前の晩御飯を食べながら気を紛らわせることにした。

「…美味しい」

「ハルカ様は異世界からいらしたんですよね。もしよろしければ、お国のこと教えてください」

赤ワインを片手に、軽く足を組み優雅に質問してくださった。

「そうですね…私の国は美しい四季があります。魔法は存在せず、その代わり科学というものが発展しています」

「それは興味深い!科学というのは、魔法より便利なのですか?」

「そうですね…現代人は科学の発展により、大きな恩恵を受けていますね。飛行機という空飛ぶ移動手段なら…たぶん、今日のこの道のりが数分で移動できますよ」

「…!!それはすごい!ぜひ私も、その瞬間移動のような乗り物に乗ってみたいですね!」


フィリップ様や他の貴族の皆様は、やっぱり雑談力に長けていると今日を通して私は学んだ。

そして緊張と爆睡のおかげがナッツやクラッカーを食べる手が止まらない。とっても美味しいのもある。しかし、他の3名はあまり口にされていないのだ。この国の上流階級の方は、夜は質素に食事を済ませる事が常識なのだろうか…。


でも、私はお腹が空いているのだ…!


そして10分ほどたった頃、ルルー様がやってきた。お洋服も薄いパープルのディナードレスで、髪型やメイクも少しだけ華やかなものになっていた。本当に童話に出てくるプリンセスのようだった。

「ルルー、ちょっと遅いのではなくて?」

ララー様が姉らしく怠惰な妹を軽く叱責する。

「だって食前酒の時間じゃないですか」

「でも晩餐会が始まる前の大切な場なのですわよ?」


ん…?待てよ………

これが晩餐会ではないのか…?

私は今食べようとしていたクラッカーをそっとお皿に戻した。



「皆様、準備が整いました」

フィリップ様の執事が颯爽と現れ、皆が移動を始めた。



私の腹は2分目くらいまで膨れていた…。



作者のぶどう味です。

この話は自分自身楽しみながら執筆できましたね。笑

ハルカはマナーを守りながら貴族の晩餐会を無事乗り切ることができるのか!?


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