保証人
「いやー、失敗しちまったな…」
私達はオリバーさんの工房に戻り、ホットミルクのマグカップを両手で握っていた。木製の椅子に座り、オリバーさんはテーブルに腰掛けて私の様子を伺っていた。
「ハルカ、大丈夫か?…その…あいつは、あんな感じじゃなかったんだがな…」
私は、なぜ怯えているのだろう…。
男性に怒鳴られたことが怖かったのか?
でも、これまでも職人さんに魔物の皮を取り扱って欲しいと頼み、散々怒鳴られ、断られてきたのに…。
何がひっかかっているのだろう…。
「やっぱり、ポーションの話がよくなかったんですかね…?」
「ん?…ああ、まああいつが留学できなくなったってことの象徴みたいなもんだからな…」
「…そう、ですよね。
でも、ポーションがなかったら、もっと戦争は長引いていたかもしれないし…そもそも連合軍が勝てなかったかもしれないし…」
「戦争は勝てたから良いってことじゃない。生き残っているから丸儲けってわけじゃない。みんなの人生が変わっちまうんだ…。それはお前さんが1番わかってることなんじゃねーのか?」
そうだった…
そんなことは私が1番わかっているはず、わかっているべきなのだ…
私の中の1番の問題は勝手に召喚されて日本に帰れないことだったが、この世界の人たちにとってはこの大戦や魔王軍というものこそが現実の脅威だったのだ。
「そうですね…」
「まあ、おめえさんが悪いっていうわけじゃない。悪いのは、国王と連合諸国のトップと魔王だ」
「それって、はっきり言っちゃって大丈夫なんですか…?なんかその、巨大な何かに潰されませんか…?」
「ガッハハ!!ワシにはこの鍛ぬかれた筋肉と、強靭な精神力がある!そんな奴らには正面から正々堂々戦ってやるぞ!!!」
オリバーさんは豪快に笑いながら、私の肩をバシバシと何度も叩いた。力を相当抜いているだろうが、脱臼するかと思うほど力強かった。
「それで、だ。エリオットの件だが、しばらくワシに任せてくれんか?」
「いいんですか?オリバーさんもお忙しいのに…」
「まあ、師匠みたいなもんだからな。ちょっとはワシの手腕に任せてくれや。嬢ちゃんも、これ以外にもすること、あるだろ?」
「…!はい!」
「ということで…あとは保証人ですかね」
「そうねえ…それが1番大変なのよね〜」
「そうなんですよね〜」
私は葵さんと様々な資料を広げながら作戦会議を行っていた。
「やっぱり葵さんが保証人には…」
彼女は横に首を振る。
「公務員だから、学費とか住宅ローンなんかの個人的な保証人とかにはなれるんだけど…営利企業への関与になっちゃうのよ」
「そうですよね…」
落ち込みに比例するため息と、沈黙が流れる。
コンコンッ
「はい!」
「失礼致しますわ!もー、ハルカ様ったら!
いらっしゃるのなら私に一言声をかけてくださいませ!」
「ララー様!大変失礼致しました!」
「あら、ブランドの打ち合わせだったのかしら。お邪魔してもよろしいかしら?」
「もちろんです!さあ、こちらにどうぞ!」
私が椅子を用意しようと動こうとした時、メアリーさんがサッと椅子をララー様の後ろにセットし、そのまま華麗にエスコートした。その流れのまま私の顔を見て『これが主人に使えるメイドとしての責務です』と言わんばかりの顔をして、部屋の端に移動した。私は手持ち無沙汰となった手で空中を掴んだ。
「…これは、商人ギルドの融資の保証人探しでしょうか?」
「そうなんです…!貴族様や大富豪のリストを極秘ルート(アンちゃん)から入手したので、どう攻略したものかと…」
ララー様は一通りリストを見られてから、私の目をまっすぐ見ながらこうおっしゃった。
「私の切り札、使いますか?」