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『BLEND』



「あら、久しぶりじゃない!オバ…社長!あの香害で野垂れ死んだのかと思ってたわ!」

久しぶりに見るヴァネッサは相変わらずだった。が、洋服が冬バージョンになっていた。身体のラインにピッタリと合っている黒のマーメイドドレスの上に、新雪のようなファーストールを優雅に纏っていた。いつもながら、実年齢よりかなり上に見えるファッションが好きなようだ。

「野垂れ死んでたのは嬢ちゃんのほうだったじゃねーか」

「ちょっと!!おっさん!!!あいつらは知らないんだから、バラさないでよ!!!」

工房内の1人を除いてみんなが思いっきり笑った。


「で、おねえさん、今日はどうしたの?私のこの美しい作品達を拝みにきたわけではないんでしょ?」

「うん、そうなの。今日はまたヴァネッサちゃんにお願いしたいデザインがあって…」

「もう!さっさと見せないよ!!」

いつものごとく偉そうな我らがデザイナー様は、新しい冒険を前に見えない尻尾をブンブン振っているようだった。


「これなんだけど」

私はニャアからもらったままの質素な瓶を取り出し、机の上に置いた。

「ふーん。香水かしら?まあまずは香りを確認しないとね」


ヴァネッサは瓶の蓋を開け、勢いよく鼻を近づけた。


「っ!!!!!!ゴホッゴホッ!!!」

「わ!大丈夫?焦って嗅ぐからだよ…」

「っるっさいわね…でも、これ、すっごくセクシーで良い香りじゃない!!!私にピッタリ!!!」

「うーむ…大人の女性につけてほしい香りだな。嬢ちゃんには10年早い」

「私もそう思う」

「もーーーーー!!!!みんなしてうるさいっ!!!」

「それで、この香水瓶をデザインしてほしいの」

「なるほどね!まあ、この世界で1番のデザイナーのヴァネッサ様に掛かれば、朝飯前よ!ちょっと待ってなさい!!」


彼女は腕全体を使ってデザイン画をみるみると書き上げた。


「ねえ!!香水の名前、決まってるの?」

「そうだった!この香水は『BLEND』!」

「ふーん…まあ良い名前じゃない」

さらに彼女のデッサンスピードが上がった。

「そりゃアンちゃんに名前考えて貰ったから!

ムスクスフィアの活用と私たちの企業理念『もったいない精神』を混ぜるって意味で付けたの!」


「できたわ!!!さあ!!!これを目に焼き付けなさい!!!!」

またしても彼女は自分の作品のデザイン画を私に放り投げた。

BLENDの香水瓶は正方形のトップに長方形の蓋が付いているシンプルなものだった。しかし瓶の右上がなだらかな曲線で抉られているという少しのアレンジが付いていた。中央に『BLEND』とシンプルなロゴが描かれていた。

「シンプルだけど、良いデザインだね…!なんか、長年に渡って愛されそうな香水になりそう…!!」

「ふふんっ♪この私、天才デザイナーのヴァネッサなんだから当然っ!!!」



「ところでアンタ…社長、ブランド名は決まったの?」

「…!!!!!!そうだった!!てっきりもう伝えたかと思い込んでた…」

「ハァーーーーーー??!!!バッカじゃないのーーーー!!!!!!!

決まったなら1番に知らせなさいよ!!!!!私がデザインしなきゃいけないの知ってるでしょ!!!!!!」

「本当にごめんなさい!!!……でも…色々忙しくて…」

「もーーーーーー!!!言い訳は無し!!!!!!さあ、早く教えなさい!」

「『HARUMOTTO』です!漢字…私が元いた国の言葉では『遥最』と書きます!」

「ふーん…まあ、いいんじゃない?あんたの名前とその『もったいない精神』を合わせたんでしょ」

「そう!!!よくわかったね!!」

「ま、まあ?アンタと私の仲だからね!!!」

またもや見えない尻尾をブンブンしているようだった。表情や態度に出てしまうこの14歳は、言葉こそあれだが、めちゃめちゃ可愛いのだ。


我が社のデザイナー様はこのブランドロゴのデザインには数日欲しいと言ってきた。私は了承し、香水瓶の発注に取り掛かることにした。


「オリバーさんはガラス細工は専門外ですよね…?」

「専門外だな。しかし、うちの若手の中に腕の良い奴がおるぞ」

「本当ですか!?」

私はトントン拍子に事が進むことにワクワクしていた。

「…しっかし…どうだかなあ…」

「…?」


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