あとかたづけ(移動)
「そうニャ!メイドの最後のお仕事、お願いしてもいいニャ?」
ブランチ代わりのホットミルクを飲みながら、私とアンちゃんは了承した。
離れの研究室の扉を開けるとそこはゴミ屋敷となっていた。私のいつものマジックボックスと同レベルくらいだろう。
「なんか捨てるにも、どのゴミに出せばいいかわかんニャいし、魔研に全部引き取ってほしいけどニャアの研究がバレるのも嫌だニャ…」
「これは大変っスよ…。
というか、ハルカちゃんも片付け苦手だし、『もったいない』って捨てられない性格なのに頼んでいいんっスか?」
ケタケタと笑いながらズンズンと足場のない道を歩いていく。
「ちょっと!私も誰かの指示に従えば片付けられるんだからね!」
「アンちゃんがいるんだから“魔王に魔剣”ニャ!
…ところでモッタイナイって、ニャに…?」
「じゃあ、ハルカちゃんは書類をひとまとめにして下さいっス!
ニャアはウチらが触ったらやばそうなものを率先して片付けて下さいっス!!」
「はい!アン教官!」「ニャアー!」
私がある程度の書類をまとめた頃、アンちゃんがその山を暖炉の前に並べ始めた。
「紙は全部捨てちゃっていいニャ!」
「はーい!」
「え、え!!!ちょっ、ちょっと待って!!!!!」
アンちゃんが暖炉に焚べようとしたその間に割り込んだ。
「出た!『もったいない精神』っスか?」
「だって、だって!ムスクスフィアっていうみんなが苦しんだ災害の特効薬と消臭剤の資料だよ?歴史的なものになるはずだよ!!」
「うーん…たしかに一理あるっスけど…」
「えーー捨てちゃっていいニャー!ニャアの家に保管するスペースはニャいニャア!」
「…じゃあ、私のマジックボックスに保管する!!!今は結構スペースに余裕あるし」
「でも、保管してどうするニャ?製法だけ残しておけばいいんじゃニャイのかニャ?」
「もーー!その議論は後々でもいいんじゃない!?とりあえずマジックボックスに突っ込めばいいんだよ!」
「ハルカちゃんらしすぎるっスよ!!」
ということで、資料や研究で生み出された物などのほとんどをマジックボックスに移動させるというなんとも私らしい結果になった。
後片付け…にはなっていないかもしれない…。
私は様々な形の小瓶が入った木箱を片付けて(移動させて)いた。特効薬のような深緑の奇妙な物体とはまた違い、深紫色の少しトロッとした液体だった。
「ねえ、ニャア。この中身ってなんなの?」
「ん?ああ、それはニャ、ムスクスフィアの成分分析の副産物ニャ!
ムスクスフィアの強烈な香り成分を抽出したエキスだニャ!」
「…つまり、人間にとっては毒ってことっスか!?」
「そうだニャ!捨てようと思ってたけど、どう捨てたらいいかわかんニャくて…
消臭剤まみれにするにもコストがかかるニャ…」
「うーん…その問題は魔研の領域かもしれないね…」
個人では限界がある話かもしれない。
そして改めて瓶をよく見ると、色の濃度がバラバラだった。深紫のものから、透けた薄紫色まであったのだ。
「ねえ、なんで色の濃さが違うの?」
「ああ、それはニャ、香りの強さが違うニャ!
それで消臭剤の使用量を見極めたりしてたニャ!」
ニャアが瓶の中から1番透き通った液体を選び、両腕が塞がっている私の鼻先で蓋を開けた。
「わ!!!!なにするの!!!
……あれ?いい匂い…?」
「そうニャ?ムスクスフィアは濃度を調節すると、人間にとって芳しい香りになるニャ!」
「うちにも嗅がせてくださいっス!
…うお!本当にいい匂い!なんか癖になるっスね!」
「ね!なんか引き寄せられる香りだよね!
やっぱりムスクスフィアの誘引効果は香りなのかもしれないね!」
「そうかもしれニャいニャ!」
「これって、健康に害はないの?」
「香りだけ抽出したから健康に害はニャイニャ!」
私は再び瓶から放たれる香りを堪能した。
一度嗅ぐと、絶対に忘れられないし、引き寄せられる…。
これは使えるのではないか…?
「ねえ、これを使って香水とか作れない?」
「香水って、フェロモンを人工的に生み出すものじゃニャいのかニャ?」
「フェ、フェロモン…!?」