( )家族
彼女の心の叫びは、限界そのものだった。
そして、こんな大変なことを抱えて私たちに悟られないように、心配をかけまいと生活していたのだ。
「辛かったね…
こっちに来てから、ココアずっと頑張ってきたもんね…
すごいよ、偉いよ、ココアは
慣れない生活に、慣れない戦闘…
苦しくても、私たちに気を遣ってくれてたよね…
それで、また生活環境が変わったのに、マーガレット様ともすぐにお友達になって、護衛という任務もこなして…
すごいよ!ココアってすごい子なんだよ!!」
「すごくない!!!
だって、今はこんな力、要らないんだもん!
要らないの!!!
私たちが戦ってきたことは、全部無駄だったの?
だったら、お家に帰して…
お家に帰してよ!!!!!!」
後にも先にも、これほど大きな声で主張するココアちゃんを見たことがない。
心の奥にしまい込んで、忘れようとしていた家族の記憶が、今溢れ出したのだ。
ココアちゃんはこんなにもハッキリと口に出してくれたんだ。
真剣な訴えには、こちらも相応の真剣さが必要なはずだ。
「お家に帰りたいよね…私もすごく帰りたい
今、総一くんが故郷に帰る方法を探している最中なんだ
だからもしかしたら、戻れる日が来るかもしれない
でも、それは今すぐじゃないんだ…
だから、それまでの間、私と、みんなと、一緒に今を楽しく過ごせるようにしない?」
ココアちゃんは私の言葉を最後まで聞き、自分の中で咀嚼し解釈しているようだった。
「どうかな?」
「……でも、学校では嫌われちゃった…」
私が話す間も葵さんときなこはココアちゃんを優しく抱きしめていた。
「そうだね…
きっとみんな、見たことがない力にビックリして、怖がってるだけなんじゃないかな…?
だから、どれほどの力なのか
どこまでパワーを制御できるのかをみんなに教えてあげるのはどうかな?
あとは、あの戦いがどれほど大事だったか、みんなの何を救ったのかイメージできてないと思うんだ
だから、これも一緒に教えてあげようよ
ココアちゃんが心を開いたら、向こうも開いてくれるかもしれないよ」
「もシ、ダメだったラ、きなこガ、そのクソガキヲ、一掃すル」
「きなこがやると大惨事になりそうだから、私が力になるよ!ココア!」
ココアちゃんは再び私達の言葉に考えを巡らせていた。
「……うん。わかった
ハルカちゃん、葵ちゃん、きなこ、一緒にやってくれる?」
しばらくの沈黙の後、返ってきた希望の言葉に胸がいっぱいになった。
「…!うん!もちろん!!」
葵さんが毛玉の尻尾ごと『小さな大守護天使』を抱きしめた。
私もその一家団欒に混じって全てを抱きしめた。
私たちは誰1人として血は繋がっていない。
でも、この空間は紛れもなく家族だ。
きなこ以外の私たちはマーガレット様が待つ、あの部屋に戻ってきた。
ココアちゃんは緊張した様子だったが、きっとうまく行くだろうと私は確信していた。
「私、ココア様が行方不明聞いて…
いてもたってもいられなくて、お城から抜け出したの…
ココア様はいつも明るいけど、大変な戦いの後だし、クラスメイトの男子はいじわるだし、傷ついてるんじゃないかなって…
あの男子たちのことなら、私が絶対にぎったぎたにしてやるの!!!
ココア様がする必要はないの!!
ココア様がいっつも私をしっかり守ってくれているから、私は安全に楽しく学校に行けてるんだよ?
ココア様が私の初めてのお友達で、本当にうれしいんだよ?
だから、ココア様!!!!!
帰りたいって、私の前で言わないで!!!
私のために、帰りたいとかもう言わないで!!!!
寂しいの!!!!!!」
非常に自己中な、色々な意味で幼い姫らしい言葉だった。
しかし、私たちがかけた言葉より1番の薬なような気がした。
また2人は大号泣していたが抱きしめあい、神話のような空間がパワーアップされていた。