帰りたい
ココアちゃんの足はとても早く、全力で追いかけてもどんどん引き離される。視界から消えないように追うことで精一杯だった。
ようやく追いついた先はきなこがいる小屋だった。大きなもふもふの体に身を任せ、しずかに泣いていた。
「ハ?アオイ?あんたが泣かせたノ?あっちいっテ」
「そうだけど、そうじゃないの…」
きなこはしっぽで優しくココアちゃんを包んでいた。
「ココア…?ココアも辛かったよね…。ずっと我慢してたんだよね?」
葵さんがゆっくり優しく語りかける。そして優しく手を彼女の頭に置いた。
「ごめんね…気づいてあげられなくて…」
葵さんは言葉を紡ぐが、私は何と声をかけてあげればいいのかわからなかった。
私がどん底まで落ち込んでいたときは、ララー様が熱すぎるお味噌汁を作ってくれた。優しく包み込んでくれた。
そんなことが私にできるのだろうか…。
9歳のココアちゃんには言葉ではない方が伝わるのではないか。
しかしココアちゃんは見た目よりしっかりしている。勇者という大変な仕事をこなした彼女は同世代より確実に精神年齢は上だ。
「ココアちゃん…私たちでよかったら、辛いこと、もっと教えてほしいな
全部言葉にして伝えてほしい
どんな辛いことも私たちが受け止めるし、一緒に何ができるか、考えたいんだ…
…教えてくれる、かな?」
私は声を振るわせないように慎重に伝えた。
長いような短いような静寂の後、毛から顔を離したココアちゃん。少し目が腫れて、鼻と耳が赤くなっていた。
こぼれ落ちる涙をきなこがしっぽで器用に拭ってあげていた。
「のね………あのね…」
「学校でね、マーガレット様の警護してるんだけど…
いじわるな奴らがいて、マーガレット様にちょっかいかけるの
『俺らの税金でタダ飯食ってる』とか『お前らが戦争を引き起こしたって大人が言ってたぞ』とか…
マーガレット様は、その場では何も言わないけど裏では泣いてるの
私が隣にいない時もあるの…
だから、一昨日、またいじわるなこと言ってきた男子の肩をこづいたんだけど…
ちょっと力加減間違えちゃって…怪我させちゃったの…
それで、昨日謝ろうと思って…
そしたら『暴力女』とか『怪力オーク』って言われたの…
『お前がもっと早く来れば戦争は早く終わったって大人が言ってた』って…
私、来たくてここに来たわけじゃないのに…
頑張って勇者になったのに…
なんでそんなこと言われなくちゃいけないの?
私、学校行きたくない…!!
学校に私の居場所、ないんだもん!
お家に帰りたいよっ…」