研究とメイド業務
彼女は液体のようにダラダラっとしたり、家事をする私に執拗に付きまとって邪魔したりしている。猫は好きなのだが、言葉が通じあうと厄介だなと初めて思った。
だが、ムスクスフィアの分析を進めている彼女の横顔は真剣で、迂闊に声をかけられない雰囲気を纏っている。離れの研究室の様子をたまに覗きに行こうとするのだが、耳の良い彼女がドアを越しに「邪魔するニャ!!!!」と入れてくれない。専門家の研究の邪魔をしたいわけではないのだが、たまーに変な煙が出ていたり、たまーに変な音が聞こえてくるので心配になる…。
お世話係というか、住み込みのメイド業務も意外と馴染んできた。毎日の洗濯の量は半端じゃないし、抜け毛のせいで掃除も大変だ。しかし、王都で人気のニャア特性ハーブティーが飲み放題だったり、ニャアが秋までに収穫していた山菜や魔草の美味しいレシピを教えてもらったり、ニャア特製の良い香りで洗い上がりの良いシャンプーや石鹸を使わせてもらえるのも地味に嬉しいポイントだ。なんだか内からも外からも、美しくなっている気がする…!まあ、ニャアと私の性格が合わなかったらここまで居心地良く生活できなかったかもしれない。
(あれ、なんで仕事だと片付けとかができるのに、自分のマジックボックスはぐちゃぐちゃなんだろう…)
そうして3週間が過ぎた。
寒さで目を覚ました私は毛布で包まったまま窓に移動し、あたり一面の新雪を見て時間の流れを痛感した。
「そりゃあ寒いわけだ」
ニャアを起こそうと思い、隣の毛布の塊をゆすったが反応はなかった。めくってみるとそこに丸まっているはず彼女の姿はなかった。
「あれ…徹夜で研究してたのかな…」
そう思った途端に下の階から軽快な足音がだんだん近づいてきた。
「ハルニャ!!!!!完成したニャ!!!!」
満面の笑みのニャアが頭や肩に雪を乗せたまま部屋に飛び込んできた。
「本当!!!?もうできたの?!見せて見せて!!」
さすがは王立魔法研究所に所属していた研究者だ。これで、やっとみんなを救うことができる…!
「まずはこれが吸引薬ニャ!」
ニャアは350mLほどのシンプルな瓶を差し出した。深緑色の粘度の高そうな液体が何故か勝手に瓶の中で動いている…。
「へ、へー…なんか、すごく効き目ありそうだね………ってこれを吸い込む、ってこと!?」