マーガレット殿下捜索隊0班
『マームコット王国第二王子公女マーガレット殿下捜索隊』はすぐに編成された。ムスクスフィアの群生地内にいるかもしれない、とのことで捜索範囲は絞られたが防衛隊など全員を投入できるだけのガスマスクがない。入れるものは全員群生地内を、そのほかは魔研のかけている防御結界の穴を見つけるためにくまなく捜索が行われた。
私もこの捜索隊に入れてもらったが、0班に配属となった。つまり公には、捜索隊の中には入っていないことになっているのだ。0班のメンバーはミネルバ副隊長、リリウス所長、葵さん、私の4名だ。きなこは鼻が使えないのでお留守番となった。最後まで一緒に行くと聞かなかったが…。
我々は城内の地下通路をメアリーさんの後に続いて歩いていた。この地下通路は、王族メンバーとごく一部の使用人や大臣レベルでないと知らない隠し通路だ。国家の危機の際、秘密裏に抜け出せるようにと準備されたうちの一つだそうだ。マーガレット様が誰にも気づかれずに城を抜け出したので、ここを通っていた可能性が1番高い。しかし、皆に知られるわけにはいかないので、この少数精鋭メンバーとなったわけだ。
(きなこだとこの狭い通路に入れないし…。)
この隠し通路の入り口は入り組んだ設計となっており、私は一回では絶対に覚えられそうになかった。7歳のマーガレット様が覚えていらっしゃるのが単純にすごい子だと思った。
「開けた形跡も完璧に隠していらっしゃるので、ララー様のご指導をマーガレット様はきちんと守っていらっしゃるのです」とメアリーさんは言っていた。
大人一人が通れるほどの大きさしかなく、天井も高くない、灯りも窓ももちろんない。王城から王都の外まで続いているし、子供の足だ。この道を歩ききるだけでも褒められるレベルだ…。
それほどまでマーガレット様はココアちゃんを心配していたのだ…。
「これだからムスクスフィアは災害認定しろと進言していたのに…」
ミネルバ副隊長がボソッと呟いた。しかしこの独り言は、王立魔法研究所所長としてムスクスフィアの研究をしている人物に聞こえる程度だった。
「これだから脳筋は嫌なんですよ!災害認定して、根絶やしにして、生態系や魔力循環系などが崩れてしまったら、あなた方は我々研究職に責任を擦り付けるんですよ!」
「そちらこそ、研究費だなんだといって国庫の金をなんだと思ってるだ!その金があれば、こちらだって戦争のときは…」
「いい加減にしてください!!!!!!!」
先ほどからずっと静かに歩いていたメアリーさんが声を荒げた。
「今、その言い争いをして、マーガレット様が見つかるんですか?
今、この場で歩みを緩め、言い争うべきことですか?
今、すぐに結論が出て、協力し合えるんですか?」
我々は足が緩みそうになったが、彼女は歩みを止めることなく叫んだ。
「…各省庁の因縁は、一メイドの私も承知しております。
非常事態の中で本音が出る気持ちも理解しております。
しかし、今は皆様の協力が必要なのです…
マーガレット様は王国の宝です。
奥様にとっても、マーガレット様は大切なお方なのです…
この責任は全て私に擦りつけてください。
マーガレット様をお一人で行かせた、この無能なメイドの私に全責任を押し付けて下さい。
なので…どうか…
どうか……
無能なメイドではマーガレット様の元まで行くことができません…!
皆様のお力が必要なのです…!
どうか、どうか…お願いいたします…!!」
彼女は足を止め、振り返り、綺麗に結ってある頭を深々と下げた。
私は初めてメアリーさんに会った時、感じの悪い人だと正直思った。
私に対して、なんだか当たりが強くないかと思っていた。
でもそれは、マーガレット様やララー様を大切に思っているからこそ、不審人物ではないかと警戒しての態度だったのだ、と思う。
主人や公妃という立場だけでなく、お二方がメアリーさんにも誠実に接しているからこそ、頭を簡単には下げなさそうな彼女がこうしているのだ。
「申し訳ございませんでした。我々は互いに協力し、マーガレット姫をお救いいたします」
「こちらこそ、申し訳ございません…こんな場でするべき争いではありませんでした。魔研所長として、必ず姫を無事に救助します…!」
調査団の時より、副隊長と所長の結束力が増した気がした。
そして我々はやっと、この長い長い隠し通路の執着地点についた。
「皆様、どうか…マーガレット様のことをよろしくお願いいたします…」
「はい!」