失踪
「それで、マーガレット様も一緒だったのよね?」
葵さんは安堵の表情を浮かべようとしていた。
しかし私には全く意味のわからない言葉だった。
「マーガレット様ですか…?ココアちゃんしかいませんでしたよ?」
私の言葉を聞くなり葵さんは血相を変えて走りだした。私とリリウス所長は、友を待たせているメロスの如く走る彼女の背中を見失わないようにするのでやっとだった。行き着いた先は第二王子夫妻のシッティングルームだった。つまりララー公妃のお部屋のひとつだ…。
いつも私たちに笑顔を届けてくれる、女神のようなララー様は目を真っ赤にしながら、豪華な一人用の椅子に浅く座り、片手には白の綺麗なハンカチを、もう片方の手はメアリーが隣でしっかりと握っていた。
「ララー様、ココアのみがムスクスフィアの生息地内で発見されたそうです!」
「…!!!そんな!!」
ララー様が泣き崩れ、前のめりになるとすかさずメアリーが支え「奥様、私がついております」と何度も声をかけていた。
私もこの状況を見て、やっと何が起こっているのかを理解した。
マーガレット様が行方不明なのだ…。
私とリリウス所長は時系列や事実確認をするために、皆と話し合った。
現段階の情報をまとめるとこうだ。
ここ最近、ココアちゃんはずっと体調を崩していたそうだ。あのムスクスフィアの発芽以降だ。葵さんとマーガレット様は毎日様子を見に行ったが、特にマーガレット様がとても心配なさっていたそうだ。侍従たちにも「精のつくものを食べさせて」と自らお願いしていたそうだ。
しかし今朝、ココアがいきなりベットから起き、制服に着替えて出かけたのだ。葵さんは「もう体調大丈夫なの?いまから学校行くの?」と声をかけたが返事はなかったそうだ。
しかし、お昼過ぎにマーガレット様が護衛と一緒に帰宅された時に「学校には来てない」と答えたと言う。
そこからココアちゃんが行きそうなところに片っ端から確認をとったが、どこにもいなかったのだ。体調が戻ってすぐとはいえ、防御力王国最高の『小さな大守護天使』なので一人での外出は、これまであまり心配していなかったのだ。そのため今回もすぐに帰ってくると思っていたのだ。
このことを葵さんやララー様と一緒に聞いていたマーガレット様が突然王城内から姿を消したのだ。
「ココアも学校に行くはずだったのにどこにもいない、マーガレット様までが消えて…。
だから、もしかしたら王城内に誘拐犯が侵入していたのかもしれない…とか色々考えてたの…。
きなことか、鼻の利く魔獣たちにマーガレット様たちの匂いで足跡をたどってもらいたかったのだけど、このムスクスフィアの香りに邪魔されてどうにもできなかったのよ…」
事態は深刻だった…
しかしココアちゃんはムスクスフィアの生息地内で発見された。一般人ですら、ムスクスフィアに誘引されている可能性が出てきている。
「もしかしたらですけど…マーガレット様もムスクスフィアの中にいるのかもしれません…」
「…そうかもしれませんわね…。ココア様もそこで見つかったのなら…。マーガレットは聡い子ですから、そういった予想を立ててそのまま追いかけたのかもしれませんわ…」
ララー様はこんなお辛い状況の中、意識と姿勢をしっかり元に戻した。いつも思うが、とてもお強い方だ…。
「メアリー、今すぐに捜索隊を組んでマーガレット捜索を…。皆に悟られずに城から出たとすれば、あそこからだわ…」
「承知しました」