小さな大守護天使との戦闘2
戦闘が始まってしまった。
『小さな大守護天使』はやはり鉄壁を誇り、ミネルバ副隊長からの攻撃にも耐え続けていた。副隊長の攻撃は、速さと重さ、加えて攻撃回数がずば抜けている。次々と繰り出される攻撃に耐えられるのはココアちゃんか防衛隊隊長くらいだと思う。ココアちゃん自身も大楯の他に防御魔法を重ねて展開しているので並大抵の攻撃では盾にすら到達できないだろう。他の防衛隊員も魔研のサポートを得て攻撃を加えるが、大抵は防御魔法に弾き返されてしまっている。
いつもと同じようで、違う…。
話しかけた時の態度もいつもと違ったし、返事がなかったし…。
リリウス所長はココアちゃんに精神異常を無効化する魔法や、呪文を解除するための護符を描いたりポーションを投げたりしたが、どれも効果がなかった。
「精神支配系の術でも、あそこまで完全に支配し行動させるのは並大抵ではないぞ…もしや魔王自身がかけたのか…?」
魔法…洗脳…呪い…私では知識が足りない…。
ココアちゃんの表情は魔王軍と戦っている時のそれとほとんど変わらない。しかし目だけが全て白目になっており、見えているのか見えていないのか、こちらからはわからないがしっかり戦えている。
そういえば、どうしてココアちゃんはこの激臭の漂う空間に居るにも関わらず、匂いを気にしていない様子なのだろうか…。密猟者でもマスクをつけていたり、口と鼻を覆う格好をしていた。普段着のまま、なにも荷物を持たずに…たまにいる気を失っている一般人のような格好だ…。
「所長、ココアちゃんってなんでこの匂いの中、こんなにも平然としているんですか?」
「…!そう言われたらそうじゃな…もしやムスクスフィアが関係しとるんか…!?」
「密猟者はわかるんですけど、一般人も迷い込んでる人がいますもんね…」
迷い込んでる?
でも、魔法使いたちが結界を張っているのに、どうやって戦闘能力や魔法の知識がなさそうな人までいるのだろうか…
私はここで天啓を受けたようにひとつの仮説が頭に浮かんだ。
「その、もし迷い込んでるじゃなくて『誘引されている』だとしたら…?」
リリウス所長がハッとした表情をこちらに向けた。
「それは、ムスクスフィアが誘い込んでる、ということかね」
「あくまでも仮説ですけど…」
「そうかもしれん…すると、匂いを断てばいいのじゃな…」
「ミネルバ!下がるんじゃ!!」
副隊長が所長をチラッと見てから、すぐにその場を離れた。所長はすぐにココアちゃんの防御魔法の中に空気浄化魔法を空間ごと展開し、ものすごい勢いで浄化を始めた。
そしてココアちゃんはだんだんと意識を戻していった。
「…あれ…また…こっちに…もどっ……」
そう呟いてから彼女はその場に崩れ落ち、再び意識を失った。
その後、調査を終了した我々は王都の治癒院まで急いだ。マジックボックス内の患者のこともあるが、洗脳状態だったココアちゃんの容体も心配だからだ。幸いココアちゃんは意識を失っているだけで、他に身体的な問題は見当たらなかった。治癒師もそのうち目が覚めるだろうと言っていた。
「ムスクスフィアがこんな性質も併せ持っているとは…まだまだ研究することだらけですね」
「そうですね…
リリウス所長、同行させていただいてありがとうございました!
あと、ココアちゃんを無傷で救ってくれて、本当にありがとうございます!」
「いや、ワシこそあなたの発想がなければ解決できなかったです。
ありがとうございました。また何かあれば…」
私たちは王城でこのようなやり取りをしていた。
葵さんにココアちゃんの話をしなければいけないからだ。きっと、帰ってこない彼女を心配しているだろうから。
しかし、想像していたより城の中は騒々しかった。
防衛隊員やメイドたちがあっちこっちに走り回っているのだ。
「葵さん!」
「ハルカちゃん!帰ってきたのね…!」
「はい!帰りに、ムスクスフィアの生息地にいたココアちゃんを保護しました!」
「本当?良かった……!」
やはりこの騒ぎ具合はココアちゃんの帰りが遅いためだったのだろうか…
「それで、マーガレット様も一緒だったのよね?」