ムスクスフィアの収穫
「これがムスクスフィアの芽…」
我々はついに群生地の中心部に到着した。
これまでに色々あったが(主に二省庁間のいがみ合い)、この美しい現象の前では皆心を奪われていた。
地中から伸びた茎は魔力を吸い取っているのか、オーロラのような光を放ちながら空に向かって伸び、枝の先には魔石が何個も実り、そこから独特の臭いを放っているようだった。『異世界版蓬莱の玉の枝』といったところだろうか。
「なんて綺麗なの…」
思わず触れてみたくなり、手を伸ばすと「ハルカ!!!ダメじゃよ!!!!」と所長に大激怒されてしまった。
「取り過ぎない程度に採取を。手早く行い、すぐに離脱します。
入ってからかなり時間が経ってしまいましたので…」
「はい!」
「あ、ハルカさんの報酬分も採取を」
「ありがとうございます!お願いします!!」
魔研の方々はグローブをはめ二人一組になり、一人は魔法で魔石を摘み取り、一人は特殊な瓶を持ち回収の後、厳重に蓋を閉めていた。いくつかの回収を手早く行った後、一つのムスクスフィアの木を根本やその周りの土ごと回収するという大作業を4人全員でしていた。これを手伝ったわけではないが、今回の調査で1番緊張した瞬間かもしれない。
また回収した瓶や一本のムスクスフィアはリリウス所長のマジックボックスに収納していた。なんと私以外にもこのスキル保持者がいたのだ…!
「まあ、長いこと生きているのでこういったスキルの習得が可能なんです」と言っていた。
幼い見た目でこれを言われても…やはり異世界だと向こうの常識が通用しないな…。
それにしても、スキルは先天的に会得しているものだとばかり思っていた。しかし、“長命かつ、魔法の才がある”王立魔法研究所の所長だからこそ習得可能なのかもしれない。
採取が終わる頃、ガスマスクの空気浄化魔法の性能もだいぶ落ちてきてしまった。息が少しずつしにくくなってきたのだ。
「では、戻りましょう。密猟者もかなり捕まえましたし、帰りはそこまで戦闘などにはならないと思うのですが…」
リリウス所長の予想どおり、行きほどは密猟者にも出会わなかった。しかし、なぜか一般人らしき人も道中で倒れていたりしたのだ。
「どうして冒険者じゃない、一般人まで採取しに来ようとするんですかね…」
「さあ…あの連中と同じで金に困ってるんじゃないか?」
「そうなんですかね…まあ私も一般人ですけど、今はお金が必要なタイミングですから…」
「そうだったな。まあ、人の事情なんて、見た目からじゃわからんこともあるさ」
そう呑気に世間話を続けながら帰っていた。
日が傾いてきた頃、夕日を背にした小さき人形の影がゆっくりこちらに向かって歩いてきた。見たところ、武器などを持っていないようで密猟者ではなく一般人のようだった。
しかし、影が鮮明に見えてきた人物を見て私は驚愕した。
それはココアちゃんだったのだ。