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王立魔法研究所



その日から、王都は混乱状態になった。

街ゆく人々は、口元を布で押さえながら足早に用事を済ませ帰宅する。

露店などは軒並み営業休止し、飲食店も持ち帰りメニューを増やすなどして対応していた。

ヒーラーの治癒院には、頭痛・めまい・咳などの治療を求めて患者が殺到していた。


「離れてる王都でもこんななのに、よく採りに行こうなんて思うやつがいるっスよね〜」

「まあねー。とはいいつつ、私も行きたいうちの一人なんだけど…」

「うちの知り合いにも、貴族の依頼で採りに行った人いるっスね…まあ、そいつは昔の怪我の後遺症で鼻が効かないんスけど」

「そっか…そういう人は向いてる案件かもね」

「ちょっと、お二人さん!ちゃんと手も動かして欲しいでごわす!バイト代、出せないでごわすよ!」

はちまき姿の剛士くんが、いつもはほんわか優しい表情の剛士くんが、今日は親方のような出立だった。

「「…はーい!」」


私たち二人は仕事もないため、お客さんのいないガランとした勇者庵のホールで、アンちゃんはお弁当の蓋を開け並べる作業を、私はしゃもじと桶を手にお米をつめるアルバイトをしていた。

本来なら魔石の探索やら、資金集めやら、出店場所の選定など開店に向けた準備をしなければいけないのだが…

「帰ってこれない冒険者も多いっスよ…」

「なんとか安全に持って帰る方法とかないのかな…」

「そういえば、魔研で研究してるって聞いたことあるっスよ!」

「魔研って、王立魔法研究所?」

「そうっス!しかし、今は人手不足っスね…治癒院に人を派遣しなくちゃいけないっスから

調査団を組んで群生地に派遣したいって所長が言ってたんスけど、どうなったっスかね」


私はしゃもじと桶を置き、荷物をひっつかんだ。

「よし!私、行ってくる!!!」

「え、行くって、まさか…ちょっと待って欲しいっス!!」

「ちょっと!二人も抜けられたら困るでごわす!アンちゃんは残ってほしいでごわす!」

「……ういーっス……」


ハルカちゃん…猪突猛進なところはある意味尊敬っスけど…所長と揉めないといいっスけど…

とアンはお弁当詰めバイトを続けながら考えていたのであった。




———————————————————




「たーのもーーー!!!!」

私は魔研の門を(物理的にも)叩いた。


「な、なんなんですか。あなたは」

145cmほどの、かなり細身の身体で、薄紫のサラサラの髪をマッシュルームにしてメガネを頭に刺している男の子が所長室にいた。資料を両手いっぱいに抱え、掃除をしているのだろうか。

所長室は全ての壁が天井まで棚になっており、詰め込めるだけ本や瓶に入ったサンプルでひしめき合っていた。

「あの、こんにちは!所長さんはいらっしゃいますか?ブフォ!」


近づこうとすると、目の前に薄い水色の結界障壁が張られており私は顔面を強打した。

この障壁は不審者を隔離するにはうってつけで、…って不審者は私か。


「はあ?なんなんですかあなたは。というか、アポは取ってるんですか?」

「あー…取ってないんですけど…(入城許可は貰ってるけど)まずかったよね…」

「当たり前じゃないですか…というか、警備はこの不審者を止めなかったんですか!?」

「あー、その警備の皆様とは知り合いで…事情を話すと入れてくれて…」

「まったく…この城の警備はガバガバですか?…後で叱っておかないとですね…」

「あっはは…ごめんね〜…ところで所長さんは外出中かな?」


少年は台に上り、目の高さを合わせ私を睨みながらこう答えた。





「ワシが所長のリリウス・アンゼルですけど」





心臓とその周りの臓器がヒュンっと一気に冷え、寿命が確実に3年くらい縮んだ…。


だって、だって…

どう見ても小学生じゃん…!!!ココアちゃんと同い年に見えるよ????

で、でも、勇者でもない、こんな小さな子供がそれなりに習得に時間のかかる結界障壁を張れるなんてありえない…。


僕ちゃん…彼は不審者を観察するように顔を少し傾けた。

その髪の毛の間から、細くて普通の人より長い耳が少し見えた。

エルフだったのか…!

どうりで一人称が「ワシ」だったり、この見た目年齢なのに魔研の所長なのか…!!


ど、どうしよう…

めちゃめちゃ失礼な話し方をしてしまった…!!!!


「ワシも忙しいんですけど、なんか用ですか?」

「あ、そ、その…」

「今年がムスクスフィアの開花とは…ワシの予測もまだまだ精度が甘いな…」

僕ちゃん…彼は資料をシャーーーーっと目にも止まらぬ速さでめくりながらデータを洗い出しているようだった。

「私、ムスクスフィアの魔石が欲しいんです…!」

「なんじゃと…?」

リリウスはその手を完全に止め私の方へ、その可愛らしい顔を向けもう少しで接吻できるほど急接近してきた。

(まあ障壁があるのでそれはないのだが)

「私、ムスクスフィアの魔石が」

「いや、それは聞いた。壊れた魔道具のように繰り返すな…」

「す、すいません…」


どうしよう…


「それで、なんでムスクスフィアの魔石がほしいんですか?」


どうしよう…


「あれに近づかなくても、体調が悪くなるのはご存知ですよね。

もっと接近すると、死が待っているんですよ。

私たちはただでさえ一般人の治癒に忙しいっていうのに…

あなたは無駄死にする密猟者にでもなりたいのですか?」


「それは…」


きちんと理由を説明するべきだろう…。

大人だったら、もっともらしい言い方も、その引き出しも持っているのだろう…

アンちゃんや葵さんだったら、彼女達なりのやり方で上手く交渉できるんだろう…。

しかし、こういう時には私らしい言葉で説得するしかない!


「わたし『もったいない』って思うんです!!!」

「ハア?」

「『もったいない』ってわかりますか?

本来なら捨ててしまうゴミを、利用するって意味の言葉なんです!

まあ、ムスクスフィアはゴミじゃないですけど…

でも、危険な目に遭わなくても採取できるようになったら最高じゃないですか?

だから私を調査団の一員に入れてください!なんでもしますから!!!!!!」

「はあ…何を言い出すかと思えば…」

彼はまたしても顔を近づけ、息が当たりそうな距離で話し続けた。

「そんなこと、ワシが所長に就任する前からやっとるわ!!!!!!!」

キーーーーンと耳鳴りがするほど怒鳴られたのは、ミネルバ教官の稽古以来初めてだった。


「もう何十年、何百年単位で研究しとるわ!

生意気な娘や…全く…親の顔が見てみたいわ…」

「…すいません。親は異世界なので、見せることができません…」

「それは本当に見たいってわけではなくてだな…って、あなた勇者様なんですか?」

「そうです…一応…」

「そうか…通りで変なこと言うなと思ったら。勇者と言うがどんな顔じゃったかな…あれ、メガネメガネ…」

少年にしか見えないリリウスは、あちこち手探りでメガネを探しているようだった…。

その仕草は完全におじいちゃんだった…。

「その、頭にかけてますよ…」

「ん?おお、そうじゃった、そうじゃった」

彼のファッションの一部かと思った頭に刺していたメガネはガチメガネで、レンズの上は遠くを見やすく、レンズの下は近くの文字を読みやすくする構造になっているようだった。

完全に老眼鏡だった…。


かわいいショタなのに、中身は完全にジジイ…ショタジジイだ…。


「んー???こんな顔の勇者なんて、おったかのう…」

少年の美麗なお顔が、目の前に…!

老眼鏡をかけてなければ、嬉しい光景なのだろうが…。

「私、勇者失格なので…授与式とか端っこで見てただけなので…」

「ん?…ああ、そういえば1人、変わったやつがおるって聞いてたかもしれんな…」

結界障壁を解除しながら、魔法で椅子の上の本類を退かし、お茶を出してくれた。

それはそれは見事な流れるような動きだった。


「ウォッフォン…それで、勇者失格のあなたには何ができるんですか?

私たちも急いで調査団を結成し、派遣しなければいけないのです」

茶菓子まで出してくれているので歓迎してくれているのかと、一瞬でも思った私が浅はかだった。

まるで面接官のリリウスの正面に座り、背筋を伸ばし太ももの上で拳を軽く握りながら、真剣な眼差しを作り、話し始めることにした。


わたくしは、先ほども申し上げた通り『もったいない精神』を信条としています。

本来なら捨てられる魔物の皮や肉を利用し、カバンなどの新しい商品を作り出すことで、新たな価値を生み出そうとしています。

そのため現在私は、その魔物の革を利用したブランドの開店準備を進めており、その中核となる商品に魔石を組み込みたいと考えています。

魔石の美しさだけでなく、『魔物の革の利用』という新しい価値観を広めるためのシンボルとして魔石を活かしたいのです。


しかし、商人ギルドからの融資を受ける条件として担保となる魔石が必要です。

この条件をクリアし、ブランドをスタートさせるためにも、魔石がどうしても必要なのです。


また、私は魔石をただの装飾品にしたいわけではありません。

聞くところによれば、密猟者や上流階級の命令によって、魔石の採取で多くの冒険者が命を落としているとか…。


私は、新しい価値観を生み出すと同時に、人命が危険にさらされる現状を変えたいと思っています!


そこで、どうか私にムスクスフィアの調査に参加させてください!

魔石との引き換えに、私のアイディアと行動力、そしてマジックボックスを提供します!

きっと研究所のお役に立てるはずです!」


所長は老眼鏡越しに私の話を最後まで真剣に聞いてくださった。

緊張の時が流れるかと思いきや、返事はすんなり出てきた。


「今までにも、何人か採取を手伝わせてくれと言ってきた者はいましたが、あなたのような私利私欲と情熱を併せ持つ、それを隠すことなくおおっぴらにする変わった方はいませんでした。

わかりました。

それでは、あなたのその熱意と労働力と引き換えに、採取した魔石をお譲りしましょう」

「…!!!本当ですか?」

「ああ。ワシは同じことを2度も言わんぞ」

「っやったーーー!!!ありがとうございます!!!精一杯頑張ります!!!!」

私は緊張がほぐれたせいなのか、ガッツポーズを何回もしてしまった。

ショタジジイ所長は若者の喜び方を見て少し驚いているようだった。


「では、契約書を作成するので、外で少しお待ちください」

「はい!!!わかりました!!!!」

私はルンルンでスキップしながら扉の前まで移動した。





「あと、女の子が気軽になんでもするとか言うもんじゃないぞ」





作者のぶどう味です!


魔研所長のリリウスくん(ショタジジイ)、私的にはお気に入りキャラかもしれません…笑

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