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『生者を惑わし、死者を呼び寄せる 満月《フルムーン》までの幻惑』 ムスクスフィア



メアリーさんが用意してくれたサンドウィッチやスコーンの隣に、またまたすごい文字が書かれた米粉クッキーが並んでいた…


『気合一発』『天下無双』『悪鬼滅殺』


よくわからない言葉の選定に戸惑いを隠しきれない…

これがハートやらクローバーやらの形、パステルな色でアイシングされているのだから、意味を理解して…いらっしゃるのだろうが、なんとも食べ辛い…

「ララー様、すごいっスね!こんなに“漢字”知ってらっしゃるなんて、流石っス!」

「ふふふっ。ありがとうございます!

漢字の形が面白くて…

ついつい趣味のクッキー作りに活かしたくなるんですの!」

メアリーさんが隅の方で静かに頷いていた。

「ララー様は本当に日本語の上達が早いんです!

やっぱり5ヶ国語を操る才女は違いますよね!」


ガッチャンッ!!

「え!!!5ヶ国語ですか!?」

私は驚きのあまり紅茶のカップを強くソーサーに置いてしまった。


「あら、わたくしの周りですと、特別珍しくもありませんのよ?」

「ウチももう1つ、簡単でいいなら2つ喋れるっスよ!」

「メアリーさんは…?」

「…私は故郷が遠くなので、マームコット語が第2言語になります」

「カタコトでも複数言語話せる人の方が多いと思うっスよ!!」

「わ、私もなにか勉強した方がいいのかな…」

「私は仕事と育児…のようなもので今は精一杯かな…」


思わず紅茶をズズズっと啜ってしまった。

このアールグレイ?の香りが…少し気分を落ち着かせてくれ……?


「きなこ?どうしたの?」

「きなこ様、なんだか様子が変だね…」

一緒に遊んでいたココアちゃんとマーガレット様がいつもと違う行動を取っているきなこを心配しだした、

地面に鼻を当て這うようにしていたきなこが、ものすごい勢いで私たちをその大きな体で包み込んだ。


その瞬間、なにか今までに嗅いだことのない、鼻腔を強烈に刺激する悪臭が漂ってきた。


鼻を抑えても、味蕾でも反応しているのか匂いを防ぐことができなかった。

「なぶでずが…ごのいでゅー(なんですか、この異臭)」

「やばいっっっズ…いぎ、ぶりっっっっズ…(やばいっス…息、無理っス)」


この香りを防ぐマスクとかは持ってきてないし…どうすれば…




そうだ…!!!




馬車を含めたみんなにマジックボックスに避難していただいた。

「ハルカちゃんときなこの機転が効いたっスね!!サンキューっス!!」

「助かりましたわ…お二人とも、感謝申し上げますわ。

みなさま、お怪我はございませんか?」

「ゲホッゲホッ…ちょっと頭痛いかも…」

「ココア様!横になろう!誰か手伝って!」

葵さんとメアリーと一緒にマジックボックスの一角に簡易寝室を作り、ココアちゃんを寝かしつけた。

お優しいマーガレット様が隣についていてくれるそうだ。


「きなこ、お手柄じゃない。助かったわ」

「使い魔に褒められてモ、なにも出ないわヨ。それよリ、匂いが取れなイ…」

きなこが私たちを庇ってくれたおかげもあるのだろう、体毛にあの激臭が染み込んでいるようだった。

少ないが、私たちの洋服や髪にも香りが残っていた。

確かにこの香りをずっと嗅いでいると体調が悪くなりそうだ…。

しかし、ムスクスフィアの中に少しクセになりそうな匂い成分もあるようだ。

ガソリンスタンドの香りが好きな人がいる、みたいなものだろうか…。


「この季節が来てしまいましたわね…」

「“この季節”とは…?」

「3〜5年の周期で、一斉に地中から目を覚まし、1か月の活動期を経てまた眠りにつくというサイクルを繰り返す精霊『ムスクスフィア』ですわ」


ララー様は巻物を馬車から取り出し、ムスクスフィア警戒ポスターを見せてくださった。

『生者を惑わし、死者を呼び寄せる 満月フルムーンまでの幻惑』という見出しだった。

キラキラと輝く小さな胞子達が満月の次の日の昼間に地中から現れ、約1ヶ月の間、光合成を繰り返すことで魔石に変化しながら徐々に魔力を貯め、満月の夜に一気に魔石から魔力のこもった胞子をバラ撒く…。


「地中に潜るまでは魔石の形をしているので、密猟者が後をたたないのですわ。激臭で、体調不良になったり、最悪の場合死にいたるのですが…」

「魔石…そのムスクスフィアの地中での形がわかっていれば、次の周期の時に捕まえられるのでは?」

ララー様は静かに首を横に振る。

「地中では、土や木の根っこなどに擬態していて、見つけることができないそうですわ…群生地とその周囲は、王立魔法研究所とその許可を得た者のみが立ち入れるのですが…」

「それは、危険を承知で採りに行く人が後を絶たないわけですね…」

「そういった方もおられますが…冒険者に大金を払って採取させにいく上流階級もいるということですわ」


魔石、今私が一番欲しいものだ…

そうでなくても、大変なお金になるし、担保としての価値もあるのだ。

密猟者やお偉い方々の気持ちはわからなくもない…。





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