獣人族と人間
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「魔力ってなんなんですかね?」
私はキャンプをする勇者一行とミネルバ教官に唐突に尋ねた。
「『血液』みたいなものだと学んだでごわす。この世界の血液で、なくてはならないし、循環している…と教官は言ってたでごわす」
「うーん…わかったような…わからないような…」
私は飯盒炊爨部とその手伝いを申し出た剛士くんの作った、温かい肉団子入りスープを啜った。
「私たちの世界では魔法ってなかったじゃないですか。だけど、剛士くんをはじめ、みんなこっちに来たら普通に使えてるし…どういった原理なんだろうって思って」
「私も気になってた!普通、おまじないとか唱えても、魔法使えないもん!
こっちでもプイキュアのおまじないは、使えないんだけど…」
ココアちゃんはプイキュア好きなんだね…可愛いね。
静かに食事をしていた総一くんがスプーンをお椀に置き、メガネをクイっと押し上げた。
「僕が調べた限り、ということを念頭に置いて欲しいのですが…
天動説ってあるじゃないですか。地球が動かず空が動いているという。それを当時の人間は信じていた。しかし、現代を生きる僕たちは天動説が間違いだ、ということを知っている。
『知る』ことによって、その存在を認知し『確認』することによって自分の中に取り込める…
ということらしいです」
「うーん…わからん」
そして真面目な話をしているのだが、曇ったままのメガネで言われてもギャグシーンにしか見えない。
自分から聞いておいてなんだが、笑いを堪えている人が私以外にいてほしいところだ。
「まあ、お前らの世界の『科学』とかいうのを、私たちがあまり理解できない、ようなものじゃないのか」
「そうなのかもしれないですね…」
「おい、こんな獣臭い奴と同じテントは無理だぞ」
「ハア?田舎者は偏見がドギツくて、こっちこそ願い下げだぜ」
遠くの方で兵士が言い争いを始めているようだった。
「はぁ…またか…」
ミネルバがため息をつきながら、喧嘩の仲裁に赴いた。
片方は人間で、もう片方は犬獣人と人間のミックスのようだった。
その周囲にはそれぞれの種族ごとに固まり、一触即発という雰囲気だった。
「これだかラ、人間ってやーネ。いっつも言い争うことしカ出来ないのヨ」
「あんたそれ、私がいるのに言いますかね???」
「あラ、やっと私のご飯できたノ」
大きな大きな鍋を抱えた葵さんがきなこに向かって悪態をつく。
「獣臭いなんて言うが、お前らより俺らの方が鼻が効くってのに、まったくお笑い種だぜ」
「うるっせえんだよ!人間様に向かって、獣風情がキャンキャン喚くんじゃねーよ!!!!」
「おい!!お前ら、そこまでだ!!!!やめんか!!!」
一同はミネルバの圧に押される形で静かになった。
「お前、所属と名前は」
「っは!第16歩兵隊所属、2等兵トム・クレスであります!」
「そうか。で、どこ出身だ」
「その…エイハーチカ村です……」
「ほう…それはそれは…さぞ空気の綺麗なところなんでしょうな。その空気では、心までは綺麗にならんかったということですか」
「そ、………それは………」
「で、お前は?」
「第14歩兵隊所属、2等兵サージル・ワ・ワンであります!」
「そうか…お前ら獣人族やら、ハーフやらミックスやらの身体能力なんかが優れているのは皆が知っている事実だ。
そんな“皆が知っている事実”を、いちいち口に出さないと気が済まない性分も、お前らの種族には共通してるのか?」
「それは…違います……」
「お前ら、次騒いだら二人仲良く懲罰房でキャンプさせてやる。是非、私に申告したまえ」
「「すいませんでした……」」
なんとも見事な収め方であった。
「さっき教官が『またか』って言ってたけど、人間と獣人種には偏見のようなものがあるってことなんですかね…」
「うーん…どうやらそうみたいね…王城の中には人間種ばかりだったから、塀を超えた先には私たちの知らないことばかりなんでしょうね」
「ねエ、もっとジューシーに焼けないノ?私はこんな味でハ、満足できないんだけド」
「はいはい。今度からそうします」
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