融資
「うーん…そうですね…その『キャリーバック』には大変魅力があるのは間違いないのですが…こちらといたしましても、担保がないお客様には融資が難しく…」
「そ…そうですよね…」
私は融資を受けるため、商人ギルドの門を叩いていた。
相談ブースは個室になっており、当たり前だが秘密は守られている。
葵さんに色々相談し、やはり資金不足という結論になった。
商品見本もできたことだし、今ならいけるのでは…という希望的観測でここにいるのだ。
「土地や屋敷も持っておられませんし…ご親戚などもいらっしゃらない…うーん…ちょっと上司に確認してきますね」
「…!はい、お願いします!」
私は90度の角度でお辞儀し、フカフカの椅子に座り直した。
高級なラグ、装飾の凝ったテーブル、見事な絵画…
商人ギルドって儲かってるんだなあ…
ならそのお金の一部くらい、貸してくれてもいいじゃん…
まあこんな小娘に簡単に貸せないのなんて、わかりきっていたことだが…
「お待たせいたしました…って、あれ?ハルカ様じゃないですか!!!」
「あ!エイブラハムさんじゃないですか!お久しぶりです!商人ギルドにお勤めだったんですね!」
「そうなんです!戦後復職しまして…有難い限りですよ」
ブラウンの髪をワックスで丁寧に流し、髭も剃られていて、清潔感が感じられる。
この見た目は完全に出来るビジネスマンといったところだろう。
エメラルドの瞳の横には、年齢を感じさせるシワが少し刻まれていた。
兵士として戦った人々は、昔の職場に復帰している人も多いが、負傷し以前の仕事の継続が難しくなった人もいる。
これは一種の社会問題だ…。
しかし、私なんかがどうにか出来る問題ではないのだ。
「そういえば、膝の具合はどうですか?」
彼は美しい瞳をまん丸にさせ、口も開いていた。
「ええ、前よりかは良くなりました。たまにヒーラー様に治癒していただいてますので。
それより、そんなことまで覚えていらっしゃるのですか?こんな末端の兵の私のことなんて」
「覚えてますよ!エイブラハムさん初め、みなさん私にまで親切にしてくださったので…」
「そんなことございません!ハルカ様は、私共にとっては勇者様なのですから!」
「…!ありがとうございます!」
「さて…ではビジネスの話をしましょう」
「モンスターの革などの利用ですか…。たしかに新しい視点ですね。ハルカ様らしいです!」
「え、そうですかね?結構普通の考えかなーって思ってるんですけど…」
「いやいや、とっても面白いと思いますよ!商品も素晴らしい…!しかし、やはり融資をお受けすることはできません」
「そう…ですよね…」
大人の世界は厳しいのだと、つくづく思い知らされる…。
つい数年前までは子供だったのに、こうやって現実を学んでいくのだろうか…。
「しかし…2つ条件を提示させてください」
「条件…ですか?」
私の現実は真っ暗ではなかったようだった。
「はい。まず1つ目ですが、担保となるようなものをお持ちください」
「でも、私は土地とか持ってないですよ?」
「そうですね。しかし、他の物でも代用は可能です。例えば、金などです」
「…表彰された仲間は授与されているようですが、私は勇者失格なのでいただけていませんね…」
「そうでしたか…他には魔石なども金同様に担保となります」
「魔石もですか!?」
「そうです。こちらを私共商人ギルドか、もしくは提携銀行にお預けください。もちろん、私共の金庫は最高レベルの魔女・魔法使い様方による、何重にも張られた結界魔法で守られております。そのため、盗難や破損の危険性はございません」
「はい」
「そして、お預かりしました魔石の価値を慎重に評価し、『担保証書』を発行いたします。この証書はハルカ様の記録としてお持ち帰りください。返済が完了いたしましたら、速やかに魔石をお返ししますのでご安心くださいませ」
「そうなんですね…!ありがとうございま…」
「ただし、…もし返済不能となった場合、契約に基づきその魔石は差し押さえさせていただくこととなります。この点だけはご理解いただけますと幸いです」
「…はい。わかりました!」
ものすごく大人な会話だ…ギリギリついていけているが…。
「それから2つ目の条件です。保証人を立てていただくことです」
「保証人…」
「左様でございます。保証人とは、ハルカ様が万が一返済できない場合に、代わりに返済する責任を持つ方のことを指します。
融資契約上、保証人がいらっしゃることで、私共もより安心してお取引を進めることができます。信頼のおけるお知り合いや、経済的信用力のある方を保証人としてご紹介いただければと思います。
もちろん、ハルカ様がきちんと返済を続けられれば、保証人の方に負担がかかることは一切ございません。保証人の選定について、ご不明な点があればどうぞお気軽にご相談くださいませ」
「…わかりました。ありがとうございます!」
「私はハルカ様の夢を応援しています!」
「…!!!…はい!ありがとうございます!必ず条件をクリアしてみせます!」
わたしは希望と同時に、覚悟も背負い商人ギルドを後にした。