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公貴なおかたは背負わない



魔物革のランドセルは概ね好評だった。

しかし、ランドセルをメインにブランドを展開するのか…?


『ランドセル=小学生』の方程式が出来上がった我々の脳みそでは、これを一般向けに販売するのには疑問符が浮かんでしまう。


いや、でもここは異世界…なんでもやってみないとわからないのでは…?


いやいや、でもランドセルだぞ…?


そうこう考えているうちに、また部屋の扉がノックされた。

「どうぞー」

葵さんが返答すると、ララー公妃とその長女のマーガレット様がいらっしゃった。

「ココア様!お母様からお許しが出たの!城下町に遊びに行ってもいいって!」


マーガレット様はココアちゃんより15cmほど身長が小さく、ココアちゃんと同じ高さで縦ロールツインテールを作っておられる。

ララー公妃をそのまま小さくしたようなお顔立ちなので、将来の美貌は既に約束されているも同然だ。

15cmの身長差だがココアちゃんは今年で9歳になるが、マーガレット様は7歳。この身長差は当然だろう。


ココアちゃん自身は年齢差がありながら一年生として通うことに関して、任務ということを理解しているのでなんとも思っていないそうだ。

むしろ、こっちに来て初めて同年代の友人ができたと喜んでいるらしい。なんて良い子なんだ…


「本当ですか?」

「ええ。楽しんでいらっしゃい!」

「やったー!ララー様ありがとうございます!」

「ココア様!串焼き食べよ!あのスパイスの香りが飛んできた!」

マーガレット様がココアちゃんの両手を恋人繋ぎし、嬉しそうにジャンプしながら回転されている。(ここだけ神話の世界観が広がっている…癒される…!)

「マギー!ちゃんとココア様の他にも護衛官を連れて行くのですわよ?」

「はーい!お母様!」

「ココア!ちゃんと、お小遣いの範囲内で遊ぶんですよ?今月の分使い切っても、あげませんよ!あと、お腹いっぱいになるまで食べちゃダメよ?晩御飯入らなくなるから。あと…」

「もー葵ちゃんわかったって!いってきまーす!!」

ココアちゃんはマーガレット様と片手を恋人繋ぎしながら、スキップで出かけて行った。


「…葵さん、完全にココアちゃんのお母さんですね…」

「え、そうかな?私はお姉ちゃんのつもりなんだけど…」

困った顔をする葵さんはとても可愛らしいが、発言は完全にやんちゃな子供を持つ母親のそれだ。



「もしかして、これって魔物の革でございますか?」

ララー様が真剣な表情でランドセルを360度観察しながら尋ねる。

「そうです!オークの革を職人さんが試行錯誤を重ねて、制作してくださいました…!」

「持ってみてもよろしいですか?」

「ええ!もちろんです!」

「メアリー!ちょっとこちら、持ってみてくださる?」

「はい、奥様」

部屋の片隅にひっそりと待機していたメイドが静かにこちらへ寄ってきた。

小柄なメアリーというメイドはランドセルのショルダー部分を束ねて片手で持ち上げた。

「これは…非常に軽い、ですね」

「そ、そうなんです!あと、とっても丈夫で…」

持ち方が違うと伝えた方がいいのかな…

どうしよう…


「メアリーさん、これはこう背負って使うものなんです」

すかさず葵さんがフォローを入れてくれた。


フリルが多少崩れてしまうが、メイド服とランドセルという組み合わせは、一部の人には受けそうな気がする…

「そうでしたか…これは…面白い形なのですね…」

「メアリーとっても似合ってるわよ!」

ララー様は自分のことのように喜んでいらっしゃる。

そういえば、王族や貴族は荷物を自分では持たないのか?


「ララー様、不躾な質問かもしれないのですが…」

「ええ、どうぞ。なんでも聞いてくださいませ」

「王族や貴族の方は、荷物を持ち運ぶカバンのようなものは使われないのですか?」

「カバン…の定義がわからないのだけれど…こういった背負うタイプのものは使わないわね。旅行などでお洋服などをしまう大きな箱が一般的かしら」

「ララー様ほどの公貴なお方が、荷物なんて持つわけないでしょ、このド庶民が…」

「も、申し訳ございません…!」

「メアリー?わたくしに質問しただけですわ。異世界からのお客人なのだから、知らないことがあっても当然ですわ。…でも、私のこと気遣ってくれたのでしょう?ありがとう」

「いえ…私の方こそ…出過ぎた真似を…」

ララー様を見ていていつも思うのだが、喜びなどのプラスな感情は多少出すが、怒りや悲しみなどのマイナスの感情の時も決して声を荒げることもなく淡々としていらっしゃる。

これが公貴なお方のなせる技なのだろうか…


「それで、こういった魔物の革を使った商品を、高級路線で販売したいなと考えているんです」

「そうですわね…もしかしたら、このランドセル、という形では難しいかもしれませんわね…」

「そ、それはどうしてでしょう?」

「先ほども申し上げました通り、わたくしたちは自分で荷物を持つことはありません。

従者に全て任せ、身ひとつで出先に向かいます。

自分で背負う形のカバン、ましてや今まで使われていない魔物の革となれば…売れ行きは芳しくないだろう、というのがわたくしの見解でございますわ」


ララー様のおっしゃることはごもっともだった。

私たち勇者が前線へ向かう時も武器以外の荷物は、箱に入れ荷馬車に積み込み運んでいた。

一部の荷物は私のマジックボックスに入れていたから今まで気にならなかったのだ。


「そう言われたら、荷物を持つのは一般人ですね…ララー様はいつも的確なアドバイスをくださいますね」

「そんなことございませんわ。わたくしはお二人とお話できることがとても嬉しいのですよ」


葵さんがララー様と歓談されているが、私の頭はどうしたらいいものかと考えがぐるぐるしていた。


「あ!そうでしたわ!わたくしったら、すっかり忘れておりました!アオイ様、一緒に来てくださいませ!」

手をパチンと合わせ、急足で部屋から飛び出したララー様。

「はい!」

それを追いかける葵さん。



気難しく見えるメイドさんと二人っきりになってしまった…。






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