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大敗


「お前ら、本当に勇者としての自覚があるのか?」


我々4名はミネルバ様からの有難いお言葉を賜っていた。

あれから、一瞬のうちにミネルバがネモルジャを制圧し訓練は強制終了となった。

ココアちゃんを庇う形になった葵さんは、大楯がクッションになったものの大怪我を負うことになった。


「まず、ソウイチ。自分のことで精一杯で全体を見回せていないくせに、指示役になるんじゃねえ!」

「…すいません」

「次にタケシ」

「はいでごわす…」

「お前、カンペ読んでただろ?あれくらいの文量とっとと覚えろ。魔法職が自分の世界に入って許されるのは研究室の中だけだぞ???」

「……すみませんでごわす…」

「ハルカ」

「はい…」

「…お前のアイデアはよかった。だが、基本的な動きはできてないし、すぐに油断するのも言語道断だ!」

「すいません……」


「………」

最後となったココアちゃんなのだが、あれからずっと泣いている。

渡したハンカチの端から溢れた涙がポタポタと落ちているほどに…。


今反省会を続けても彼女の耳には届かないだろう…。

「…まあ初めての合同訓練で自分の課題も理解っただろう。明日からまた個別訓練になるから、皆もう休め」


「「「はい」」」


教官が勇者部屋の共有スペースから退室したが、この重たい雰囲気は変わらなかった。

「ココアちゃん、君のせいじゃないよ。僕らみんなの責任だ」

「…………っう」

「そうでごわす…俺ももっと色々な魔法を覚えていたらまた違う立ち回りができたでごわす」

「……………」

「私も、油断してヘマしちゃったから…ココアちゃんは、これからまだ成長できるから…」

「…………」


ココアちゃんは泣き腫らした顔をゆっくりと上げ、震える唇から少しずつ言葉を発した。


「わ、わた…わた…し……葵ちゃんに……会ってくれ…る、かな……?」


「そうだね……病室にみんなでお見舞いに行こうか」

「………う、ん」




私は重い足取りの中、しゃっくりをあげながらもしっかりと歩んでいるココアちゃんの冷たい手を繋いでいた。

訓練をしていたときは昼間だったが、もう日が暮れそうになっていた。

私が病室をノックしようとした時、中から真剣な会話が漏れてきた。


「アオイ…あの時のお前の行動は、良くないのはわかっているよな…」

「…はい」

「どうしてあんな身を危険に晒す行動を取ったんだ」

「……その…とっさに体が、動いてしまいました…」

私と男子二人組がドアに顔を寄せ聞き耳を立てていた。


「これはここだけの話だが…ココアのような子供に戦闘任務に就かせるのは、私としても心苦しい判断だ。

しかし、勇者として召喚されてしまったからには、あのようなか弱い者にも才があるということになる。

実際、君たちは目覚ましいスピードで成長している。

召喚されて早2週間だが、学生だった諸君が既に半年訓練を受けたものほどの戦闘能力を有している。

しかし国からは勇者を早期に前線に送るようにと急かされている。

この戦争も長期化し、様々な人や組織などが疲弊した状態だ…

私にも、どこか焦りがあったのだろう…

君たちの教官として、もっと君たちの能力を見越した訓練にするべきだったと思う。

すまなかった」


ミネルバはいつも通り淡々とあまり感情の起伏をつけずに話し続ける。

今は普通の声量のはずで、ドア越しの我々には聞こえづらくてもいいはずなのだ。

しかし、聞き耳を立てている我々にもその一言一言が明瞭に聞こえる。


「まあだから、なんだ。

アオイもココアも、もちろん他の面々ももっと成長できる。

本当に勇者としてふさわしい人間に、だ。

だから、これからもこの王国…

いや、この世界の人間種を救ってはくれないか?」


向こうの部屋でも、こちらの聞き耳部隊にも緊張した空気が流れる。

しかし、皆の意思は同じだった。


「はい!」




内側からドアが開きミネルバが出てきた。

我々3名は急いで、今着ましたよという陣形を組んだ。

危うく見つかるところだった…。

「お、お前らも来たのか。ヒーラーに短時間ならって許可をもらったから、お前らもあんまり長居するなよ」

「は、はい」

「あー、あとお説教はもうしたから、反省会はしなくていいぞ」

「は、はい…」


ミネルバはそのままスタスタと廊下を歩いていった。

厳しい上官だが、私たちのことをよく気遣ってくれているのだなと、その頼もしい背中を見ながら私は思った。


「葵さーん。ハルカと皆です。入っても大丈夫ですかー?」

「どうぞー」

部屋の奥から意外と元気そうな声が聞こえた。

「お邪魔します」



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