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葵さんとココアちゃん



大人組の話し合いが解散した後、私は女子部屋の方向に歩いていく葵さんを追いかけた。

「葵さん…その、大丈夫ですか?」

ゆっくりと振り返る葵さんの表情は思ったよりも落ち着いたものだった。

「ハルカちゃん…うん、大丈夫だよ。環境の変化にちょっとだけついていけないだけよ」

「そ、そうですよね…」


正直私も人の心配なんてしている余裕はない。

2•3歳の歳の差しかないけれど、もっと大人の2•3歳の歳とは訳が違うと思う。


そう、私から見たら葵さんは落ち着いた大人に見えたのだ。


「アオイちゃん、お話終わった?」

ララー公妃から特別に頂いたモコモコのナイトウェアを着用しているココアちゃんが、自室から顔を覗かせる。

ランドセルが歩いてるような背丈の子が、20時過ぎまで起きているのはあまりよろしくないだろう…

「ねえ、アオイちゃん、今日は一緒に寝たらダメ?」


「ごめんね、私、体調悪いみたいで、うつすとよくないから…」

葵さんは目を合わせることなく自室に引きこもった。


ドアが閉まった後でも、ココアちゃんはそのドアの先を見つめていた。


「ココアちゃん、私でよければ一緒に寝てくれない?」

しゃがみ込み目線を合わせる。

「うん!一緒に寝よ!」

小さな少女は笑顔で応えてくれた。


夜になると気温が冷え込むので部屋の魔動暖房器具を付け、毛布を首までかけてあげる。

「ココアちゃん寒くない?」

「うん、大丈夫!」

「じゃあ明かり消すねー」


勇者(隔離)部屋は、他の城内の部屋と同じで夜の静けさの中にあった。

この夜のなんとも言えない物悲しさは、どの世界に行っても共通なのかなと感じていた。


「…ハルカちゃんって高校生なの?」

「うん、そうだよ」

「高校のお勉強って難しいの?」

「勉強は難しいと思うよ。…ココアちゃんは小学校は楽しかった?」

聞いてから過去形で言ってしまったことに後悔した。

「…うん。お友達いっぱいできて、楽しかった。最近は運動会の練習してたの」

「運動会かー、かけっことか懐かしいね」

「かけっことか、大玉転がしとか、ダンスの練習してたの!」

「そっかー…じゃあ今度私とかけっこしよっか?」

「うん!約束!!…ねえハルカちゃん、手繋いでいい?」

「うん」


ココアちゃんの手は 小さく、暖かかった。

大楯の訓練で手にマメができているようだった。


色々心配が積もるが、自分も訓練の疲労ですぐに眠りについてしまった。









次の日、太陽が登り始めてすぐの頃。

誰かが啜り泣く音と、湿ったものに触れる感覚で目が覚めた。


「うっうっ、ごめんなさい…」

ココアちゃんがベットの横で泣いていた。

布団とシーツ、ココアちゃんのパジャマを確認してからココアちゃんの頭を撫でる。

「大丈夫、大丈夫!これくらいなんてことないよ!体冷えちゃうから、シャワーであったまってこよっか?」

決して弱音を吐くことがない小さな少女だが、ストレスを受けていることは明白だった。

自分のことばかりで、ココアちゃんのメンタルケアに注意が向いていなかったことを猛省した。


ココアちゃんをお風呂に入れ、共有スペースのダイニングで朝食をとらせている間に、洗濯物をまとめていた。

「はー、これメイドさんにお願いできるかな…大物だからなあ…」

「ハルカちゃん、おはよう…」

ぴょんと跳ねている寝癖がついたままの葵さんが起きてきた。

ここ数日でわかったことだが葵さんは朝が少し弱いようだった。

「葵さん、おはようございます」

「…あれ、もしかしてそれ、ココアちゃん?」

「あー…そうなんです。昨日一緒に寝たんですけど…小学生のメンタルケアってどうしたらいいんですかね?…私たちでさえ混乱してるのに、小さい子となると…」

「そうね…私たち大人組でなんとかしてあげたいよね…」

葵さんは普段とっても落ち着いた大人な行動をとってくれるのだが、なぜかココアちゃんのこととなると少し動揺しているようだった。

小さい子が苦手なのだろうか…あまり他所様の事情に踏み入るわけにもいかないのだが…


私はまとめたシーツ類をメイドさんにお願いし、朝食を取ることにした。


みんなと朝の挨拶を交わし、テーブルに着く。

すでに食べ終わった聡一くんが王室広報の記事を読みながらコーヒーを飲み、おかわりをたんまりと盛った剛士くんは美味しそうに食し、ココアちゃんがゆっくりときちんと噛みながら食べ、その隣に食べ終わった葵さんがジュースを飲みながら時折ココアちゃんに注意を寄せていた。


朝食は硬めのパンに目玉焼きや野菜とベーコンが乗っているものとオレンジジュースだった。

お皿の上にポロポロと落ちていくパン屑をぼーっと見ながら、無言で朝食を口にする。

「今日は合同で体術と連携の訓練らしい。僕は先に行って準備してるね」

「「「「はーい」」」」

「剛士くんって、朝からそんなに食べて気持ち悪くなったりしないの?」

「部活でも食べるのも訓練の一部だったでごわす!こんなの全然苦にならないでごわすよ!」

「へー、やっぱり相撲部って食べるのも大事なんだね」

「私は召喚したばっかりのクソフェレットがなんにも言うこと聞かなくて…本当に私って猛獣使いなのかしら…」

「た、大変ですね…」

清楚系お姉さんの口から『クソ』という単語が出てくるのが意外だった。

それほど苦労しているのだろう…


「ねえ『クソ』ってどう言う意味?」


まずい、ピュアなココアちゃんにはこの単語はよろしくない…


「もうちょっと大人になったら教えてあげる。ほら口の横についてるよ」

葵さんはうまいことかわしながら、ココアちゃんの口元を拭いてあげていた。



ココアちゃんを避ける様子を見せながら、きちんと注意を払い、うまいこと対処しているように見える。

私は葵さんの人物像をよく描くことができずにいるようだった。


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