Episode007 王都への道と少しの嫉妬
なんやかんやで朝の7時になってしまった――あのファングタイガー討伐から既に2時間も経過してしまっている――が、俺たちはそろそろ王都に向けて出発することにしたのだが……。
「……ねえ、これって何……?」
「……まあ、詳しいことは知らない方がいいんじゃないのか? 俺だって、まさか本当に創造できるとは思ってなかったんだから」
……俺は思い切って、UFOを作ろうとしてみた結果、できてしまったのである。
よくイメージされるような、円盤の下によく分からん半球が3つ付いてるヤツだ。
一瞬で移動できるようにしたいなーとは思ったが、自分に対して『『瞬間移動』が使える体質』って感じに『万物創造』を使うのはありきたりな気がしたから、どうせならド派手な方法にしちゃうのもいいかなと。
そうしたら、まさかできちゃうなんて思わなかったよね……。
「これって乗り物なの?」
「お、察しが早いな。これは一瞬で移動する為に作られた、全く原理の分からない力によって移動する装置だ」
「……乗り物じゃなくて装置なんだね……」
俺が適当に説明すると、言い回しの所為で「乗り物じゃなくて装置じゃん」と目で語るかのようにジト目になりつつ、アクニたそはそんなことを言う。
……正直言って、アクニたそのジト目はかなり好きである。
かと言って、あんまり呆れさせるような言動は控えるように努めたいとは思うが。
「と、とりあえず。これに乗れば一瞬であらゆる場所に行くことができるんだ」
俺は最後にもう一押しと言わんばかりにそう言った。
だが、次の瞬間に、「早く行ければいい」という考えは打ち砕かれた。
何故なら、少し泣きそうな顔をしながら、アクニたそが……
「……ゆっくり話しながら行きたいんだけど、ダメかな……?」
と上目遣いで言ってきたからである。
……それでどうしてこんな円盤を使おうものか。
『万物創造』の扱いにも慣れてきたらしい俺は、巨大なハンマーを空中で創造すると、無抵抗なそれをUFOに落とした。
ドゴッと大きな音を一瞬だけ立ててUFOは壊れたが、アクニたそはそんなこともお構いなしと言わんばかりに俺を見つめている。
別にこうしなくなってUFOを壊すことはできたのだが、これは俺の中にあったらしいせっかちな感情をなくす決意表明みたいなところも含むからな。
俺はそっとアクニたその手を取ると。
「……じゃ、行こうか」
「う、うん。……この装置、放置してたら話題になっちゃわないかな?」
「まあいいでしょ。いつか何かあったときに、俺の能力の実例として役に立つさ」
ちょっとした置き土産を残し、俺たちは王都に向けて旅立つとしたのだった。
* * * * *
ここから王都までは、『万物創造』で作った『距離測定器』とやら魔道具(だと思うが実際のところはよく分からない)で測ると、だいたい30kmくらいあるんだそう。
……それって、徒歩で言っても今日の夕方くらいにしか到着しないってことになるんだが、夏だったら危なかったな……。
そんなことを思いながら、アクニたそと手を繋ぎながら歩く。
アクニたその手は今までこんな風に握ったことはなかったが、とても柔らかくスベスベで、許されるのなら頬擦りしたいとまで思うくらいだ。
まあ、そんなことをすればまた気持ち悪がられるだけなので、言い出そうにも言い出せないのだが。
何となく話したいことが思い浮かばず、ただ互いの手の感触を堪能しながら歩いているだけになっていると、アクニたその方から話題提供をしてくれた。
「それにしても、旦那様ってどうしてあたしのことを好きになったの?」
おお……。
確かに、その辺に関することを何も言ってなかったな。
俺からしてみれば、その辺もなんとなく分かられてるものかと。
あんまり変に憶測するのはやめた方がいいみたいだ。
とりあえず、溢れる想いのまま、徒然なるままに話すことにした。
「そうだなぁ……。まず、最初に会ったときに一目惚れしたかな」
「ひ……一目惚れ?」
「ああ。あまりにもキミが可愛すぎて、思わず好きになっちまったってとこだ。……面食いでごめんな」
「い、いや……。あたしのことを好きになってくれたの、そんな最初っからだったんだなって思うと、ちょっと気恥しいというか……」
俺が念の為と思って謝ると、アクニたそは頬をポリポリと掻きながら、頬を少し染めたまま、俯いてそう答えた。
……恥ずかしがってるとこ、いいねぇ……。
こういう姿は昨日今日で初めて見たという感じだが、いつまでも見ていたいくらいにその表情がいいのである。
この風景を写真にして、日本に溢れているであろう異世界に行きたい少年たちに送り付けてやったら、さぞ悔しがることだろう。
「俺が元居た世界じゃ、ちょっとこの世界とは人間の何たるかが違ったからね。アッチじゃキミは一部の男たちからはお姫様扱い受けまくること請け合いだ」
「そ、そうなの……?えへへ……」
俺が更に力説すると、アクニたそは幸せそうな笑顔になった。
それは、『自分が美少女だ』と俺に言われたみたいなモンだからなんだろうけども。
……俺は少し、ムスッとしてしまった。
表情に出してないのは勿論だが、心の中では盛大に不機嫌だ。
だって、それってさ、今の俺の説明で生まれた笑顔なのは確定として、その中でも、モテまくるってところで笑顔になったんじゃないかと思うと、まるで、好きでいてくれる人や幸せにする人が俺じゃなくてもいいと言われているように思ったからだ。
コレが理不尽すぎるものだということは、当事者である俺が一番理解している。
なら、何故俺はこんな苦みを感じているのだろうか。
……つまり、これが『嫉妬する』ってことなんだろう。
そんな自問自答をしていると、心配そうな顔をしたアクニたそが。
「ど、どうかしたの……? なんかすごい怖い顔してるけど……」
「え? そ、そう……? ごめん……」
「大丈夫だよ。……無理はしないでね」
俺に優しく声をかけてくれた。
……好きな人を心配させるとか、何やってんだ俺……。
これだから、俺は昔から黒い感情の類は嫌いなのである。
ホント、俺はどうしてこんなことを考えてしまっているのやら。
アクニたそがモテたいとか思ってないことは俺がよく分かってるだろうが……。
俺は複雑な感情のまま、話を続けることにした。
「……でなんだけど、キミは俺と境遇が似たってだけで寄り添ってくれたし、訓練とかもしてくれたから、優しくて可愛いキミにだんだんと惚れ込んで……」
「そ、それ以上言わないで! 心臓がもたない!」
さっきまでの暗い気持ちを吹き飛ばすべく本音をまるごとぶちまけたところ、アクニたそは頭から湯気でも出しそうなほどに真っ赤になって、顔を手で覆った。
もう我慢ならなくなった俺は、『万物創造』をフル稼働させ、カメラを創り出した。
……つもりだったのだが、何故かカメラの代わりとして高性能スマホが出てきたことについては、ジェネレーションギャップの一言では済まされないだろう。
だが、そんなことで躊躇することのない俺は、その状態が崩される前に、すぐにカメラを起動させ、一番いい画質で撮れるよう設定をイジり、すぐに写真を撮った。
写真には、しっかりと綺麗に、その様子が収められた。
すると、急にまだ赤い顔のアクニたそがガバッと顔を上げて、涙を目の端に貯めながら叫ぶようにして。
「ちょっと!? 今の板って何!? もしかしなくても、さっきあたしの姿を何かしてたよね!? そのときの風景を模写する魔道具とか!?」
「い、いやー。あれはただの板で、何も疚しいことは……」
「トウリくんが持っててフツーの板なワケないじゃん! 一回貸して!」
写真を撮られたことを察知したアクニたそは、目にも留まらぬ速度で俺の手からスマホを奪っていた。
しかも、操作方法が分かるはずがなく、間違えて日本語で文字が書かれているヤツが創造されたはずなのに、写真を見るところに到達されてしまったらしい。
そこにあった自分の写真を見つけたのか、一瞬眉をピクッとさせて不機嫌になりかけているのを表に出しつつ、俺のことをジト目で見てきた。
……マジでそのジト目、好きです。
そんなふざけた(?)現実逃避(?)をしていると、何かを諦めたような表情で溜め息を吐き、スマホを俺に返してきた。
そして、この一言である。
「……ま、まあ? トウリくんがあたしを好きって証拠なワケだし? こ、今回のことだけに限らず、今みたいに風景を模写する魔道具を使うことは許そうかな……」
……ありがとうございます!
なんだかツンデレみたいな言い回しも最高です!
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