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Episode004 魔物も唇も狩るような夜明け

俺たちはなんだかんだでそのまま星空を眺めながら語らい、夜が明けるまでずっと色々な話をした。

主に、今までしようと思っていたができなかった日本での話である。

この世界で掘り尽くされいているダイヤモンドが存在する世界ってことで、アクニはとても興味が沸いたらしい。

だから、日本にあってこの世界にないものの話をたくさんした。

主に、アニメとかゲームを筆頭としたエンタメのことについてだ。

音楽についても話したが、この世界の音楽は民謡レベルで終わってしまっていることを考えると、やっぱりあの世界はその辺でも発展してたんだなと今更ながら思う。

この世界では鉄は剣や鎧や盾に使われるが、建物や機械なんかに使われることはないから、俺の元居た世界みたいになることはないのだろう。

俺が『万物創造』でその辺をどうにかしようと思えばできなくはないのだが、それはこのファンタジックな異世界を壊すことになりかねない。

それこそ、何かの拍子に、戦争やら紛争やらにその辺が使われては困る。

勇者をやめた身でコレを言うのも何だが、この力は平和の為にあるんだからな。

俺の話に満足したらしいアクニは、横で幸せそうな笑みを浮かべている。

その笑顔を、俺はこれから一生眺めるのだと思うと、途中で死んでしまうんじゃないかとすら思えてくる。

正直、告白したとは言え、心臓がもちません……。


「ニホンって面白いところなんだね……。いつか行ってみたいかも」

「そ、そうか? 日本って意外とつまらないところでな、エンタメや料理はいいんだけど、社会が厳しいんだよな……。俺からしてみれば、あんなクソみたいなパーティーにいたとは言え、この世界の方がウン千倍もいいって知ってるよ」

「そうなんだ……。生まれたところだと、住めば都ってこともないんだね」


そう言って不思議そうな表情になるアクニ。

俺はその表情に癒されつつ、数時間ぶりに身を起こす。

まだ夜が明け切ったワケではないから、移動を始めるつもりはない。

それに、アクニのペースで進もうと思ってるし。

じゃあ、俺が今起きた理由は何かって?

それは……魔物が現れたからだ。

魔物は、日本にいた動物たちとかと違い、いつ何をするかは決まっていない。

気分で狩り、気分で食い、気分で寝るという、ヒキニートみたいな存在である。

狩りをゲームに差し替えたら、それこそそのままだろう。

今回現れたのは、中堅冒険者かどうかを判断する相手としてよく起用されることの多い、ファングタイガーである。

こんなのは上級冒険者が相手するようなモンだろとは思うんだが、この世界では、死なずに倒せればそれでいいみたいなところがあるらしい。

ちなみに、初期の頃にボコボコにされたアレを除いた場合にアクニから剣技の練習を受けているだけの俺は、コイツを相手にしたことがない。

ファングタイガーは黒い良質な毛皮を持っていて、コイツを倒すだけで1日豪華な食生活と宿にありつけるとまで言われているレベルだ。

俺はアクニをチラ見しながらに、どうするか考えることにした。


「なぁ、ファングタイガー来たみたいなんだが、どうする?」

「えー……。あたし、ファングタイガーはニガテ……。いくら上級冒険者って言っても、連撃に頼ってるあたしにはちょっと分が悪いっていうか……」


俺の問い掛けに対し、アクニはちょっと苦い顔をしながらそう答えた。

ほう……。

つまりコレは、神様やら恋のキューピッドやらが、アクニにもっと俺を好きになってもらえるように用意したイベントということか。

ならば、ここで使うべきは剣じゃないな。

俺はカッコよく決めるべく、身を起こしたアクニを背中に庇いながら。


「アクニは俺の後ろにいてくれ。俺がどうにかする」


と言って笑い、アクニの反応を見届けてからファングタイガーを見据える。

ちなみに、アクニの反応としては、頬を染めて嬉しそうにしていた。

本当ならその表情をずっと眺めていたいとすら思ったのだが、そんな呑気なことはしていられない。

何で戦うべきかと考えたが、やっぱりここはド派手にいこうと思う。

俺は脳内でとある武器を思い浮かべ、心の中で唱える。

その呼びかけに応え、指輪を創ったときと同じく、『万物創造』の効果による光が俺の周りを漂い、体に纏わりつき始めた。

そんな俺が思い浮かべた武器というのが……。


「……これって……?」

「ん? これか? コイツはな、サブマシンガンっていうんだ」


そう、サブマシンガンである。

この世界にはこんな高度な銃は存在しないだろうし、こんなのが魔物に効かないはずがない。

なんか射的の店に置いてあるヤツみたいなのなら見たことあるけど、拳銃みたいなのとかライフルみたいなのとかは見たことはない。

俺はコレの実物を見たことがあったから、想像も想像もそう難しくはなかった。

問題なのは、中の構造を見たことがないから、コレがオモチャと化している可能性だって0ではないのである。

まあ、そんときは適当にナイフでも投げて逃げてしまえばいいのだ。

肩が外れないかどうかは心配だが、とりあえず試しに一回だけ引き金を引くか。

どんだけの威力でどのくらいの玉が出るのかは分からんが、照準さえ合っていれば、間違いなくファングタイガーくらい殺せるだろう。

俺はどっかの動画で見た銃の構え方を真似しながら、ソイツに狙いを定める。

念の為に肩の保護パーツ的なのでも創ろうかと思ったが、なんとなく面倒だったので創らないことにした。

そのまま俺は、構えを崩さないようにしながら、引き金を引いた。

ものすごい銃声と共に思いっきり後ろに吹っ飛びかけたが、なんとか足と腕に力を入れいていたので、怪我は無事に回避できた。

単発狙いだったら、ライフルでもよかったかもしれないな……。

さて、しっかりファングタイガーは絶命してくれただろうか。

俺はそっと横たわったソイツに近づくと、血の海の中にいると分かった。

初めての銃の生成に成功したことに胸を撫で下ろしつつ、アクニの方を振り返る。

……そして、俺は罪悪感に包まれた。

銃声が大きかった所為か、アクニは耳を抑えながら涙目になっていたのである。


「わぁぁぁぁぁ! ごめん! ビックリさせちゃったよね!?」

「グッ……ヒグッ……」


ええ……。こういうとき、どうしたらいいんだ……?

確かに直撃だった俺もビックリしたが、まさか泣かれるなんて思ってなかった……。

それって、この世界にこういう銃がないことなんだろうけど……。

何かさせたいから泣き真似してるー、とかだったら楽なんだけど、正直に言えば、そんな展開なワケはないのである。

と、とりあえず、街に着いたらケーキだとか服だとかに限らず、何でも好きなものを買っていいとでも言うべきなのか?

いや、金で解決させるってのは俺の性分じゃない。

かと言って、今はこれ以外に何か打開する手段はあるのか……?

……もういいや、それでアクニが笑顔になるんだったら。

もし本人が拒絶する場合は、何でも1つ聞いてあげるとしますか。

俺はどうするかをまとめ終え、まだ泣いているアクニに向き合う。


「えっと、その……。急に何も言わずに驚かせてごめん。何でも買ってあげるから、機嫌直してほしいなー、なんて……」


俺がそう言い終えると、少しビックリした顔のアクニが俺を見上げた。

身長170cmの俺に対しての152cmでの上目遣いは、俺には効果抜群だった。

でも、今はそれで頬を緩ませている場合ではない。

俺はただ黙って、アクニの返事を待った。

そして、それから10秒間の沈黙の後、アクニが呟いた。


「……ねえ、あたしが今一番欲しいもの、分かってるでしょ?」

「え? 一番欲しいもの?」


俺は急にそんなことを言われ、たじろいでしまった。

だってコレ、このままだとお別れルートが見え透けしてるじゃないか。

あまり人間観察が得意じゃない俺は、そういうのを当てるのが苦手だ。

アクニが欲しいものと言われても、服かスイーツか剣以外にはちょっと見当がつかなかったのが不甲斐ない。

己惚れるんだとしたら、俺だとか、俺の唇とかなんだろうか……ハハハ。

そんなワケがあるまい。


「……ごめん、ちょっと分からないかな……」


俺が申し訳なさそうにそう言うと、アクニは頬を膨らませた。

やっべ、俺の恋、もう終わりですか?

なんて勝手に1人で内心で絶望していると。


「……考えてるときに一瞬ニヤけたクセに、そんなこと言うの?」


アクニのそんな言葉が聞こえてきたと同時、俺はちょっと混乱した。

え? それってまさか……。

と思う間もなく、俺の唇に柔らかい感触が走った。

……マぁジですか……。

そんな感じで、昇ってくる日の光を浴びながら、俺とアクニは、ファーストキスを迎えることになったのだった。


次回 Episode005 アクニたそ!

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