ひととき
大学の同窓会がてら書きました。4年ぶりの更新です。よろしくお願いします。
いわゆるデートと言ってしまいたいくらい、研究室で話し込む時間はこれまで何度もあった。だけど、
「あぁ、優、どうしたー?」
「あの、愛菜先輩!今度宅飲みとかしませんか?」
「ん? ああいいよー」
その返答はやけにあっさりとしたもので、拍子抜けするくらい簡単に、その会は決まった。私は楽しみで仕方なくて。乙女とからかわれたこともある私は、先輩のことばかり考えて。その日を迎えたのだった。
「お邪魔しまーす」
「はいはーい。ささ、まずはお酒を冷蔵庫に入れとこっか」
「えっと、あぁそこですね」
「ほとんど空にしてるから、入る、はず。あたし、テレビの準備しとくね」
「はい。えっと、これとこれと……あ、おつまみは」
「それは出しといてもいいかな。どっちみち映画からだから、それ食べるの後でだけど」
「はぁい。ポップコーンは机に置いときますね」
「んー、ありがとー」
「先輩はどうです?」
「ん? こっちは準備ばっちりだよ。ポップコーン作るね」
「あ、ありがとうございます。私は……」
「あれ、ジュースは冷蔵庫?」
「はい。ギリギリまで冷やすかな、と思って」
「おっけぇ。優、このポップコーン作ったことある? と言ってもレンチンだけど」
「フライパンで作るのならやったことあります」
「うわ、負けた」
「いや、電子レンジでできるほうが楽そうですよね。えっと……500Wで3分ですね」
「そんくらいかかるのか。もう予告見ちゃおっか!」
「はぁい」
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「お、できたね」
「できましたね」
「じゃ、優はコーラとソーダ出してね」
「はぁい」
「ん、……んーよっと。お待ちどう」
「でも、本当なんです? 佐藤健出るなんて」
「えー、今更ぁ? 本当だよ。――ささ、見よっ」
「はい、楽しみです」
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「いやぁ面白かったです」
「兄弟の話が軸だからね、分かりやすかったでしょ。さ、お酒出すかぁ」
「そうですね。結構面白かったです。まずは蜂蜜レモンで」
「さすが優、かわいいの選ぶね。私は梅酒にしよっと」
「――なんか最初は子どもにわかりにくいんじゃって思ったけど、シンゴがアタルを守るところ、すごいよかったです」
「でしょぉ。ってか、優、シンゴがアタルの兄だとか、過去の人とか気付くのすごい早かったね」
「そうです?」
「結構ライダー関係の設定もあるから、理解が追いつかんかなぁと思ってたわ。さ、まずはかんぱーい」
「はい、かんぱーい。時間もののミステリー要素のあるドラマとかも見てたからですかね。スマホのとこでなんとなく。はぁ、おいしい」
「まぁ『クウガが明日見れる』ってとこは、クウガのこと知らないとだもんね。佐藤健もよかったでしょ」
「いやぁ、かっこよかったです」
「一日で秘密裏に撮ったみたいよ。やっぱスケジュールもギリギリで」
「はぁ……さすがですね、それは……」
「それと優、電王は一応知ってたんだね」
「はい、だからモモちゃんたち懐かしかったです。ウラタロス? が佐藤健に憑いたままだったのは惜しいけど」
「そうそう、ウラタロス。あれね、佐藤健くんが提案したらしいの。ジオウの、映画の設定で十年後くらいの良太郎をいきなり演じるのは難しいから、ウラタロスでやったら良さそうって」
「はぁ、それで……」
「って、ダメだ、完全にオタクトークになってるや……」
「いや、先輩の話面白いし、大丈夫ですよ」
「ははっ、そう? ありがとう」
「先輩はどの仮面ライダーが一番好きなんです?」
「んー、主人公じゃないんだけど、『龍騎』って作品のナイトってライダーが好きなんよね」
「ナイト……」
「秋山蓮って人がナイトに変身するんだけど、恋人を助けるために戦うの。それが結構かっこよくてねぇ。あんなふうに必死になって、守ったり守られたりしたいなぁってそう思ったんだぁ。女の子っぽくない考え方なんだろうけどね」
「そうです? 優しくてかっこいいと思いますよ、先輩の考え方」
「そう?」
「さすが中性脳、ですね」
「そういえば、前に男性脳女性脳の話したね。って今関係ある?」
「先輩もプリキュアとかおジャ魔女もちゃんと見てますし」
「ちゃんとってなによ。あたしはキュアフルーレ大好きよ」
「あぁ、プリキュア5の剣ですっけ。私はおジャ魔女のリズムタップで変身するのが可愛くて好きですけど、って、先輩もプリキュアよりおジャ魔女世代ですよね?」
「おジャ魔女はかわいい、プリキュアはかっこかわいい」
「なるほど。先輩がアベンジャーズとかヒーローもの好きなのも、さっきのナイトがきっかけですかね」
「そうねぇ、ヒーローとしてのかっこよさも惹かれるとこじゃあるけど、結局は人間ドラマとして好きだからってのが強いかなぁ」
「人間ドラマ……」
「ほら、戦隊に仮面ライダーにプリキュアって、三十分を一年間でしょ? あれ、テレビだけで一作ずつハリーポッター一通り見終えるのと同じくらいの長さなの」
「あぁ、そう言われると長いですね……。私がプリキュア見てた時は意識してなかったなぁ」
「さらに映画もあるからね、普通のドラマやアニメとかよりも結構人間関係とかしっかり描けるの。だから好き」
「なるほど。キャラ語りというか、一人一人やその関係性がいいんですね」
「そうなのよ、だからライダーなら檀黎人・神とか、ミッチやソウゴ、ウルトラマンならジャグラー、トレギア、Zもいいのよね……」
「いっぱいですね(笑)」
「ウルトラマンはZを薦めるわ」
「ウルトラマンは半年でしたっけ?」
「うん、最近のは25話くらい。Zはめっちゃ熱いし、単純に分かりやすく面白い」
「なるほど、二クール……そう思うと一クールであの濃さってまどマギってすごいですよね……」
「まどマギはたしかにすごいね。ほむらちゃんヤバいわ……最終話は泣ける……」
「まどかが遠くに行っちゃうのが悲しいですよね……私はさやかちゃん推しだから結構悲しいですけど」
「あぁぁ、あっちの悲恋も好きなんよね」
「どうにか救われて欲しい、ってなっちゃいます、恋愛脳として」
「あははは、恋愛脳(笑)優の言い方面白い(笑)」
「だって、私の原点は図書館戦争とおいコーですもん」
「おいコー……おいしいコーヒーのいれ方、だっけ」
「はい、村山由佳の」
「有川浩のは、結構カラッとした恋愛だから読めるのよねぇ。村山由佳のは、なんかしっかり恋愛! だから。キスまでの距離とかタイトルから恥ずいのよ」
「まぁ、先輩は君届とかふりふらよりも、俺物語とか恋愛ラボとかのほうが好きですよね」
「ぼく勉とか徒然チルドレンとかいいよ!」
「それは恋愛だけど少しベクトル違いますねぇ。河合荘とか妖狐×僕とか」
「なら、ヲタ恋でどうだ!!」
「どうだってなんですか(笑)いや、好きですけど(笑)」
「…………なんかさっき、さらっとエロ要素あるの言ったね、優」
「まぁ、それは恋愛小説読んでたらいずれぶつかりますよ」
「生徒会の一存とか」
「ラノベですね。鍵くんの精神論は嫌いじゃないですけど」
「バカテスとか」
「あれは恋愛というよりギャグですね」
「生徒会役員共とか」
「一気に振りかぶりましたね、先輩」
「でも恋愛要素あるよ」
「あれでいいなら大概恋愛要素ありますよ」
「100カノは個人的に完璧」
「悲恋もなくてそこは同意です」
「表面的には全力ギャグだけど、恋太郎の精神性はむっちゃ好き。羽々里と付き合う回はやばい」
「あの博愛主義、いいですよねぇ……王子様性というか」
「なんか図書館戦争の郁みたいなこと言うね」
「さすがにあれが現実離れしていると分かっているだけマシじゃないです?」
「まぁそうか。普通の男たちは杉崎くらいに性的なことばかり考えてそうだけど」
「いや、あれはあれで中身というか、心の部分も大切にできてますから! 発言はたしかに一部惜しいですけど」
「全部おかしいでしょ。誠実さは認めるけども。だいたい、優だったら杉崎と付き合いたいと思う?」
「あー……そう言われると難しいですけど、特に大事にというか、彼女一人を少しでも特別扱いしてくれるのならギリギリあり、ですかね」
「そっか(笑)それが優の好みなのね」
「え、好みですか?! あぁ、好みは……たぶんないです」
「ないのー? 王子様性とかいうのに」
「いや、好きになった人がタイプなんです」
「えー、それズルーい」
「先輩こそ、好みとかどうなんです?」
「あたしは、かっこよくて、優しくて、お金もバリバリ稼いでて」
「先輩のほうこそズルくないですか、その台詞(笑)」
「えー、そう?」
「そうですよ。……好きな人います? 先輩は」
「一人だけいたよ」
「〝いた〟ってことは、前にですか?」
「うん、でも告白とか付き合ったりの前に、話が合わなくて喧嘩……というか、いつの間にか距離ができちゃって、それで諦めちゃってさ。あー、あたし自分で思ったより相手のこと好きになれなかったのかなぁなんて思ったの」
「はい」
「こう、好きって気持ちが足りない? というかなんだろう、そんなに執着してないことに驚いたというか。本気になりきれなかったのかなぁなんて思ったのね」
「…………」
「依存だとかになんなかったのはまぁ良いとして、友達の恋バナでよく聞くような、のめり込んでるみたいに大大大好きってなれなかったのがねぇ。自分では惜しいって思ったんだぁ」
「…………」
「結局、結婚だって、一緒に住めるか共同生活できそうかのほうが重要で、恋愛的に好きじゃなくてもいいんだろうけどさ、やっぱ考えるには考えちゃうのよね。一回くらい、溺れるような恋がしてみたいとか」
「前、『Iの花言葉』って小説でへぇって思ったことなんですけど」
「うん」
「性欲って人間の三大欲求じゃないですか」
「え、いきなり性欲の話に戻るの?!」
「いや、人間の三大欲求って食欲、睡眠欲、性欲じゃないですか。食欲や睡眠欲は赤ちゃんでもあるのは分かるけど、性欲って赤ちゃんにもあるのか、って話があって」
「なるほど……え、まさかおっぱ」
「それはあくまで食欲の範疇としてです。母乳が栄養源ですから。じゃあ、全世代で、それこそおじいちゃんおばあちゃんにも通じる性欲って、寂しいって感情なんじゃないかって話があって」
「はぁ……なるほど」
「先輩はたぶん、そういう寂しさを埋められないなぁと思って、その人のことを諦めちゃったのかな、なんて」
「結構きついこと言うね、優」
「先輩といっぱい話してますからね。お見通しです」
「……じゃあ、話を変えよう」
「突然ですね」
「恋人ができたらどんなことしてみたい?」
「え…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「え、そこまでの長考?!! そんな恥ずかしがらなくていいんだよ!!」
「いや、私は何かしてほしいことあるかなぁと思って。……あぁ、ありました」
「え、なになに!」
「一緒に、こんなふうにご飯食べたり、いろいろ話したり、笑ったり、幸せな時間を一緒に過ごしたいです」
「こんなふうにって、なにそれ告白みたいじゃん(笑)」
「あ……………………」
「え、なにその固まりよう。って、なに袖を引っ張って」
「ん~~~~~~~~~~……ミスりました……」
「そんなに酔ってるの? 耳真っ赤だけど」
「先輩!」
「お、えっと、はい」
「私、女ですけど、私が愛菜先輩の寂しさをなくしたいし、一緒に笑ってたいし、いろんな話聞きたいし、一緒に、いっぱい一緒にいたいです」
「えっと、……優?」
「霧島愛菜さん、恋愛対象として好きです。付き合ってください!」
「……………………………………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………………………………」
「……優、私も女だけど、」
「はい」
「……わかっ、てるよね、そりゃ。うん、いや、ごめん、ちょっと待って」
「………………………………」
「その、まずは、なんで私が好きなの?」
「好きになっちゃったんです。気付いたら」
「そっか」
「理由は、優しいとか、面白いとか、綺麗とか可愛いとか、時々理知的だとか、いっぱい話せて楽しいだとか、スタイルとか髪型とか、全部全部好きだけど、それはきっと後付けで」
「うん」
「好きって〝なんとなく〟がきっと始まりで。〝なんとなく好き〟が降り積もって。〝すんごく好き〟になって。〝一緒にいたい〟ってなって。……〝離したくない〟、になっちゃいました」
「……そうなんだ」
「でも、言うつもりなんかなかったんですよ……もぅ……ふて寝します」
「言いつつ膝に来るのね」
「もう、好きなのバレてますもん」
「まぁ、そうだね(苦笑)」
「…………ごめんなさい、嫌でした?」
「んーん」
「付き合ってください、とまで勢いで言っちゃいましたけど、本当に、言うつもりはなかった、です。言うにしても、もっと別の、」
「あたしさ」
「……はい」
「優のこと、好きだよ。実は会ってすぐから」
「……え?」
「たぶん優より先かなぁ。本を読んでる雰囲気だとか、友達と笑ってるときの笑顔とか、一緒に話してて楽しいとことか。って、確かにこれは後付けだね。あたしの最初もきっと、なんとなくからだ」
「…………」
「でも、後付けっていったとこもホント。いろんな優が好きになった。恋愛対象として」
「本当、ですか?」
「ホントよ。あたしも、自分が諦めるまで言わないつもりだったし。びっくりしすぎて言うの遅かったから、嘘っぽく聞こえるかもだけど。ほんとだよ」
「そう、なんですね」
「でも、女の子同士だし、きっと彼女として紹介できないよ。結婚もできないだろうし、その前に仕事についたら離れちゃうかもだし、それでもいいの?」
「そんないじわる言わないでください……」
「ごめん、でもあたしのが先輩だからかな、考えちゃうの」
「いいです、今こういう時間を、ちゃんと大事にして、それを積み重ねていきたいです」
「うん」
「私、本当に付き合うならこんな感じかなぁなんて思いながら、今日いましたもん」
「そっか(笑)」
「そして、もし何かあったら、ちゃんと話し合って行きたいです」
「うん。……でも、アタシ嫉妬しぃよ」
「いいです」
「でも、優が思うよりワガママかもだし」
「いいです」
「でも、寂しすぎて離したくなくなるかもだし」
「嬉しいです」
「でも、可愛くもなければ綺麗でもないし」
「可愛いし、綺麗です」
「そんなことないよ」
「じゃあ好みです」
「……いきなり攻撃力高めで来たね」
「驚きました? でも、本気です」
「うん、ほんとに好きでいてくれるんだなってのは、なんとなく伝わった」
「ならよかったです」
「優……」
「はい?」
「キスでもしとく?」
「…………そんな、一杯いっとく? みたいなノリで言う言葉ですか」
「ごめん、間違えた。キスしたいからこっち見て」
「………………恥ずかしいからやです」
「ふーん、そ」
「…………」
「…………」
「先輩、酔った勢いでこの話乗ってません?」
「恋愛は需要と供給とタイミング、だってよ」
「なんです、それ」
「同期が言ってたんだけどさ、恋したい需要と、相手も恋できる供給と、それが合致するタイミングがないと両想いは成立しないよねって」
「あぁ、私たちのどっちかが諦めたり、付き合ってたらダメとか?」
「付き合ってたら大概ダメだと思うけど、まぁそういうこと。あたしは優といたくて言ってるの」
「そうなんですね」
「だから今からは〝先輩〟を外して呼んでもらおうか」
「へ?」
「だから、愛菜先輩じゃなくて愛菜とか呼んでって話」
「えぇっと……じゃあ、愛菜さん、で」
「ははっ、ひとまずよしとしよう」
「はい」
「丁寧語外すのは、大学卒業してからになっちゃうのかなぁ」
「先が長いですね」
「ずっと先まで一緒にいたいからね」
「…………先輩も火力高めですね」
「優ぅ」
「あ、ごめんなさい」
「ふふ、冗談。いいよ、少しずつ慣れてこ」
「はい…………っ」
「へへっ、キスは強要しないけど、膝枕してる以上、頭撫でるくらいいいでしょ」
「…………結構ドキドキしますね、これ」
「膝枕は?」
「それは勢いで行ったので」
「そっか」
「はい」
「…………ねえ、優」
「ちゃんと、大好きになれるかな」
「……頑張ります」
「え?」
「そこは私がすごい頑張んなきゃなとこだから」
「…………」
「好きでいてくれるのもびっくりですけど、もっともっと好きになってもらえるように、私、頑張ります。だから、見てて」
私も愛菜先輩――もとい愛菜さんの頭へ手を伸ばして撫でて。二人の顔が向かい合う。気付くと唇は重ねられ、柔らかいキスが交わされた。
どれくらい長く付き合えるか分からない。結婚できないかもしれない。思ってたより早く別れてしまうかもしれない。
それでも、今この瞬間は誰がなんと言おうと、私たち二人にとって大切にしたい時間の一欠片だった。いろんな欠片を積み重ねて、どうか綺麗な結晶になりますように。