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邪神

「ルカ…………?」


 考えなくていい?

 ルカは何かを知っている?何かが分かった?


「そうだね

 僕は知ってるよ

 …………真実を、かな」


「っ………!」


 想像していても、少し驚く。

 もしかしたら…………私の様子が当たっていたのでは、と、期待と不安に陥る。


「じゃあ、ネタバラシをしようか

 僕が思い出したのも最近だし、確証が持てたのは今だったから………それは許してほしい」


 無言で頷く。


「思い出した」。…………そうなの、かな?

 合っていてほしいけど、違っていてほしい。

 矛盾している感情が渦巻く。


「ステラの予想通り、少女は彼女だよ

 そして、邪神に取り憑かれた子供は、僕」


 息を飲む。

 …………やっぱり、そう、だったんだね。

 そう考えると、合点がいく事が幾つもあったから。


 でも、違っていてほしいと思った。

 ルカの心は、完全に癒えてはないでしょう?


「そうだね…………順番に話そうかな


 あるところに、黒い髪に瞳をした、少年がいました

 黒は忌まれた色。少年は忌み嫌われ、心に傷を負い、ずっと一人でした


 初めのうちは抵抗していた少年も、いつしか、全てを諦めました

 何を言っても、何をしても、止まる事はないだろう、と」


 心が締め付けられる。

 部外者の私でこれなのだから、当事者のルカはもっと辛いだろう。


「全てに無関心になった少年は、逃げる様に勉強を始めました

 楽しいとも思いませんでしたが、他にやる事もありませんでした


 どんな誹謗中傷も無視しているうちに、周囲には負の感情が溜まっていきました

 少年という玩具が反応しなくなったので、面白くもなんともなかったのです


 そして、その負の輪は広がっていきました

 それこそ…………邪神に目をつけられるまでに」


 これが…………悲劇の始まり。


「少年は、邪神に憑かれた時でさえ、何とも思いませんでした

 邪神は着々と力をつけていきますが、少年はただ傍観しているだけ


 そして、村は滅びました

 街も滅びました

 国も…………なくなりました


 それを見てさえ少年は、何とも思いませんでした


 …………僕は、その事実が、とても辛い」


 小声で漏らした本音。

 でも、私には聞こえてるよ。


 ルカは、優しいから。

 優しいから傷つく。

 他人の事と割り切れない。魂が同じだけで、自分が背負う必要はないのに。

 これが、私とルカの違いでもある。


 私は、楽天的で楽観的。

 よく言えばポジティブ。悪く言えば、適当。

 きっと後者の方が大きい。


 …………話は続く。


「そして、世界的にも無視できなくなった頃

 ある神が腰を上げました


 それが………リンネ神、創造神でした」


「!?」


 これは、予想外。

 相討ちになったのなら…………今いるリンネ神は、一体誰?


「あまりに大きすぎる力を持つので、制御役に、双子の精霊の姉も手を貸しました」


 双子の………姉?

 …………まさか、まさか?

 これは、偶然?

 多分、必然。


 誰かに、御膳立てされている気がする。

 簡単に情報が手に入ったのも。

 私の周囲に関係者が集まっているのも。


 誰が、私に真実を伝えようとしている?


「結果は、二人の勝利でした

 ですが、邪神は最後の最後に呪いを残し、二人を道連れにしました



 そして、数百年経った今

 邪神に取り憑かれた少年は、付喪神に転生しました


 名前も、力も何も分からない少年は、たった一人だけ、身内と呼べる神がいました

 その神は、何も話しませんでした

 だけど、少年には、それが心地良かったのです


 …………ですが、その神は、捕まりました

 罪を犯して、逃げていたそうです


 少年は、誰も信じられなくなりました


 言う事と思う事が違う人間も

 笑いながら残酷な事ができる神も

 何を考えているのか分からない精霊も


 誰も、誰も信じられませんでした


 その後、少年は、リンネ神と名乗る神に引き取られました

 ですが、やっぱり信じられません

 それどころか、近づきたくない、と………そう思ってしまします


 そして少年は、やっぱり勉学に打ち込みました

 真実だけを伝えてくれる時間は、少年が唯一、心を落ち着けられる時間でした


 そして、生まれ変わって五歳になった時


 少年は、一人の少女に出会いました

 その少女も、やっぱり色々な事を考えていて

 だけど、あまりにも正直すぎました


 そして、毒気を抜かれた少年は

 初めて、友人ができました


 ……………これが、僕が知っている全てだよ


 予想であれば、他にも説明できるけど、それは本人に聞いた方が確実だしね」


 いつも通りに笑うルカ。

 どうして、笑ってられるかなぁ。


 考えないといけないことも、気になることも、いっぱいある。

 だけど、そんな事より…………。


「強がらないでほしい」


 笑うつもりだったのに、きっと、頼りない顔ができている。


「ルカに、格好つける必要はないんだよ

 元々格好いいから」


 何を言っているのか、まだ理解できていない。


「だから、教えてほしい


 今、どんな気持ち?

 何を思い出してる?

 辛いこと?嬉しいこと?


 私にも教えてほしい


 嫌なことは半分で

 いいことは二倍になるんだって


 私にも、背負わせてほしい


 私は超能力なんて持ってないから、ルカの気持ちなんて知らない

 考えるの苦手だから、察することなんてできないよ」


 笑顔なんて、崩れ去った。

 置いていかれるみたいで、関係ないって言われたみたいで、不安になるばかり。


「ルカが何も思わないんだったら、私が怒って、泣くから

 何を感じないんだったら、私が笑って、驚くから


 だから、頼ってほしい

 何でも一人でやろうとしないで


 じゃないと、私の立つ瀬がないでしょ?」


 上手く言えないけど、私は寂しい。

 溝を、壁を作られて、引き離されるのが嫌だ。


「人の迷惑なんて、今は考えなくていいから

 やりたい様にやって

 思ったことを言って」


 伝わるかな。

 伝わってほしい。




「…………僕、は、嫌だった

 僕のせいじゃないのに、責められるのが

 望んだわけじゃないのに、忌諱されるのが


 救ってくれないなら、神なんて信じない

 分かろうとしてくれないなら、家族も友達もいらない


 勝手に幻想を抱いて、勝手に失望するのは、もうやめた

 見切りをつけて、諦めた


 …………だけど、やっぱり何処かで期待してた


 邪神に取り憑かれたなら、心配してくれるんじゃないかって

 少なくとも、哀れにくらいは思ってくれるんじゃないか、って


 …………もちろん、そんなことはなかった

 余計に憎んで、忌まれるだけ


 何でもかんでも、僕のせいにされる

 体のいい生贄


 僕は、嘘をついた

 何も感じなかったなんて嘘だ

 村が滅んだ時……………」


 震えてる。

 無理はして欲しくないけど、ルカは首を横にふる。


「嬉しかった

 自業自得だ、って…………そう思った


 でも、そんな自分が嫌で………大嫌いだった


 ………そうだ、誰よりも、自分が嫌いだった

 愛されない自分が

 嫌われていく自分が

 悪に身を任せた自分が


 全部全部、嫌で仕方なかった!!


 だから、邪なるものに願ったんだ


『僕を、殺してほしい』って…………」


 ……………ルカ。


 いろいろ言いたい事はある。

 けど、それよりも、何よりも…………。




「自分から死ぬなんて、そんな事して欲しくない


 ルカの気持ちは分からないでもない

 そんな状況で生き続けるなんて、死ぬよりも辛い事だと思うから


 だから、ルカのその選択を、間違ってるとか言うつもりはない

 言う権利もない


 私は、勝手に怒ってるだけ

 過去のことはもういいけど、これからルカに、一人で死なれたくないだけ


 自分勝手な怒りだから、気にしなくてもいいけど………


 そんな事、もう、しないで」


 視界がぼやける。

 本当に、子供みたいだ。


 理不尽に怒って、勝手に泣いて。

 私だって、自分の嫌いなところがいっぱいある。


「忘れて欲しくない

 前世でだって、少なくとも、今のリンネ神は死を悼んでくれた

 今世では、私も、アデラも、ルカが死んだら悲しいし怒るよ


 追い詰めないために、相談してほしい

 愚痴でも、八つ当たりでもいい

 ヒントがほしい


 そしたら、気付いて止めるから」


 半ば強引に、指切りをして、約束を取り付ける。


「これで、約束

 嫌がっても知らない

 どれだけ死にたくなっても、死なせてあげないから」


 涙を流したまま、精一杯笑う。


 ルカはずっと困惑したままだけど、私が分かっていればそれでいいから。

 これは、保険。

 優しいルカは、約束を破れない。

 ましてや、それが自分を心配するものだったら。


 狡いのは知ってる。

 だけど、私は欲望に忠実だから。


 絶対に、寿命で死なせてあげるから。


 絶対に…………死にたいなんて、思わせないから。

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