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聖城へ

久しぶりの投稿です

遅くなりました!

 シャルル経由で手紙を送って、数日後に返事がきた。

 結果は「了承」。それから、心当たりもあるらしい。

 …………あ、内乱やら「あのこ」やらは、ちゃんと包み隠して送ったからね?


 上手く行きすぎな気もするけど、考えていても仕様が無い。

 早速、魔界へ向かう事になった。



 魔界の、竜王城。

 真っ白な城壁に、茨や蔓が巻きつき、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。


 応接室には、私とアデラ、それからルカ。

 保護者が必要かとも思ったけれど、竜王様に流された。


 流石王城の使用人、皆きっちりとしていて、仕事ができる。

 入れられたお茶も、渋みがなく、とても美味しい。子供でも飲みやすい。(私達が子供かというのはスルーで)


「待たせたね」


 扉から入ってきたのは、動きやすそうな格好の竜王様。

 それでも威厳があるあたり、凄いとしか言いようがない。


 諸々の挨拶や社交辞令をすませ…………話は本題に。


「竜王様、心当たりがある、とは?」


「うん

 湖の横穴にあったよ」


 ……………は?


「え、え、え???

 湖の?横穴?

 湖の中にあるんですか???

 しかも、湖に横穴???」


 混乱の極み。

 意味不明すぎる。


「そうだね

 行ってみたら分かるかな」


 というわけで移動。

 全く意味が理解できない。

 ルカとアデラも首を傾げている。


 件の湖へ着くと、竜王様が水を見下ろし、瞬きする。

 たったそれだけ…………だったけれど、間違いなく、彼は何かをした。

 その証拠に、湖の水は先程よりも、ずっと自然な青に変わった。


「これって…………」


 湖の奥——側面には、足場の様になった部分が見受けられる。

 そこから続く道も見えるので、信じ難いが、城の可能性はあるだろう。


「聖女様とやらは、わざわざ湖の底から水を染めてるみたいだね

 魔法では消えないみたいだし…………本当にどんな人物か、気になるよ」


 ひっ、目が怖い。


 とりあえず、横穴へ向かうことにした。

 もちろん、防水はする。いっそ膜でも張ろう。


 皆も同じ様にして、竜王様が先導して進む。

 しばらく横穴を進むと、特に何の障害もなく、突き当たりへ来れた。


 そこには、たくさんの扉があった。

 目に止まったのは、一つの豪華な扉。他のものは、全て寂れていて似たり寄ったりだ。


「この扉…………でしょうか?」


 もちろん、私は豪華な扉を指す。

 しかし、竜王様は頷いてくれるものの、アデラとルカは訝しげだ。


「えっと、二人は違うと思うの?」


 尋ねてみると、首を横に振る。


「そうじゃなくて、扉なんて見えないんです

 私とルーカス様には、虚空を指差す姉様が映っています」


 え、それは何か嫌。

 …………じゃなくて、どういう事?

 侵入者対策なら、まだ分かる。

 けど、鍵を持ってる私は兎も角、何で竜王様も見えてるんだろう。


「竜王様、何か特殊なものを持っていたりします?

 鍵だとか、魔道具だとか、装飾品だとか」


「こういう立場にあるし、特殊なものはたくさん持っているけど………

 多分、これの事だよね?」


 そう言って取り出したのは、鍵山が「M」になった金色の鍵。

 私も鍵を取り出すと、持ち手の部分の装飾が、対になっているのが分かる。


「間違い…………ないかな」


 何故、二つも鍵を残したのか。

 …………まあ、悪用されないためだよね。


 万が一、竜族が裏切っても大丈夫な様に。

 もし、転生者が悪用しようとしても使えない様に。


 お互いがお互いを制し、番人になってたんだろうな。


 ……………そう考えると、あの花の精霊様もそうか。

 鍵の入手方法はガーネットだったわけだし。

 もし、成し遂げられなければ、私は資格なし、と判断されていただろう。


 予想通り、扉には二つの鍵穴。

 片方は銀色で、片方は金色。

 鍵の色と同じ方に、各々鍵を回す。


———ガチャリ


 無機質な音が響いて、扉が勝手に開いていく。

 無音だけれど、何処か神秘的だった。


「…………じゃあ、探索、かな?」


「そうだね」


 話し合った結果、二人ずつで行動することに。

 日本語の分かる私とアデラ、鍵を持っている私と竜王様は別れる事にしたので、必然的にチームは決まる。


 二手に分かれた道が見えるので、右に私達、左にアデラ達が行くことになった。

 もし、何かがあれば連絡を。

 幸い、私とアデラは通信で繋がれる。


「行こっか」


 ルカと歩み出す。

 足音だけが響くその空間は、洞窟内だという事なんて分からない。

 ところどころに生えている鉱石も、意図してそこに置いたかの様に似合っている。


 暫くは何もない道が続いたけれど、やっと一つの扉が見えた。


 ノックをするも、返事はない。


「失礼します」


 恐る恐る扉を開けると、そこには、両足を揃えて向かってくる美少女がいた。


 …………両足を、揃えて。

 棒立ちのまま、何故か近づいてくる。


「…………いや、何で!?」


 少女が無表情なのもあって、凄い怖い。

 ホラー映画に出てきそうなんですが。


「キー、確認

 魂、識別

 思考、確認完了


 …………ヨウコソ、イラッシャイマシタ

 日本人サマ、歓迎イタシマス」


 片言な言葉は、人間味を感じる一方、何処か無機質さが漂う。

 首元には謎の文字が彫り込まれていて、それが、彼女が人間ではない事を物語っていた。


「オートマタ………人造人間、ロボット…………

 そんなところかな」


 ルカの断定の様な言葉に、彼女は頷く。


「肯定

 私ハ聖女様ニ造ラレマシタ

 ソシテ彼女ノ命ヲ受ケ、貴女ヲオ待チシテイマシタ」


 彼女は箒を持っているので、家政婦の様な事でもしていたのだろう。

 そう言えば、埃や水滴一つ見当たらなかった。


「私ハ、ヨモギ、ト申シマス

 只今、全権限ヲ貴女様ニ譲渡イタシマシタ

 コノ城ハ、御自由ニ使ッテイタダイテ構イマセン」


 おお、何かすごい。


 ヨモギに用件———聖女様の聞いた、例の言葉などについて伝えると、研究室があるとか。

 地図をもらって、ルカと再出発した。


 グルグルと回りながら、研究室前へついた。

 まるで迷路の様で、地図がなければ速攻迷っていただろう。

 …………いや、地図があっても迷う人もいるなぁ。アデラとかアデラとか。


「ここ、だよね?」


 だけど、自信がない。

 私達の目の前にあるのは、ただの扉。

 だけど、押しても引いても開かなかった。

 ルカもいるし、間違えという事はないと思うけど、どうやって入ればいいのか。


「…………はい」


 私が悩んでいると、ルカが開けてしまった。

 扉は横にスライドされている。


 …………っ、そんなのあり!?


 まあ、とりあえず中に入る。

 そこには、ジェードの部屋に負けないくらいの、大量の本が置いてあった。

 神話の本や、歴史書が特に多い。


 アデラに連絡だけしてから、探索を始めた。


「これと、これと………これも気になる」


 とにかく、手当たり次第持っていく。

 部屋の中央には机もあるし、 時間もまだある。


 速読………とまではいかないけど、要点だけを読み飛ばす。

 全部読んでたらキリがないしね。


「…………邪神………神…………どういう事だろう」


 気になったのは、邪神についての頁だけ、何度も読まれている事だ。

 その分しわや痕もついているし、すぐに分かった。


 邪神………古くに存在した、悪感情の塊。

 主に人間の怒りや悲しみを力とし、世界を破壊しようとする脅威。


 貼られた付箋には、それを偉い神様が相打ちで倒した、と書いてある。

 ………何で知ってるんだろう。

 私の読んだ本には、そんな事書いてなかったけど………。人伝?


 それから、机の引き出しに、日記が入っていた。

 探索の定番、日記。

 もちろん持っていく。


「そろそろ合流する?」


 ルカと話して、重要そうな本を数冊(もちろん日記も)持って、ここを出る事にした。


 だけど……………。


「開かない」


 扉が開かなくなっている。

 押しても、引いても、スライドもしない。

 仕様がないから転移しようとしても、何かに弾かれた感覚がするだけだ。


 扉には、鍵穴が二つ。


「…………来るもの拒まず、去るものは追うんだ

 魔法も使えないし、扉も強化されてて壊せなさそうだし………

 アデラ達が来てくれたら助かるんだけど………」


 ルカと顔を見合わせる。


「とりあえず、情報を得ておこう

 損にはならないと思うよ」


「そうだね」


 提案に頷き、私は日記を読み始めた。


『異世界と思える場所に召喚された。忘れないために、そして、私の意思を引き継ぐ者のために、日記という形で記そうと思う。』


 そう前書きのあった後、日々の事などがざっと書いてあった。

 やっぱり、内戦起こしたのはこの人らしい。煽り方がすごい。わざわざ透明化して攻撃して、さらに花火打ち上げるとか。

 そして後半、目的の「あの子」達について調べた事が書いてあった。




『・少女は人外。しかし、竜族、魔族ではない。

・「あの子」は何らかの事情で精神が傷ついており、あの少女は生まれ変わる——つまり、転生した後に幸せになる事を望んでいる。

・「あの子」を救う事で、星の破壊はなくなる。

・「あの子」は星を滅ぼしうるほどの力を持っている。つまり、「あの子」も人外である。


・少女、「あの子」共に、神である可能性が高い。

 少なくとも、竜族、魔族ではない。

・魔法の力で探ったところ、「あの子」は邪神であるかもしれない。少女は邪神討伐に力を貸した——つまり、「あの子」を傷つけてしまい、救えない、と言った可能性が高い。

 しかし、誰も邪神の事を知らない。

 なら、私が情報を手に入れた——探った心の持ち主は誰だ?

・少女が嘆いている事から、「あの子」は邪神に乗っ取られた被害者である。


・邪神とは。

 神々を含む、あらゆる生物からの負の力が集まった、不吉や破壊の象徴。

 力が弱った場合、破壊などで負の感情を煽り、力を増やす。

 世界の破壊を目的としており、神を憎んでいる。


・「あの子」について。

 邪神につけ込まれるほど、精神が弱っていた、もしくは負の感情を抱えていた。

 しかし、本人の意思で邪神と化したわけではないようなので、精神が弱っていた——つまり、心に傷を負っている可能性が高い。


・私がこの世界に召喚されたのは、少女——神が「あの子」を助けようとした結果、無意識に呼び寄せてしまったのではないか?少なくとも、愚王一人——いや、魔界の力全てを持ってしても、異界から人を召喚するなど不可能だ。

 しかし、少女は「きっと」生まれ変わると言っていた。つまり、「あの子」はまだ生まれ変わっていない。

 だから、きっと召喚、もしくは転生で呼び寄せられるであろう地球人のために、私は鍵に魔法をかけて流した。

 ないとは思うが、万が一。その者が悪意を持っていたり、録でもない者だった時のため、番人として、竜王に鍵を託す事にした。

 私の言葉が伝わっていなくても、この城に来るのなら会う事もあるだろう。


・そして、他の者に見つからないように、この城に魔法をかける。

 もちろん、万が一入ってきたときの警備も完璧だ。

 この私の可笑しな魔法の力は、神から与えられた物だと思っている。

 そもそも、私は呼ばれるべき存在ではなかった。無意識に呼び寄せてしまったから、そのお詫びとして与えられたのでは、と思っている。何にしても、私に未練はない。それに、この世界での人生も楽しめたから、できるならば神にお礼を言いたいな。


・最後に

 まだ見ぬ地球人の方へ

 私はここに全ての知識を、設備を、財産を置いて行きます。

 貴方が間違えず、正しい使い方をしてくれる事を願っていますよ。


 ああ、そうでした。まだ名乗っていませんでしたね?

 私の名前は「衣奈(えな) 澪莉(みおり)」と言います。

 もしかしたら、知り合いだったりして。……なんて、そんな事はないでしょうけど。冗談ですよ。


 後、そうですね……。実は、「あの子」の事ともう一つ、心残りがあるのです。

 大分前に、魔法の練習として、ロボットを作りました。ここに来たのなら、ヨモギにはもう会ったでしょう?

 彼女、ずっと一人なんです。

 この城にいるのは、ずっと彼女一人。ロボットに心があるのかは分かりませんけど、私が彼女と過ごした時間は確かにあります。

 彼女を、少しでもいいのです。気にかけてあげてくれませんか?


 もちろん、私も仲間を作ろうとしました。

 けれど、他でもない、彼女が嫌がったのです。仕事を取られると思ったのでしょう。


 私からの、最後のお願いです。


 それでは、新しい、聖女様、もしくは勇者様。

 期待していますよ?』




 ……………衣奈、えな、エナ………心当たりはある。

 多分、あの人だろうなぁ。


 シリアスキラーのエナ。

 ネトゲ仲間で、超がつく武器オタク。

 しっかりしてるし、何でもできるのに、抜けているのが玉に瑕。


 …………まあ、会う事はなかったし。

 偶然だなぁ、とでも思いながら過ごしておこう。


 エナ、君の事は忘れない。キラン。


 …………っと、巫山戯るのはここまでかな。

 私も考えないと。


 心を壊した子と、それに心を痛めた神の少女。

 じゃあ、リンネ神じゃない?

 明るいし、話し方にも違和感がある。


 …………まだ、何かが足りない気がする。

 何がいる?何が必要?


 邪神を倒した神は誰?

 あの子、は何故心を壊した?

 誰に転生している?

 転生させられるほどの力を持つ神は?

 リンネ神の言動に、可笑しなところはなかった?


 …………分からない、分からないよ。


 何があれば、揃うんだろう。


「…………そんなに考えなくて、いいよ」


 私に声をかけたのは、他でもないルカだった。

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