手紙
『………ねえ、ステラ
これ見つけた』
お城で休んでいる間、精霊様達と話すのが、日課になった。
もちろん、アデラとアデラの契約精霊様も一緒。
そして、ガーネットは、猫の様に何かを拾ってきては見せにくる。
いや、結構重要なものだったりするんだけども。
空間を散歩していると、使われていないところから、いろいろ見つけるらしい。
「ん?今度は何?」
それは、鍵だった。
少し厚みのある鍵で、金属だからか重量感がある。
鍵山のところは、こころなしか、アルファベットの「E」に見える。
だけど、至って普通の鍵に見える。
「どうしてこれを持ってきたの?」
いつも持ってくるのは、可笑しな人形や、貴重な遺物、珍しい魔道具など、目をひくものばかりだった。
それなのに、今回は変哲もない鍵一つ。何かありそう。
『それ、ステラとアデラに必要だから
面白い事が分かるはず』
?
食い下がっても、ガーネットはそれ以上、教えてくれない。
他の精霊様達はいつもと変わらない様子だけど、何か知ってるのかな………。
「たのも〜!!」
大きな音をたて、部屋に入ってきたのはリンネ神とルカ。
度々くるんだけど、リンネ神。自分は仕事しないでいいの?他の神様には注意してたのに。
「こんにちは」
「こんにちは」
アデラと二人、ペコっとしておく。
ちゃんとした挨拶もしてたんだけどね?
もう、なんて言うかさぁ…………やる気がなくなった、と言うか………。
「ステラ、その鍵は?」
ルカが気づいた。
赫赫然然で説明するけど、やっぱり知らないみたい。
リンネ神も同じく。
「………ちょっと貸して?」
「?うん、いいよ」
ルカに手渡す。
何か気になる事でもあったかな?
「………開いた」
その言葉の意味がよく分からず、ルカの手元を見ると………鍵の持ち手部分が、ロケットの様に開いていた。
………まさか、そんな事になっていたとは。
中には、折り畳まれた紙が置いてある。
「はい」
鍵ごと手渡されたけど………え?
どうしたらいいの?
読む?読むよ?
{貴方は、この世界に転生、もしくは召喚された方だろうと思います。
私はこちらで七世紀頃、この世界に召喚されました。
元々は「日本」を生きる、ただの学生だったのですけれどね。
私を召喚したのは、魔界の王———魔王と呼ばれる者でした。
彼は、天使を滅ぼすため、「文明の進んだ日本に住む私」を召喚したと言いました。
私はお恥ずかしながら、モデルガンなどを趣味で集めていて、構造も知っていたので適任だったのかもしれません。
ですが、私は何かを滅ぼすため、壊すために自分の知識や力を使う気は全くありませんでした。日本人としては分かっていただけるかと思いますが、基本、平和主義者なのです。
私がいた時、日本は二十一世紀でした。
戦争など知りませんが、知識としては何度も学びましたよ。そんなに多くの方の命を奪う行為に加担するなどできません。
説得も試みましたし、私を巻き込まないでとも言いました。
過去、一度対戦があり、お互い滅びる寸前になったそうなのです。
それで、そこからは友好な関係を続けているそうですが、この時の魔王は無駄に自尊心が高く、天使との共存を拒んでいたのです。
正直、いい迷惑です。
そして、私の取った行動です。
洞窟に引きこもりました。
召喚チート、とでもいうのでしょうか?とにかく、私は魔法が可笑しいくらいに使えました。ですから防護壁や認識阻害などの魔法を使い、洞窟に居続けました。
もちろん、魔族や竜族の皆さんもいましたけど、お互いの不満を煽って内戦を起こさせ、注意を他へ向けさせました。私が加担しないでいいのなら、知らない国で戦争やってるな、くらいの認識ですし。問題ありません。
…………まあ、罪悪感はありましたが。
罪のない方々は出来るだけ救済しましたし、見逃してください。
その間に私は、同じく召喚チートで得た「創造」の能力で、洞窟内で食物を乱生させたり、洞窟を広げて私だけのお城を作りました。
このお城はこの鍵がないと見つかりませんし、開きません。いろいろ残しているので、よかったら受け継いで下さい。
それからの事ですが、気がついたら内戦は終わっていました。
思っていたよりも早かったのですが、愚王が死んだ後に魔族軍が和平を申し出たそうなのです。
私的にはハッピーエンドです。
そして、魔界には魔国と竜国という二つの国ができました。
魔王には愚王の息子とは思えない、賢い王子を。竜王には、愚王の側近をしていた優秀な竜人を推薦しました。
あ、何故私がこんな権力を持っているか?
内戦中に、食糧を提供していたのですよ。両方に。
さらに召喚されていた事で「聖女」なんていう私と真反対の称号を受けていたので、権力的には充分でした。
最後に。この手紙を残したのは、城の引継ぎと、もう一つお願いがあるからです。
私は召喚される少しだけ前。一人の少女に出会いました。
その少女は金髪碧眼で、この世界に来る前の私は、コスプレ?などと気楽に考えていましたが、彼女もこの世界の住人だったのかもしれませんね。
その少女は、泣いていました。泣きながら、呟きました。
「この せかい は おわり
ほしごと きえて なくなるの
たすけて わたしじゃ だめ
わたし は この せかい に かかわる ことは できない から
あのこ を たすけて
きっと うまれ かわる から
あのこ は さみしがりや で ひとり だから
わたし は こころ を すくえない から
だれか たすけて あげて
…………… あなた は だれ ?」
私には、気づいていない様子でした。
言葉の意味も、よくわかりません。
けれど、「この世界は終わり」なんて、ただ事ではないでしょう?
少女の言った「あのこ」が誰かはわかりません。
少女が誰かもわかりません。
無理強いする気はありませんし、できない事もあるでしょう。
けれど、純粋なこの世界の住人にはできない事だと思います。
私が言ったのは、「提案」です。
貴方には、是非を言う「権利」があります。
もし、荷が重い、と。できない、やらない、と思うのであれば、この紙は元に戻して下さい。
そして、この鍵を次の人に次いで下さい。
もし、協力してくださるのであれば、城へ向かって下さい。
私の知識の全てを貴方に捧げましょう。
召喚された聖女(笑)より}
……………何でシリアスに(笑)とかつけるかなぁ!?
…………もっと色々言いたい事はある。っていうか、ありすぎて困る。
というわけで、ちょっと後回し。
これは、全て「日本語」だった。
信憑性が高まる。
でも…………これを、此処で読んでいいのかな。
召喚に関係するのなら、金髪碧眼のリンネ神の関わりが気になる。
しかも、内戦起こさせてるし。これ………王様達には言えないなぁ。
「姉様、どうかしましたか?」
アデラが首を傾げている。
…………言ったら「何か」が起きそうで怖い。
この手紙の問題点は、異世界から勝手に召喚した事。内乱を起こした事。地球の知識諸々が詰まった城が、魔界に存在する事。………あんまり、公にはしたくない事ばっかり。
でも、わざわざこの状況で、話さないのも不自然だよね。
誤魔化す?
いや、一緒にいるアデラや、聡いルカなら気づく。
しかも、アデラの契約精霊様は、嘘が分かる能力を持ってる。
……………一か八かやってみる?
アデラとルカは、多分白。
二人とも賢いし、わざわざ誤魔化した、私の意図も組んでくれると思う。
問題は、精霊様。元々知ってる可能性も高いし、指摘されたら即・バレる。
…………離れられないかな、此処。
子供だけになりたい。
「………ちょっと、アデラとルカ、来てくれる?
皆さんは、此処で待っていて欲しいです」
私の言葉に、一応賛同してくれる皆。
良かった、「何故」とか聞かれたらやばかった。
私の部屋から、空間を繋いだ先———城の地下にある、私の宝物庫に向かう。
これは別に、比喩じゃなくて。
城にいる執事さんが宝石を作れて、誕生日にくれるから、保管してある。
他にも、思い出の絵(写真は流石に無理だったから、転写した)や、オルゴールなど、大切なものが置いてある。
この二人がどうこうするとは思わないし、大丈夫でしょ。
「姉様、何が書いてあったんですか?」
アデラが少し不安気な顔になる。
ルカも真剣な顔をしている。
「…………これ、読んで」
まあ、それが一番手取り早いよね。
「……………え?ええ?
どういう事ですか?
転生者———いや、召喚者がいて————えええ???」
アデラは完全に困惑している。
「…………読めない」
「あ、ごめんね!
ちょっと待ってね…………はい、どうぞ」
すっかり忘れてたけど、ルカは日本語読めないんだった。
翻訳して、もう一度読んでもらう。
「…………うん
どうして、ステラがあの場を離れたのかは分かった
聖女とやらの行動も気になるけど…………この少女だよね」
「そうなの
私はリンネ神じゃないか、って思うんだけど…………
色々、違うところが出てくるんだよね」
「私もそう思いました」
やっと落ち着きを取り戻したアデラも、話に加わる。
「世界が終わる」に「生まれ変わり」、「召喚の前に」って、神様だと思うんだよね。
金髪碧眼の神様、はきっといっぱいいるだろうけど……………何でかな、リンネ神だと思った。
「………とにかく、この『城』に向かわない事には、これ以上は分からないかな?
ステラは行くつもりだよね?」
「うん、もちろん
竜王様に連絡取れないかな?
シャル兄さんにお願いしてみる」
魔王様との関わりは少ないし、連絡手段がない。
だけど、竜王様は一応?好意的だったし、執事のシャルルが竜人だ。可能性はある。
「私もついて行きます
足手纏いにはなりませんから!」
「僕もついて行く
少し、気がかりがあるから………」
?
ルカの「気がかり」はよく分からないけど、今話さないのなら、無理に聞くことはしない。
自分から話してくれる、って思うから。
「私は構わないよ
…………一応、魔界の見学、の体で行くから、許可は取っておいてね」
二人とも頷く。
「じゃあ、詳しい事は連絡するから
………手紙の内容の誤魔化し方だけ、どうしようかな………」
これが難題。
………と思ってたんだけど。
「…………はい、どうぞ」
アデラが手紙を偽造して、ルカが上手く説明してくれた。
え、皆、対応力すごくない?
………私、する事なくなりそう。
……………いや、まあ、出来る事を頑張ろうかな。