神話
異界報告会、当日。
今日も神衣を着て、用意はバッチリ。
その前に、この世界について軽く説明。
この世界は大きく分けて、五つの世界が存在する。………といっても、地球と此処、みたいに完全に別の場所ではなくて、この世界の中に作られた、国みたいなもの。
一つが神界。
神様が住んでいる世界で、上級天使くらいしか行くことはできない。
神様は比較的身近な存在で、色々なところで信仰されている。
天界。
天使の住む世界で、此処もまた隔離されている。
行く方法がない事はないけれど、遥か上空にあるので、普通の人間は無理。
魔法を使っても、難しいと思う。結界張ってあるから。
人界。
またの名を人間界。
人間、エルフ、獣人が住んでいて、陸上にある。
人間は寿命が長いわけでも、魔法が得意なわけでもないので、人外に会う事はほぼないとか。
エルフ、獣人は決まった場所に住んでいて、会いに行くのは難しいらしい。
魔界。
魔族、竜族の住む世界。
魔族は魔力が、竜族は身体能力が高く、圧倒的な強さを誇る。
別に悪しきものというわけでもなくて、天使との仲も良好。
まあ、偶に歪んだものや天使を嫌うものもいるけれど、人間だってそうでしょ?個性みたいなもの。
最後に精霊界。
精霊様の住む世界。
精霊様———様付けをしているのは、天使は恩があるから———とは妖精みたいなもので、住んでいる場所は存在するけど存在しないと言われている。つまり、会いに行くのはほぼ無理。
………まあ、天使とは交流あるんだけどね。
という感じかな。
だから、皆で集まるのかな……と思ったんだけど………。
「母様、人間は招かれないのですか?」
こそっと聞いてみる。
そう、報告会にきたものの、人間だけがいなかった。
ちなみに、エルフと獣人は、神官や巫女っぽい人が来ている。
「ステラは、神話を覚えている?」
「え、はい」
神話———天使のいう神話は、天界創世記を指す。
『遥か昔、何もかもが存在しない時。
この世界を作りたもう神々が、この場所へ降り立った。
初めに造られたのは、我ら天使。
我らは神々から、役目を授かった。
それが、国———天界を作る事、そして愚かで儚く——けれども摩訶不思議な、「人間」を見守る役目である。
創造神はおっしゃった。
『我らは、人間を愛している
だが、この様な立場にいる故、必要以上に関わる事は禁忌とされる
であるから、爾らには、我らの代行をしてもらいたい
見守るだけで構わない。関わる必要はない
けれど、爾らにも、いつかこの気持ちが分かるであろう』
我らは日々、学び、考え、実行し、失敗を繰り返した。
その時に、様々なものをもらった。
「精霊」からは知識を。
「魔族」からは魔法を。
「竜族」からは力を。
「人間」からは愚かさを。
「神」からは叱責と許しを。
そうして、我らは「機械」なるものを作り上げた。
———しかし、それは失敗であった。
結果、魔法に劣るとも敵うものではなく、さらに悲劇を巻き起こしたのである。
それが、人との戦争だ。
力を求める他種族等と共闘し、我らの地までやってきた。
もちろん、その様な輩に劣る我らではない。人界そのものを消し去る事も可能だった。
しかし、我らには情が芽生えていた。
長く、それこそ始祖から見守ってきたのである。どうして情がわかぬものか。
その感情が、邪魔をした。
結果、我らが勝ち残ったものの、精神はボロボロであった。
愛しい子を、手にかけた様な気持ちになった。
それから、我らは愚かで——けれど、愛しい人間とは関わらぬ様にした。
神々も、お許しくださった。
我らは、逃げる様に、天界の発展へ力を注ぎ込んだ————』
…………そうか。そりゃ、呼べないよね。
私が沈黙していると、母さんは苦笑する。
「私は、別にいいと思っているのよ
だけど、御老人達の中には、まだその記憶に囚われている方もいらっしゃるわ
それに、他種族の皆様が過保護なんだもの」
確かに、皆、いい人達だと思う。
失敗は、繰り返さないためにある。私はそう思う。
二度と、そんな悲劇が起きない様に。
対策を取らなければいけないのは必然なのだろう。
…………さて、私が色々と考えている間に、報告会はもう終盤だ。
参加者を見回していると、竜族代表———竜王様と目があった。
一応、ぺこりとしておく。
向こうも、にっこりしてくれた。
「では、魔界と天界の交換留学、エルフと獣人の交流会、そして、精霊界の入り口補強
主にこの三つの案件を進めていきたいと思います」
おっと、決まってしまった。
まあ、話は大体聞いてたし、大丈夫だろう。
私が関わるのは……交換留学かな。
確か、姉妹校なんだっけ?天界と魔界の学園は。
報告会は解散したけれど、少し中を詰めるために、竜王様と魔王様と、お話する事になった。
まあ、私は見てるだけだと思うけど。
竜王様は若くて、私からしたらお兄さんくらい。
魔王様は貫禄のあるお爺さんで、なんというか………強そう?
「殿下、初めまして
テオドール・ドラックと申します」
魔王様と母さんが話している間、竜王様が話しかけてきた。
「お初にお目にかかります
エステラ・ウーヌスと申します」
愛想よく返しておこう。
「殿下ほどのお年頃でしたら、つまらなくはありませんか?
聞いたところ、殿下と同じく愛らしい妹君がいらっしゃるとか
今頃、寂しがっているのではないでしょうか」
……………プチッ。
つまり、お前には理解できないだろう。邪魔だから、子供は子供だけで遊んでおけ。って事だよね?
まあ、気持ちは分かる。不快に思っても仕様が無い。
けど、舐められすぎ。
やられっぱなしは性に合わないから。
「お気遣いありがとうございます
ですが、妹はとても聡明で、その辺りの事はきちんと理解しております
そして、つまらない……でしたか?とんでもありません!
世界の状況や問題点、そして皆様が出される解決策など、学ぶものがたくさんあります
此処に連れてきてくださった母様には、感謝しなければなりませんね」
(訳・妹は賢い。馬鹿にすんな
私はきちんと理解してるし、そこから学ぶほどの余裕もある
しかも、此処は私から来たがったわけではなく、母さんが連れてきたんだぞ。文句あるか)
憎らしいほどの笑顔で応えてやった。
訳の口が悪いのは、私の機嫌が悪いからとでも思っておいてください。
竜王様は少し驚いた顔をして、それから面白いものを見つけたかの様に微笑んだ。
「とても大人びていらっしゃいますね。陛下が自慢なさるだけはある
殿下さえ良ければですが、短期間でも構いません。竜国へいらっしゃいませんか?
精一杯、おもてなしさせていただきますよ」
おもちゃにされた気がする。
この人、絶対お腹真っ黒だ。
「ありがとうございます
ですが、私にもたくさんやらねばならない事がありますので………
また機会があれば、お伺い致しますね」
まあ、行く気はないよ、と。
生意気に返したつもりだったんだけど、竜王様は黒い笑みを深める。
…………別に、怖いなんて思ってないからね!