過庭之訓とはよく言ったもんだな
「さて、アリア様。左手の掌を私に向けて、浮盾の魔法と言ってください」
「は、はい…。浮盾の魔法…」
ボワッとアリア様の掌から全身を守るような、青く透き通る大きな盾が現れた。
「左手はそのままで歩いてみてください」
全身を守るほどの大盾なので、重たいのかと思っていましたが、アリア様は苦もなく、テクテクと歩き回っています。
「次は、掌を上に向けてください。あっ、いい感じですね。その魔法は、常に敵の方に向けて使ってくださいね。そして、掌を握れば、その魔法は消えます」
初めて魔法を使ったアリア様は、少し興奮した様子だった。
「アリア様は、走るの得意ですか? あっと、もしかして走ったことがないですか?」
「はい。ありません」
確かに、アリア様は、一日を屋敷の中で過ごし、執事のロバートさんにマナーを教わっていたのだ。走ることなんて無くて当然だ。
「では、あの木まで走ってください。そして戻ってくる時は、疾足の魔法を唱えてから、走って戻ってきてください」
アリア様は、言われた通り走って…お、遅い…。そして、木にタッチすると、ハァハァっと息苦しそうに、下を向き、息を整えているのです。
「アリア様。大丈夫ですか!?」
「は、はい…。でも、少しだけ待ってください」
しばらく休憩したアリア様は、「行きます!」と言って、走り出した。先程とは、比べ物にならない速さで、戻ってきたのです。しかも、まったく息が乱れていません!?
「す、凄く早く走れたし、全然疲れない!?」
「はい。疾足の魔法は、走る速さが驚くほど早くなります。そして走れる距離も伸びます。しかし、その効果は、個人差がありまして、どのぐらいまで走れるかは、検証の必要があります」
当たり前ですが、レイゼさんは、アリア様に対しては、丁寧な口調になります…。どうでも良いのですが…。はい…。どうでも良いですよね…。
「さて、魔法の凄さが理解って頂けたかと思います。今度は、パルの魔法の練習に付き合ってください。パルに向けて、浮盾の魔法を使ってください。そして、パルはアリア様に向けて、火矢の魔法を放ってください。う〜ん。やっぱり、安全のために、アリア様は、結界の魔法を使ってみてください。その後に浮盾の魔法を使ってください」
アリア様の周囲に、これまた金色に透けるドーム型の結界が現れた。そして、左手を正面に向け青く透き通る大きな盾を作り出した。
「アリア様。よろしいですか? パルが魔法で攻撃してきますが、驚いたりして、左手を握ってはいけません。浮盾の魔法が消えてしまいます。それに、これが本当の戦いだとして、攻撃してくる相手から、決して目を離してはいけません。どんなに怖くてもです」
「は、はい…」
「それでは、パル。アリア様に向かって、火矢の魔法を放ってください」
「だ、大丈夫でしょうか?」
「心配いりません。アリア様の方が魔力が強いですから、パルの魔力では、アリア様の浮盾の魔法を壊すことは出来ません」
「それは…それで…」
レイゼさんの言葉を信じて、アリア様に火矢の魔法を放つ。一直線上に飛んでいく火矢をアリア様の浮盾は、何事もなかったかの様に…カンッっと甲高い音を立てて、余裕で防いでしまった。




