去就進退とはよく言ったもんだな
ポーガレストから特効薬を持って帰ってきてから10日が過ぎました。この田舎街ウルルで大流行した流行病の紅咳熱も、殆ど感染する人がいなくなり、大分落ち着き始めました。魔道士ダリル様からの呼び出しもなく、【呪詛印】の調査結果が聞けないまま、悶々としています。しかし、やらなければならないことも多いのです。
「素手で戦う護身術を教えて欲しいと言われてもなぁ…」
中庭の手入れをしている警備兼御者兼庭師のアルマさんに、直接お願いをしてみました。
「フィロア様には、私から許可を頂きます。それにダリル様にも、ハンターとして魔物を討伐して欲しいと頼まれています。護身術は必要なのです!!」
本音で言えば、孫娘のアリア様の護衛のためなのですが…。
「魔物を相手にするなら…護身術ぐらいじゃ、話しにならないだろ?」
「いえ、攻撃手段は別に用意しています。ただ…最低限の護身術は身に付けておきたいのです」
「まいったなぁ…。まぁ、フィロア様に許可を貰えたら…。それでも、1日に1時間も練習を見てやる時間はないからな。俺は俺で忙しいからな」
「はい。ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をして、お屋敷の主であるフィロア様に許可を頂くため、中庭を後にする。
戦闘技術をハンターのレイザさんとアルマさんに教わって、ワーウルフの膂力で戦えば、どうにかアリア様の護衛も出来ると考えています。
もう一つ別の方法があります。それは、新しい【呪詛印】を刻むことです。でも、そんな都合よく魔道具があるはずもないのです。あったとしても、戦闘に役立つ【呪詛印】が入手できる確率なんてどのぐらいあるのでしょうか? そもそも、【呪詛印】に助けられたからと言って安心してしまっていますが、これは呪いなのです。今は、人間の姿形を保っていますが、いつか本当の化物になってしまうかも知れません。それに【呪詛印】が解呪出来てしまうかも知れないのですから、やはり地道に訓練するしか無いのです。
「フィロア様。パルでございます」と軽くノックをすると、フィロア様も丁度私に用があったらしく、すんなりと応接間に通されたのです。
「フィロア様、どのような御用でしょうか?」
「まぁ、座りなさい」
このパターンは…怒られる!? いえ…フィロア様からお説教を頂いたことはありませんよ!?
「もっと早く聞かねばならぬことだったが…心の整理が付かなくてな」
「心の整理ですか…」
「そうだ…。パルがポーガレストから帰ってきた夜。君の魔女ローブから…短剣が落ちたのだ」
短剣? あぁ…カーファ姉様から頂いた、アーベーニ家の短剣ですね。
「パル、君は、アーベーニ家の人間なのか?」
理由はよくわかりませんが、フィロア様は、私がアーベーニ家の人間だと…問題があると言っているのですね。
「私は…城塞都市ラカムを治める子爵フルゲェル・カラムの三女ニルスの娘リーシャです。その短剣は、ポーガレストに向かった時、偶然…盗賊に襲われていた子爵フルゲェル・カラムの次女ウリファの娘カーファを助けたときに、街の出入りに都合が良いと言って、頂いたものです」
「まさか…フルゲェル・リーシャが生きていたとは…」
「あの…生きていた?? どういうことでしょうか?」
「パル…。君には本当に感謝している…。アリア様の心も体も救ってくれたのだから…。だから、君には…生きて…生き延びて…欲しいと思う…。この街から…この呪われた国から出て行き、本当の人生を見つけてくれ」




