多情仏心とはよく言ったもんだな
今回の作品はある程度、ストーリーが決まっています。
このパターンだと、途中で飽きそうですが…のんびりゴールを目指します。
古美術商の息子であるハイル・ベネディクトの人生は、騎士を目指したときから、順風満帆だった。幼き頃、街で見かけた騎士に憧れ、棒きれを片手に独学で剣術を学んでいると、城塞都市ラカムの騎士団長アーレファに才能を認められ、13歳の若さで騎士養成学院に入学する。卒業と同時に駆り出された魔物討伐作戦で、偶然、子爵フルゲェル・カラムの三女であるニルスを魔物から救い、騎士爵の爵位を得て、ニルスと結ばれる。
この夢物語のような話は、娘のリーシャが7歳の時まで続くのだった。
「リーシャ様。また、そのような格好を…メイド長に叱られますよ」
「嫌だ。サーシェは、かっこいい。大人になったら、私もメイドになるの!」
幼いリーシャの憧れは。メイド長のサーシェであった。知的で美しく、配下のメイドに対して正確無比な指示を出し、本人はどのメイドよりも優れていたのだ。そして、今、リーシャが着ているメイド服も、サーシェを真似してリーシャが、独学で学んだ裁縫技術により作ったものだ。7歳にしては恐ろしい才能だと周囲も褒めていた。
「はははっ。リーシャは、そんなにメイドになりたいのか?」
「旦那様。笑っている場合ではありません。どうか、リーシャ様に…」
困り果てた新人メイドのランは、階段を下り近づいてくる…ポーカーフェイスのメイド長サーシェの内に秘めた怒りを感じ、自然と後ずさりした。
「ハイル…。貴方は…何処まで私を侮辱すれば…」
メイド長のサーシェが手に持った赤い壺で、ハイルを殴ろうとしたとき、たまたまリーシャが二人の間に入る。リーシャは、背後から憧れのサーシェの声が聞こえ振り返るが、目の前に壺が迫り、咄嗟に左手で顔を守ったのだ。
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調子に乗った成り上がりの貴族によくある話です。母ニルスは、父ハイルが、メイド長サーシェと深い関係にあり、さらにサーシェを裏切る形で、新人のメイドのランにまで、手を出していたことに、ショックを受け…浴槽で手首を斬り…自殺してしまいました。
ニルスを溺愛していたフルゲェルは、ハイルの爵位を剥奪後、城塞都市ラカムから追放。さらに…雇った暗殺者を使い…。
そして、目覚めた私は、修道院にいました。先程の両親の顛末は…私をいじめている同じ修道院のラーナから聞かされた話です。
この時代に魔力を持つ人間は、殆どいません。そのため魔法が枯れてしまったのです。しかし、ごく一部の平民や貴族の中に、【忌み子】と呼ばれる魔力を持って生まれてくる者がいます。それが私でした。
あのとき、メイド長のサーシェが持っていた壺は、【手繰り寄せの壺】という魔道具でした。そして、私の体から流れる少量の魔力が、魔道具に反応したのです。さらに、自ら毒を飲んだサーシェの怒りと絶望が、奇跡か呪いを産んだのか…魔道具の力が…【呪詛印】として、私の体に刻まれてしまったのです。この左手の掌に刻まれた【呪詛印】は、魔力を持たいない人が見れば、壺の入れ墨と区別が付かないでしょう。
元々、【手繰り寄せの壺】という魔道具は、壺に入った塩やオリーブオイル等を自動的に補充するという、只の生活用品としての魔道具でしたが、どのような力で魔法が改変されたのか…今では、『周囲の魔道具の力を改変しつつ、その体に【呪詛印】として奪い取る』という能力を発動しているのです。
残念なことに屋敷には、古美術商時代の骨董品が多数あり、その中に魔道具が含まれていたのです。そのため、私の体には、複数の【呪詛印】が刻まれ、様々な…呪いに近い…不思議な能力が発動してしまったのです。
カラム家から【忌み子】であり【呪詛印】を持つ化物が生まれてしまったことを世間に知られるわけにはいかず、しかし…溺愛していた今は亡きニルスの幼き頃と瓜二つの…化物と言われた私を、手にかけることが出来ず、フルゲェルは、修道院へ入れてしまったのです。