4・好奇心→心配(青晴)
俺のスマホを覗き込みつつ時雨が唸る。
あ、勝手に触って地図を拡大しやがった。
んで、また元の大きさに戻す。
「近いな」
「だろ?」
聡さんはじりじり動いてるけど、どうやら何かを探してるみたいで、ここからそう遠くない所をうろうろしている。
たぶんここから一駅先くらいの公園の周辺。
異界がこの世界にぶつかって、その一部が世界を侵食するときって、物質同士が拮抗して世界の侵入、って言われる現象が起こらない。逆を言えば、開けた場所なら物質同士の拮抗が存在しないから、異界の浸食が起こる可能性が高いんだそうだ。
ちなみに、物質の拮抗が崩れて、大質量の物質が流入してくる現象もあるって。
二年くらい前に福岡の方で起きた、新幹線事故がまさにそれだったって。
そういう時は類似物質同士が混在して、互いの世界に流入しあうんだとかなんとか。
もちろん「人」も行ったり来たりするらしいけど、基本的には世界の壁を超えると人間は死ぬから、生きてる状態で見つかる事はごく稀の稀……らしい。
これ全部最近できた後輩に教わった。俺偉い、覚えてる。
さすがはボスが激プッシュしてた人材だよな。時雨も舌巻いてたもん。
閑話休題。
それよりもだ、こうして聡さんが近くの公園の周辺うろうろしてるってことは、この公園で異界の侵入が確認されたってことだ。
そんでもって、聡さんはまだそれを見つけられていない。
だったら、先に俺たちが見つけてやってもよくね? って思ったわけだ。
「聡さんの仕事減らしてやろうぜ」
「増えそうな気がする……」
んな事言っといて、時雨はちゃっかり防刃繊維のジャケット着てるし。
俺が時雨の平成式胴田貫持って玄関に向かったら、リビングの電気とか消しながら付いてくるし。
「結局来るんだな」
「お前一人だと絶対危ないし」
むすっとしてるけど、これ俺のこと心配してんだよな。こう見えて。
まあ半分は聡さんの心配だろうけど。
俺と違って時雨は優しいし。
俺は優しくないよ。俺は俺の物しか守りたくないし、俺が嫌だって思ったら、恩人に迷惑かけることもよくあるし。
まあその迷惑かける事の方が嫌だって思ったら、少しくらいは我慢する。かも。
「あとお前だけだと絶対なんか悪いことが起きる。絶対だ」
時雨の言う通りだ。
我慢したくないし、出来ないと思ったらすぐ簡単な方に行くから、今日みたいに捕獲作戦無視したりとかあるし。
悪い事と言ったら悪い事だろうな。こいつにも聡さんにも。
「信用ねえ」
「信用できること一回でもあったか?」
うん、無いだろうな。
けど少しくらい信用してくれたって良くない?
「ちぇー」
しっかり戸締りして、俺たちは家を出た。
向かうは公園。だけど公園からどっちに行ったかは分からないから、その都度スマホを確認だ。
「聡さんどっち行ったか分かるか?」
「おう、簡単簡単」
スマホでサトルさんの位置を確認し、道を曲がる。
「こっちだ」
って、結構離れたところにいるな。もしかして異界の流入の原因、生物で、しかも逃亡とかしてるとか?
うっへえ、一番厄介なタイプ。
自立して動くやつって、被害ばら撒きがちなんだよな。
この世界にはいくつか接触しやすい世界、ってのがあるらしい。これも最近後輩から聞いた。
んで、その世界の生物は、対人兵器みたいなものなんじゃないかってなくらい、凶悪なのが多い。
中には人とか動物に寄生して、昏睡状態にしてからじわじわ生命力を奪って、何十年も死ぬまで栄養の苗床、みたいな感じにする奴もいるっていうから、恐ろしいことこの上ない。
「そういうヤバいのじゃなきゃ、いいんだけどな……」
別にハッキリ何と言ったわけではないんだけど、時雨は俺の言いたことを察したらしく、深く頷く。
「同感」
とにかく、聡さんが「暫定的に敵」って思ってるそれと接触する前に追いつこう。
俺が走りだせば、時雨もすぐにそれに従ってくれる。
けど距離離れてるからな、すぐには見つからない。
焦れて時雨が吐き出すように独り言ちる。
「やっぱりバイク欲しい」
やっぱりってことは、前にも考えたことがあるんだろうか?
そっか、手ごろで機動性の良い足っていいかもな。
「賛成」
「これ終わったら教習所探そう。ここから近い所」
時雨が探してくれるんだったら、俺はそれを真似するかな。
「そうしたら、いつでも聡さんのこと助けに行ける」
いや別に、聡さん助けに行くためだけに使うわけじゃない、使うわけじゃないけど、ここは同意しておくか。
「おう」
聡さんは一応俺たちの、父親みたいなもんだしな。