3・団欒→仕事(時雨)
今日の晩御飯は、鮭のムニエルとなめこの味噌汁。それとカボチャと鶏ひき肉の炊いた物。
急いで作ったから適当だけどと聡さんは言うけど、鮭のムニエルには態々冷凍のブロッコリーも添えて栄養足してるし、みそ汁に入ってるネギはたった今ベランダ菜園から採ってきて刻んだ新鮮な物だし、僕たちが甘い味付け好きだからって、わざわざカボチャを使ってくれてる。
あり物で作った和洋折衷でも僕たちのことをしっかり考えて作ってるって分かるから、適当だなんて思わない。
食事が終わると、前言通り聡さんは俺たちに事前に用意してた質問をして、俺たちはそれに答えた。
もちろん録音もしてる。
今日の仕事で駆逐したあの人食いの悪魔は、やけに攻撃性が高くて、何処かに逃げ込むってことよりも、とにかく目の前に現れた人間を襲っている感じだった。
だからうまく捕まえるための罠まで誘導できなかったって言うのもある。
話を一通り聞いて、聡さんはボイスレコーダーを止めた。
「お前らに怪我が無くて良かったよ」
あ、仕事じゃないモードの聡さんだ。
怒るんでもイライラするんでも無くて、僕たちをただひたすら心配してくれる聡さん。
あほの青晴が、ふふーんと胸を張る。
「怪我はないっす。怪我したら聡さん泣くんで」
「泣くか馬鹿。でも怪我がないならいいことだ。飯も全部食べたしな」
米を五合炊いたんだぞ、って、聡さんは苦笑する。
聡さんは普通の人間位しか食べないけど、僕たちは異能でエネルギー取られるから、人より多く食べる。五合くらいなら完食は苦もない。
「美味かったですサトルさん! ごちそうさまでした」
聡さんが、ふにゃって笑った。
何か返せる事は無いけど、聡さんはいっつもこうしてご飯作って一緒に食べると笑ってくれる。
僕たち拾ってくれて、うどん食わせてくれたあの時もそうだった。
「悔しいけど美味かった」
青晴がすっごく腹の立つ言い方をすると、今度は苦笑して片付けはしろよって聡さん。
「よしならお前ら食器洗え」
「ういっす」
適当な返事してるけど、サボったら僕に殴られると思ってるから、青晴はちゃんと食器洗うよな。
洗わなかったらまた殴る。
俺たちが食器を片付けてる間に、聡さんのスマホが不穏な音を鳴らした。
これ、会社関係のアドレスからメールが来た時の音だ。
こんな時間なのに……。
「っと……俺は会社に戻る……いや、ここら出向いた方が近いか」
やっぱり仕事だったらしい。
「仕事ですか? だったら」
僕も行きます、って言おうとしたら、聡さんは先回りして駄目だと強く制止する。
「子供は二十時まで、後は大人の時間だ」
時計を見ればもう時間は二十一時半。
花火大会とかイベントの時みたいな、楽しむ時以外、聡さんは絶対にそこを曲げてくれはしない。
聞き分けの無い子供のような真似をしたら、間違いなくサトルさんの負担が増えるパターンなんだけど、それでもやっぱり心配だ。
聡さんは自分の部屋に戻ると、見てわかるくらい分厚い防刃チョッキと、腰に予備バッテリーまでつけたテザー銃といういでいでたちに着替えていた。
ちょっと待って、その重装備、もしかしてすごく大変なことが起きてるんじゃ?
「何かあったら俺じゃなくてオフィスの方に連絡を入れろよ? それから、今夜は絶対にここを出るな。もしヤバいと感じたら地下倉庫に行け。いいな?」
「ああのサトルさん」
「いいな?」
「……はい」
有無を言わさない聡さんの言葉に、僕は頷くしかなかった。
はずなんだけどね。
「よし、行くぞ時雨」
やけに静かだと思ったら、この野郎。
さっきあれほどまでに聡さんが家を出るなって言っただろうがよこのあんぽんたん!
「殺すぞ青晴。どこへ行く気だこのすかたん」
青晴の手には平成式胴田貫。僕の分まで持ってきてるし。お前勝手に人の部屋に入ったのかよ!
聡さんだって入りたいときはノックするんだぞ。本当こいつこういうデリカシーが無くてイライラする。
「お前だって心配だろ?」
歯を見せていっそすがすがしいくらいに良い笑顔しやがって唐変木!
心配に決まってるだろ!
「聡さんがどこ行ったのかわからないだろ、下手にうろつきまわったら」
迷惑がかかるだけ、そう言いかけ僕に、青晴はスマホの画面を見せてきた。
最近会社に申請して新しくしたやつだ。こいつ何時も雑に扱って壊すから。
「じゃーん」
そのスマホの画面には、この周辺の地図と、二つの点が付いていた。
点の片方はじりじり移動している。
これって、もしかしてもしかすると、所謂発信機?
青晴はニヤッと、悪戯成功の喜びを隠すことなく顔に表す。
「後で聡さんにねちねち怒られろおたんこなす」
一体いつ取り付けたのか知らないけど、どうやらこのあほたれは、聡さんに発信機つけて、スマホ使って追跡できるようにしていたらしい。
「聡さんよく言ってるだろ、備えあれば患いなしって。実践してみただけだって」
何が備えだこのこんこんちき。
まったく、よくやったもんだよね。