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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート1
8/56

「暗躍」

「今日は渋木で5次会♪ 皆でサボタージュ♪ っとォ!! うへへへ~」

「こんなコンビニすらない辺境で何を言ってるんだ。というかうるさいぞ」

「うるせ~ぞこのムッツリ野郎、酒飲みにあらずは人にあらずよバ~カ!」

「こっちへ喋るな、息を吐くな。――ねえ叔父さん、いい加減コレもうその辺りに捨て置きませんか」


 山口は長門の、閑散とした田舎道を男ふたりで女ひとりを吊り提げ右左、霞と同化するように漂う。

 5月とはいえまだまだ冷える、この時間の止まっているような仄明るい感覚は嫌いじゃありません。

 はてさて、私もこの後の用達前に一献ゆったり浮かべ、春宵一刻値千金の時を楽しみたいものです。


「生憎とこんな臭っさい潮風の中素面でいれないモンでね。アンタみたくニヤつけるのが羨ましいわ」


 やがて市街に到着、目的地のナイトバーの階段を雨靄のごとく、今度は下へ下へと沈み降りてゆく。

 今ぞ知る、みもすそ川の御ながれ、波の下みやこありとは――とは、遠い昔の誰かの辞世の句です。

 四方を囲むは暗く冷たい打ち放し。ですが扉を開ければその鈍色の海から一転、かの歌さながらに、


「そら、ロイヤルストレートフラッシュだ!」

「おおっ! ひゃはは、こりゃ容赦ねぇな!」

「弱ェな兄ちゃん! どうだ、まだやるかい」


 華やかなる照明の光とシックかつ絢爛な内装の輝き、そして黄色ならぬ黄金の声が我々を迎えます。

 そう、繁華という語を切り抜いてきたような、活気と欲望に満ちた空間がそこに広がっていました。


「いらっしゃいお三方、何になさいますか?」

「今回はドジ踏んだな、姫香。だがここまで来りゃ下関までもうすぐだ。着いたら大人しくしとけよ」

「わかってるわよ……。それで、現地連中とはちゃんとナシついてんの?」


 着座するなりさらに、カウンター前の店主と隣の男女の合わせて三者三様に逆巻く言波。そして――


「はは、絶好調だねェ。だが気をつけな……ンな役を出すと寿命が縮むぜ」


 そんな中もうひとつ、静かながらもこの場の潮流をせき止める一声が“その男”より発せられました。


「ハッ、負け惜しみなら勝ってから言いな! もっとももう賭けるモノもねえだろうがよ。ハハハ!」

「いや、まだひとつだけあるぜ? 命とかな」


 そうしてこちらもエビスビールの注がれたグラスとともに、背後の席でのやり取りに耳を傾けます。


「おいおい何言ってんだい兄ちゃん? いい歳してよ……そんなのは中坊くれえで卒業しとけよな!」

「何だ、この店じゃないのかい。最近流行らねェ文字通りの意味でのおっかねェ暴力バー、ってのは」

「あ?」

「何でも男の客は金の代わりに命を取られ、女なら下関経由で海外に売られちまうって専らの噂だぜ」

「……」

「確かに海の向こうにも都はあるがよ、極楽浄土たァ程遠いトコばっかだよな。ああ可哀想なこった」

「……」

「しかも元締めは現職警官らしい。あと手前のスケがパクられりゃ、裏から手ェ回して逃がしたりよ」

「……」

「まったく女を食い物にどころか、骨までしゃぶり抜くヘビみてぇな野郎さ。旦那もそう思わねェか」

「……」

「まあ何にせよだ、せっかく元号も変わったってのに早くも世も末だねェ」

「……」

「よし、コールで――ファイブカードだ。あれま、最後に勝っちまったよ」

「……」

「さて? 命を賭けるっつったがこの場合、俺が頂いちまっていいンかね」


 連れふたりもそれぞれヴィーナスカクテル、清酒清盛で杯酌する中、隣の客の片割れがあちらを見、


「強い札は長生きできねえ、ってな確かに言い得て妙だな。さあ皆、その兄貴に一杯……奢るぜ!!」


 おやおや、さっきから大の大人がそろいもそろって時代遅れのハードボイルド映画ごっこ、ですか。

 と言わんばかりに瞬間マスターとポーカー連中までも銃を抜き、全員でその男へと一斉掃射します。


「ぴ!」「ずお!!」「たあぶ!!」


 されど刹那床から拾い上げた稲田姫と八塩折の瓶で、逆に今のをすべて弾き返してみせたその動き。

 ううむなんと鮮やかなこと、私でなくば見逃してしまっていましたねぇ。


「ひいふうみぃ……ファイブカードにはあとひとり足りねェな。だろ、山口県警本部の羽山サンよ?」

「てっ、てめえいっ……一体ッ!?」


 しかしやれやれ、あらぬ方向へ跳弾した分で我々のグラスまで割れたのは感心しませんよ、八俣殿。


「悪ィなぁヒルコ、香星(コーセイ)言子(ときこ)ちゃん。片ァ付いたら改めて飲み直そうや」

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