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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート1
7/56

「出張」

「こんの大莫迦者の始末書製造機どもがぁ!!」


 眼前に座る男が叫ぶ度窓硝子が罅割れて、机を叩けば都度“特務捜査部部長 草薙(くさなぎ)伊佐夫(いさお)”と記された名札が宙に浮かぶ。

 二人して立たされているこの凡そ十分間、唯々只管じっと大人しく嵐が過ぎ去るのを待つ。まあ毎度恒例の事であるが。


「ほら、とりあえずこれでも飲んで安静に。また血圧上がっちゃいますよ」


 やがてほとほと怒り疲れたその姿を見かね、兄貴様が茶を淹れ勧めるも、


「そうさせてるのはどこのどいつらなんだ!!」


 と、一口含むなり投げつけられた湯呑を二人で“逆ハの字”の姿勢で躱す。

 そしてそれを庶務の豊池(とよいけ)由気菜(ゆきな)が、溜息と共に渋々雑巾がけしを始める。


「しかし部長、こんなに早く解決できたのは我々の働きあってこそですよ」

「その通り、女の売買なんざとんでもねェ屑野郎共だ。これ以上犠牲が増えんで目出度しの万々歳ってなもんでしょうが」

「だからって今日びあんなド派手に銃撃戦おっ始めるやつがあるか! おかげでSNSにも派手に載っちまってんだぞ!!」

「何? あの糞尼め、恩を仇で返しやがって!」

「許せんな、逮捕だ。俺流の取り調べでヒィヒィ言わせてやる! フフフ」

「所で兄貴様よ。“えすえぬえす”たぁ一体??」

「ネット上で不特定多数の利用者たちと交流できるサービス全般のことさ」

「その“ねっと”だの“さあびす”たぁ、一体??」

「貴ィィさァァまァァらぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 ここでおやじの憤怒が頂点に達し、後ろの窓がいよいよ粉々に砕け散る。

 豊池が舌打ちしつつ、苦虫を噛み潰した様な面で箒と塵取を握り締める。


「は~あ。【鬼の伊佐夫の右目】の異名を誇りに日夜凶悪犯を見逃さず励んでるのに、こう怒鳴られちゃ割に合わないな」

「おれもよ。【鬼の伊佐夫の鼻】として犯罪の臭いを嗅ぎ分ける模範的職員だってのに、こんな仕打ちはあんまりですぜ」

「うるさい、とにかくしばらくお前らは自宅謹慎だ!! わかったな!!」


 机を殴る度、名札が天井に突き刺さっては元の位置へと戻り、再び飛び上がって、を幾度となく繰り返す。程なくして、


「部長、やりました、ついにつかみました! 連中の拠点、島根ですって」


 との声があがった。調べ物とやらを済ませたと思しき五刀の奴めだった。

 このヤマやはりまだまだ終わらんか。あれではどうにも拍子抜けだしよ。

 兎に角五刀めでかした、そしてまさかそれが我々と因縁深き島根たぁな。


「島根かぁ、少し遠いな。飛行機代もないし、ツーリングがてら高速かね」


 机上の調査書類にこっそり手を伸ばす。するとおやじが背を向けたまま、先刻とはうって変わった静かな口調で告げる。


「お前たち、わかってるよな。自宅謹慎、だぞ」


 やれやれ、今更野暮な事を。おれたちも又、無粋なる答えを敢えて返す。


「無論ですとも親父様、今日は大人しく帰りまさぁ。“本籍地”の島根によ」

「はい父さん。弟の家は私のも同然ですし、向こうでゆっくりしてますよ」


 そうして後方より響く、先刻以上の勢いの怒号と署内の硝子が次々割れゆく音を背に、おれたちはその場を駆け出した。


「待てえツキヨォ!! タケェ!! 待たんかぁぁぁァァァッッッッ!!」

「というわけで俺たちの、改元間もない春先からの怒涛にして数奇なる事件簿の本格開幕だ。皆、応援よろしく頼むよ!」

「しかしまさか初っ端から、揚々と二輪に騎乗したご機嫌なる旅路のはずが早速大爆発に巻き込まれるたぁ思わなんだぜ」

「何? 騎乗位からの大暴発だと? 建お前な、為す術なくされるがままなんてそんな、男として恥ずかしく思わないの」

「やれやれ、そういう平常運転で盛大に事故ってるんじゃあ益々始末に負えねえや」


「はいはい、バカ2匹は置いといて予告といきますか。次回、高原署〜『爆発』。お楽しみにね♪」

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