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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート4
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「侵食」

「ですから、宮司はもう帰宅しましたしそもそもすでに参拝時間も終わっています! こんな夜中に非常識ですよ!」


 はてさて、八俣たちを振り切り無事到着した“例の大社”。伊勢のあそこと並び日本人なら誰もが聞いたことのあるだろう、それはそれは格式のお高いお社だ。


「いやいや、隠さなくてもいつもここにいるのはわかってるからさ。とにかく早いとこ、大主(おおぬし)国大(くにまさ)君に取り次いでよ」


 だがまあやはりと言うべきか、来たら来たで今度は“宿衛”という夜間当直の、まだまだモノを知らなさそうな若い神職とのすったもんだが始まってしまった。

 やれやれ、職責に忠実なのは結構だがあまりに融通利かないのも社会人としてどうかと思うなァ。まあこの業界もまあまあ特殊だし、一般とはまた異なるが。


「あのね君、ここまで立派な神社に権禰宜として奉職してるってことは神道の家の子弟できっと皇學館大あたりの四年制課程出て、明階くらい持ってるんだろ」

「えっ。――そっ、それがどうかしたんですか」

「だったら、こんな深夜に急に押しかけた上しかもここの宮司サンをも“君”呼ばわりできる僕たちが果たして一体“誰なのか”――。おおよそ想像つかないかな」


 ここまで伝えてやっと理解したか、青年の顔が一瞬にして蒼く一気に30は歳をとったように血気を喪失させてゆく。

 ふう、ともあれその沈黙いや戦慄を入場許可とさせてもらうか。そうして拝殿裏手の素鵞社をさらに越えた、八雲山中に秘匿されてる“真の本殿”へ向かうと、


「そこにおるは誰ぞ!! 今時分に何用か!!」


 周囲によく通る低音に紋付きの白袴姿という、精悍にして威厳に満ちた様相の当人が直々に堂々お出迎え下さった。


「フッ、随分と久しいな国大。息災であったか」

「ゲッ!? ツッツツツッッ、ツキッ――!?」


 なのでこっちもわざとらしいほど芝居がかった風に挨拶してやったがその瞬間、つぶれた蛙みたく上擦った悲鳴をあげながら自ら裾を踏みド派手にすっ転ぶ。

 そうしてそのまま草履をふっ飛ばしつつほふく猛進、近くの木陰に隠れたきりドロンと、ついたった今さっきまでのとはまるで180°異なる醜態を晒す始末だ。

 やれやれ。そんな幽霊、いや死神に遭遇したようなリアクションしないでもな。ともかく下が下なら上の者もこんなんでこの神社、この先大丈夫なんだろか。


「貴方に比べれば死神のがまだマシですよ!!」

「まあまあ落ちつけよ、まぁた血圧上がるぜ?」

「うううっ。して、今回は突然何なのです――」


 ひとまず中へと入り、依然として気を失ったままの稲田さんを保護してもらったのちに、これまでの事情を伝える。


「ふむ、それで我が大社の“結界”を頼って来られたと。確かにここ半径数km以内にあやつらは近づけませぬからな」


 ふん。何ぁにが結界だよ、今日び時代錯誤な。まあ兎にも角にも松江になぜあんなにわかに、そしてあそこまでの規模で八俣の手の者らが集結していたのか。

 それはおそらく“電波”によるものだろう――。かねてより行政や司法の中枢に少しずつ入り込み、何年も幾星霜もかけ“素養”のある者をここ島根へ送り込む。

 仕上げは特殊な電波をBCCメールのように一斉発信。結果“本来の自分”を取り戻し、野郎の忠実な部下ないしは俺を恨んでやまぬ復讐者の一丁上がりってな。

 今思えば観光目的で1日早く来たのが幸いしたか。予定通りだったなら連中の備え万端の中突っ込んでたことになり、ずっとえらい目に遭ってたに違いない。


「勢いに任せ暴れ過ぎたあの日々の――“若気の至り”の報いって奴だな。まあ、おれも余りヒトのこたぁ言えんがよ」

「その通り。所詮我々の現在とは“過去の積み重ねの結果”なのですから。因果応報、自業自得とはよく言いますこと」


 チッ、そんなの言われるまでもなく当人が一番身に染みてわかってるさ。何にせよ今は善後策をとるのが最優先だ。

 そう、餅は餅屋に電波にゃ電波ってな。幸いここにいればしばらくは安全だし、本署からの応援を待つのが最善か。


「月世様……申し訳ありませんが、補給の済み次第どうかお引き取りを。この地を血で汚すわけにはいきませぬゆえ」

「生憎それはできぬ相談ですわね。彼らはあくまで“ついで”。本命はアナタ方の本丸たるココを落とすことですので」


 そうだ、よもやこの国の危機を前に未だ狭いコミュニティでふんぞり反り我関せず、なんて真似は問屋が卸さんぞ。

 ん? ……って、アレ。さっきからするこの女の声は……小夜子のじゃ、ない?? とすると、いや……まさか……


「もっともワタクシ個人の望みは終生不変ただひとつ。この男を討ち滅ぼし己が恨みを晴らすことのみ。ねえツキヨ」


 一同一斉に背後を向く。そこに悠然と立っていた長い黒髪の女性は別室で眠っているはずの稲田さん、ではなく――


「ご自慢の結界とやらも“異邦の血”は素通しのようで。まあ、今も昔も外国に敗け続けの日本にはお似合いですわね」


 ヘレハイム・ニーブル――。我らが母さんの腹心にして【死の女王】の異名を取る、俺の“かつての妻”――だった。


「ああもう、あろうことか本当に“死神”を連れてくるだなんて!! この責任は取って頂きますからね、月世様!!」

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