「爆走」
よう良い子の皆、元気かい。俺は八俣智、ここ島根を中心に点在する西日本の怖~い組織の数々を手広く仕切ってる男だ。
さあて、今回は永年準備を進めてきた“計画”をついに実行に移そうってンで、まずはこの連中を見事誘い寄せてやったぜ。
互いに八百万裂きにしても足らねェ間柄の読山月世に佐能素男の兄弟どもと、我が血を分けた妹の五刀小夜子の3人をな。
「悪いな、君に恨みはないがその左腕――“頂くぜ”」
「ヨミさん早くして!! 逃げられなくなンよ!!」
「おれが先導をする!! 二人共かっ飛ばすぜ!!」
ツキヨの野郎が失った手を、俺の部下の亡骸から切り落とし手前の身にくっつけ、他のふたりとともにバイクで走り出す。
それを待ったのち俺らもいざ出発だ。何せ超久っさ々の再会だしな、これくれぇハンデくれてやンのもまた一興だろうさ。
「それで、追跡もあえてあなたの私物のこんなボロ車で、運転も私と。やれやれ、少々お遊びが過ぎるんじゃないですかね」
どっこい無駄と徒労に迂遠があるから楽しいンだな人生ってなァよ。やれやれ、俺の親父より年上のくせしてつれねぇな。
そんな仕事仲間の“ヒルコ”こと蛭子歳三を尻目に、ロマン街道の夜風の中へブラックデビルとフィアット500の煙を流す。
「まず第一陣。ンなトコでつまずいてくれンなよ?」
まあ当然500ccなんぞで追いつけるわけもねえし、再び白バイの部下を10数台先行させ連中へ差し向ける。だがツキヨの、
「ホワチャアアアッッ!! ――なんつってな!!」
運転しつつ散弾銃をヌンチャクのように振り回す、どこぞの悪魔を狩るゲームの技みてぇな迎撃に遭い早くも数人脱落だ。
「オラァ!! 八俣を黄泉路で待っててやンな!!」
かたや小夜子もFF7のごとく、手にした標識ポールでの薙ぎ払いで後続を次々と“ライフイズヴェイン”にしてみせやがる。
「図に乗ってくれる。ハンドル頼みますよ、八俣殿」
ンで、こっちもこっちで相方と運転を代わってやった途端、奴さんルーフから身を乗り出してマシンガンの大掃射ときた。
うーんこの木曜洋画劇場くせーバカバカしくも香ばしいベタなノリ、何だかんだでテンション上がっから愉快痛快爽快よ。
「オラッ!! さっきのお返しよクサレ野郎が!!」
だがそれに対し愚妹めがバイクを急旋回、得物の360度全方位ぶん回しの一閃でなんとそのほぼ全部を弾いてきやがった。
振り乱れる長い黒髪、その様は大蛇が尾をしならせなぎ払ったような豪快さ。おかげでこっちのガラスもメチャクチャだ。
「チッ! 田舎娘の分際で、ちょこざいな真似を!」
「そう怒りなさンな。ホラ、今第二陣が来るからよ」
そう、当然いつまでも遊ばせとくつもりはねえさ。ここで横からトラックを突っ込ませ少し先の道を完全にふさいでやる。
依然マッハで爆走するツキヨとタケのふたりには衝突することなく通過されちまったが、今のでスピードを落とした小夜子
「この程度で止まるって? なめンなよアホが!!」
しかし次にカマされた行動にゃァさすがに驚いた。なんとGTAばりに車体側面を壁走り、そしてさらに宙を舞いつつ旋回、
「ぶべら!!」
まるでブーメランさながらに、前後双方のタイヤで俺たちの車のピラーをブチ折るとともにヒルコの顔面へ強烈なる一撃!
踏み台にした上で今度は縦方向に大回転ジャンプ! そのままトラックを問題も何事も造作もなく飛び越えていったのだ!
「ヒルコ!? 大丈夫――っと、うおっヤベッ!?」
一瞬のことに面食らってる場合じゃねえ、このままじゃこっちがぶつかる! しかし咄嗟の再びのハンドル操作も虚しく、
「うおお!?」
スピードを落とせずに分離帯向こう側の反対車線へ、頭から地面にド派手に突っ込み完ッ全ンッに自走不能となったった!
「フゥ、やられたぜ。これで“2勝1敗”だなヒルコよ」
上下逆転した車内で2本目の煙草に点火する。まあ、元々行かせた方が好都合だったしな。これはこれでよしとすっかね。
「その通り。ではあとは頼みますよ――“義姉さん”」