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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート4
54/56

「撤退」

「ツキヨ、タケ、ああ我が息子たちよ……もっとよく顔をお見せなさいな。何せこれが最期になるやもしれませぬゆえ……。ふふふ」


 喪服姿に加え、神式では用いないトークハット着用とはこの人の『日本滅すべし』という、装いと同じ色をした深い怨念の表れか。

 そしてそれと対照的な聖なる輝きかと思えば、やはり風貌通りの生気なき妖しさを纏っているようにも見える銀髪が夜風に流れる。

 この国のため俺にとっては姉さん、八俣と同じく絶対に倒さねばならない【穢レ】の首魁にして、我々兄弟の母――“相座(アイザ)那美(ナミ)”だ。


「ハハッ、やっぱ大姉御はスゲェぜ! ビンビンギンギン力が湧いてきてたまンねェよ!」


 いよいよこの人まで出て来やがったか、と考えてる暇もなく完全復活を果たした八俣が、


「オラァ、第2ラウンドと行こうや! まずは、テメェさんにさっきの“乗返し”だぜ!!」


 建を目がけて全身に白い火花を激しく散らせ、空気を鋭く切り裂きながら突進してくる。


「チイッ! ――ぐほっ!! うぐおおっ!!」


 その勢いは迎撃の右拳を弾き左ガードを崩し、ボディに強烈なブローのち竜の尾のようにしなるソバットで軽く50mは吹っ飛ばす。

 そう、これこそが母さんの恐るべき“能力”だ。電撃での細胞刺激によって“再生”のみならず、一時的にも身体能力の“強化”も可能。

 もっとも長くは持続せず、身体に多大な負担がかかるため立て続けの使用はできないが、


「ホラ、余計なこと考えてる場合じゃねえぜ!」

「ぐは!! ぐおっ!!」


 その超絶パワーと極限スピードはまさしく驚電動地、烈風迅雷のごとし。なすすべなく気づけば空中と地面を往復させられており、


「ぐっ!! ――うおおおおおおっっッッ!!」


 手刀で腹部を一突き、背中側まで貫かれ熱く激しい衝撃をしこたま体内に流し込まれる。

 クソッ。我が特技を男に、しかもよりによってこの野郎からやられるとは何たる屈辱か。


「チッ、この死に損ないが! ブッ殺――!!」


 よせ、だめだ小夜子。そう、こうなると3人がかりでかかっても勝ち目は薄いだろう。せめて効果の切れるまで何とか防戦に徹――


「おやめなさい。我が息子たちと縁深く、そして八俣殿の妹君でもある貴女様を討つは、このわたくしとしても本意ではありません」


 しかし、激情に駆られる彼女を制したのは意外にも、敵であるはずの母さんの方だった。

 俺の傷が癒え、建の起き上がるのを待ったのちまさに文字通り子を諭す母親として瞳に光を表情に慈愛を、言葉に厚志を宿し語る。


「母は寛大です。テルコやイサオの下を離れ、我々につくと誓うのならばこれまで一切の遺恨を捨て、喜んで暖かく迎え入れますわ」


 だが一旦うつむいて、髪の暗幕をかき上げるとその顔は瞬く間に闇を帯び機械のごとく至極冷淡に、ひどく無機質な口調で告げる。


「ですが母は非情です。拒むのであればこれまで通り滅すべき敵として、この場で最も残酷な死を贈りましょう。さあお選びなさい」


 そう言い終えた直後、八俣の手下とおぼしきパトカーや白バイがさらに数台ずつ背後よりやって来て、退路も断たれる形となった。


「ハッ、今更何を仰るのか。そんな答えなんざ端から決まってらぁな。だろう、兄貴様よ」


 しかしそう鼻で笑う建の、投げよこしてきたマッチ箱を受け取ったのちそのうち一本をあちらへ向けて、俺も威勢よく言ってやる。


「丁重にお断り致します」

「そう……。残念ですわ」


 直後、即座、ブオン!! と爆音を添えてこちらへ車とバイクが勢いよく突進してくる。


「ぐお!?」「どわ!!」


 俺は回避ついでに車体で擦ったマッチで煙草に点火、持ち替えた銃で運転者どもを片づけて、吐き出す煙とともに再び母に告げる。


「あなたが日に1,000人の民を害するならば、私たちは1,500人を護り抜く。昔も今もこれからも、答えはそれだけですよ――母さん」

「……やはりお前はいつまでも、陽の光に隠れ怯えおののくのみの木偶の坊ですわね。しかしこれでもそんな大口が叩けますかしら」


 そう言い捨ててくれると、母さんの後方よりまた複数体の影が現れる。チッ、これは――


「ククク……ハハハ!! この楽しい愉しい延長戦、お次はぜひ私たちも混ぜて下さいよ」

「フフフ……もっともだ。家族が見事に一堂に会する機会もそうはあるまいからなァ……」

「ツキヨ……ォォッ!! さっきの借りィ、オノレの首狩りで返させてもらうで……!!」


 いやはやなんてこった。ヒルコ、兄さん、アワ、苦労してブッ倒した連中の全員出勤選り取り見取りの花びら大回転――ってかい。

 もはやある種の祭りだな。“死魔根”と名が変えられちまってもやはりこの地は昔も今もこれからも、退屈とは縁遠い場所のようだ。


「建。俺あと何回も生き返れないからこれ、お前の自慢の肉体で何とかできない……??」

「否。筋肉に不可能は無えが、この数を捌くにゃあ肝心のおれ自身の技量が道半ばって話だな。ここは一旦潔く退くとしましょうや」


 今さっき俺の仕留めた車とバイクを抱え、受け止めながら建が顎をしゃくって合図する。

 そしてやつは小夜子に白バイをあてがい、失神中の稲田さんとともに自分はパトカーに乗車、この場より離脱する算段をし始めた。

 そうだな。さすがにここまでの状況じゃ、いくら俺たちといえどもそうする他ないか。俺も愛車に跨がって急ぎエンジンをかける。


「チッ、逃げるったって一体どこによ!? まさか、アテはもちろんあンでしょうね!?」

「応よ、心配すんない! こんな時にゃあお誂え向きのとっておきの処があるからよ!!」

「ああ、当然こいつらの追って来れないあそこだ! “例の大社”で体勢を立て直すッ!!」

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