「激突」弐
『ぐおッ!? ふっ、不覚ッ!! このおれとしたことが……』
『建速っ!! くっ、八俣遠呂智よ貴様、その力は……ッ!!』
『フン、ああそうさ。お前と同じ【氷の秘術】よ。驚いたか?』
『魔の者、蛇たる貴様がなぜそれを! いや、まさか……!!』
『フッ、その通りさ。お前がかつて義父と呼び慕った男、その“半身”。すなわち“我が父”より受け継がれし才、血ってこったぜ』
『成程な……我が旅路未だ終わらずか。なればその首を獲る名分もここにまたひとつ。己が責務、今一度果たしてみせようぞ!』
『いいや、果てるのはテメェの命だよ。その頭蓋を盃に臓物を酒肴に、腐った因縁ごと呑み干し喰らい尽くしてやるぜ月読!!』
――クッ。永年追い求めた宿命の仇敵がすぐ目の前にいるってのに、相変わらずひどい頭痛に苛まれ続けてる情けない有様だ。
「Death or Dead……さあ、好きな方を選ばせてやるわ。兄貴」
悔しいが、こんな状態では小夜子に一番槍を譲るしかないか。
宙に放った標識ポールを手刀でバラバラにし、両手指に4本ずつ挟んでみせる。あいつの一族に先祖代々伝わる剣術の構えだ。
それはまさに竜の爪牙をも凌駕せし、山を穿ち雲を削り天を衝き星を砕く、大蛇の顎門そのものがそのまま顕現したかのよう。
大月姫香のX-23もどきとは迫力からして違う。これが真剣であったならば、さっきヒルコに遅れをとることもなかっただろう。
「イキがいいねェ! Ok,Let’s get serious!! Yeah-ha!!」
対する八俣が腰から抜き、闘争心むき出しの双眸とともに両逆手から光らせるあの得物は――。まさかだろ、冗談じゃないぞ。
「フッ、ああそうさ。今世に伝わってるまがいモンじゃねえぜ」
チッ、やっぱりな。大昔、一時的に盗み出された時密かにすり替えられていた、ってことかい。“あそこ”の面目丸つぶれだな。
「ちなみに片方は壇ノ浦から苦労して引き上げてきたンだぜ? 時を経て再び正当なる持ち主のもとへ。なあ、胸熱だろオイ?」
やれやれ、歴史家や伝承学者が知ったらえらいことになりそうだな。まったく、姉さんめ。管理はきちんとしておくモンだぜ。
「死魔根と化したこの地への供物、まずはお前だな我が妹よ!」
「そうかい、なら前菜だけで腹一杯ゲロまみれにしてやンよ!」
そうこうしているうちに、かたや静なる激情を帯びた青紫と、かたや澄明を超え毒々しいほどの赤橙、ふたつの光が交錯する。
それはまさにかの“カドゥケウスの杖”のように。天を翔け咆え猛り、鋭く激しい鍔音と火花が周囲に響き合い降り注いでゆく。
「オラァ!!」
「チィッ!?」
武器は野郎のが上物だが、されど技量は小夜子の方が上等だ。見事、いや美事に八俣の太刀筋の双嵐を捌き、かいくぐりつつ、
「ブフッ!!」
「うおっ!?」
毒霧で怯ませた隙に刀の片割れを奪い、続く踵落としで叩き堕とし、派手に地面を跳ねたやつ目がけて自身も勢い良く急降下!
「グハッ!!」
さっきヒノを撃ち抜いた雷撃のごとく、急所を正確無比にズブリ! 頭ひとつ分以上の差のある体格を貫いたまま回転ののち、
「主菜はおれが馳走してやらあ!! 今度こそ散りやがれ!!」
「うごォ!!」
振り飛ばした八俣の顎に建の拳が超絶ジャストにクリーンヒット! これだけで充分即死級だろうが、まだ食後酒が残ってる。
「お前にもう一度振る舞うべく、たんと熟成させといたぜ――」
さあ、あの時みたくじっくり味わい今度こそゆっくり眠りな。
愛銃から放たれた一撃が打ち上げられた八俣に着弾し煌めく結晶に。それはもう純白蒼麗な花火となって風に舞い雲散霧消する
“カッ――!”
はずだった。
その瞬間突如としてその場に発生――いや、出現した白き雷。俺たちがさっき誘発させたような自然現象によるものじゃない。
「フゥ。いやァあぶねえすっかり油断したわ。助かったぜ姉御」
やつの身体、頭から爪先までが丸ごと一瞬覆い包まれたのち、残息奄々の状態から何事もなかったように五体満足ビンビンに。
ちくしょう。一応遭遇を想定してはいたが、まさかマジでこの野郎のすぐ近くにいやがった、いや、おわしましていたとはな。
【電撃】の作用で全身の細胞分裂を活性化、修復を過剰促進。死の淵からさえ無理矢理“蘇生”させられるこの力の持ち主は――
「ほほほ……。ツキヨ、タケ……これはこれは随分とお久しう」
やはり……“母さん”。チッ……こりゃあまた最悪の再会だな。